【其の五】
旧校舎から戻ると、教室には祥吾の元へと訪ねてきていた三人がいた。
「なにか、分かった?」
祥吾の姿を見た葵が駆け寄り、言葉を発した。祥吾は席に着くと、大きなため息を吐き出し語り出した。
「あんたたちが言った通り、あそこは呪われている。恐怖や悲しみといった感情が渦巻いていた……。でも、これだけじゃ分からない。もしかしたら、今日も謎の女に追い掛けられるかもね」
祥吾の言葉に、息を呑む三人。皆昨日の出来事を思い出しているのだろう。不安そうな表情をしている三人を尻目に、祥吾は席から立ち上がると教室を出て行った。
「結局なんの解決もしてなくね?」
司が二人の顔を交互に見ながら口を開いた。
――確かに何も解決はしていない。でも、祥吾君がいれば何とかなる気がする
葵は不安とは別に祥吾がいればこの件もいずれ解決するのではという淡い期待を持っていた。
****
学校から帰宅し、葵はベットに膝を立てて座っていた。只今の時刻二十三時四十五分。いつもならば食事を済ませ、ベットで横になっている時間帯なのだがとてもじゃないがそんな気分ではないのだろう。
――また、あの女に追い掛けられるのかな
葵は恐怖で心が押し潰されそうなほどに追い込まれていた。顔を
時計の長針と短針が頂上で合わさった時、葵の頭の中で例の声が聞こえだした。
”私の身体を探して”
「いやあぁぁぁ!」
両耳を手で押さえ声を聞かないようにしていたが、何度も頭の中で声が木霊している。
急に葵の意識は朦朧としていき、姿勢を保っていられずにベットの上に倒れ込んでしまう。
****
「······んっ」
葵は目を覚まし、周りを確認する。昨日とは違い今度は教室で寝ていた。
「やっぱり······また始まるんだ」
不安な表情をしている葵は、恐る恐る教室から廊下を確認する。廊下に光はなく、先が見えない。
周りを警戒しながら廊下を歩く。あまりにも暗いので、葵は携帯のライトを使用して照らしながら歩いていた。
いつどこであの女に遭遇するか分からない恐怖で、葵の足が思うように前へ進まない。
――なんのために、こんなことしてるんだろ?
葵は疑問を抱く。何故自分が夜の学校にいて、謎の女に追い掛けられなければならないのか、その女の正体はなんなのか、謎のことが多すぎる。
「きゃぁぁぁ!!」
「!?」
考え事をしていた葵の耳に、女の悲鳴が聞こえる。
「梨子!?」
その悲鳴は梨子のもので、三階から聞こえてきた。葵は恐怖よりも梨子のことが心配になり、悲鳴が聞こえた三階へと駆け出していた。
二階から三階へ行く階段の踊り場には、鏡があり血文字で四の数字が書かれていた。葵は目の端でそれを捉えるも、梨子を優先して三階への階段を駆け上がる。
階段の頂上まで来たところで、葵は何かにつまづき転倒してしまう。
「い、たぁ······なに?」
後方に視線を動かすと、右腕のない梨子の姿が。
「梨子!?」
葵は梨子の元へと駆け寄り、身体を揺さぶるが反応がない。あの女にやられたんだと葵は咄嗟に思った。
「キャハハハ!!」
また不気味な笑い声が聞こえてきた。顔をひきつらせながら、笑い声が聞こえる方へと耳を傾ける。
「二階からだ······」
先程まで葵がいた二階からあの笑い声が聞こえてきていた。
梨子を置いて葵は廊下を駆け出した。
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