【其の二】
葵は現在自身が通う高校の校舎の一階廊下にいる。外に出る為葵は、周りをキョロキョロしながら昇降口ホールを目指して歩き始めた。
一階にいたため、昇降口ホールにすぐ着いた。扉を開けようとしたが、扉はピクリとも動かない。
「……開かない、なんで?」
扉の鍵が掛かってないか葵はしゃがんで確認するが、閉まっていないと分かると立ち上がり、腕組みをして考え込む。
――学校から帰って、シャワーを浴びて、ベットに横になった記憶はある……。そういえば、寝る少し前に何かが聞こえたような?なんだっけ?
「キャハハハハハ!!」
「……!?」
――なに!?今の笑い声?
葵が考え事をしていた時に、不気味な笑い声が近くから聞こえてきた。女の笑い声なのは分かるが、何故笑っているのか今の葵には分かるわけもなく、恐怖を感じ笑い声とは反対方向へと走り出したのだった。
無我夢中で走る葵の額には、汗が浮かび上がっていた。二階に続く階段を駆け上がり、息を切らしながら廊下を走り抜けた。
――なんで!?これだけ走ったのに……引き離せない
かなりの時間葵は不気味な笑い声から逃げていたが、笑い声が遠ざかっていくどころか徐々に近づいてきていた。
「キャハハハハハ!!」
恐怖で足が震えるのを必死に堪え、葵は近くの教室に飛び込んだ。
隠れる場所を探して教室内を見回す葵は、教卓が視界に入り咄嗟にその下へと隠れる。
葵は身体を震わせながら笑い声が遠ざかっていくのを祈っていたが、無情にも笑い声は葵が入った教室の前で止まる。
ガラガラ……!!
……ヒタヒタヒタ!!
笑い声の主の歩く音が、次第に葵の方へと近付いて来ていた。
――どうしよう、どんどんこっちに近付いてくる……。
葵は声を押し殺しその場をやり過ごそうとする。身体が小刻みに震えている。震えを抑えようと両手で身体を包んでいるが、震えは止まらない。
ドンッ――
葵の上から物音がして、心臓が早鐘を打つ。声が出そうになるのを、葵は両手で口を覆い必死に堪える。何かが見ている気がした葵は、視線をゆっくりと動かすと
”み~つけた”
両の赤い瞳が葵をとらえている。不気味な目、不気味な声に葵は泣きだしそうになる。ニタっと笑うと血まみれの細い腕が葵の左腕をガシッと掴んだ。
「ひっ……」
思わず葵の口からは声が漏れた。葵の恐怖が頂点に達した瞬間、血まみれの細い腕が葵の左腕を引き千切っていた。
――なにこれ!?痛い……
急激な左腕からの痛みに顔をしかめる葵。想像以上の痛みに葵の意識が遠退いていく。深い深い闇の底に……。
葵が最後に聞いたのは、女の不気味で甲高い笑い声だった。
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