第28話 人間と妖怪


 そこは古い日本家屋が多く、町並みも統一された所だった。

「俺もそんなに人混みは好きじゃないんだ。でも今ならこういう所もいいかなと思って。なあ、俺はこんな風景が記憶にあるけど、お前たちみたいに若い世代も、こういうところ「懐かしい」って思うんだろう? 」

「うん、何だか落ち着くよ。不思議だね」

「まあ、でも昔は汚かったけどな」

「知ってる。東京オリンピックの前は川がゴミだらけだったって聞いたよ」

「そういうこと、日本もきれいになった、ああ、天気も何とか持ちそうだな」

曇り空から、くっきりと新鮮な青い空が見えた。お土産屋さん、内部を見学できる古い商家、そしてお茶屋さん。デザートも出すのだろう。店の外のベンチに、一人お母さんくらいの年の女の人が座り、それは美味しそうに、ニコニコと楽しそうに食べている。その姿がちょっと年齢とミスマッチのような気もするが、見ているこちらも幸せになるような笑顔だ。すると彼女は急にこちらを向き

「あ! コリコ!! こっちこっち!! 本当にありがとう!! 

コリコ!! 今この国パラダイス!! まさにお菓子の国!! 」

大きな声で僕らを呼んだ。

あまり人がいなくて幸いだった。コリコも苦笑いしたけれど、僕はすぐに口元がゆるんだ、そこでコッソリと

「もしかしたら・・・あの人が・・・かしがじ?? 」

「そういうこと、会いたかったんだろう? お礼を言いたいって言っていたから」

あのコリコにあった日のお菓子は、妖怪かしがじからコリコに送られてきたものだった。


 コリコはあまり妖怪の話はたくさんしなかったけれど、特に仲の良いこのかしがじの事は楽しげに話してくれた。

「ほら、時々とてつもないまずい味の菓子があるだろう? どうしてこんなものが出来たんだってヤツ。大分前あっただろう? スペリオールパクチー味とか・・・」

「ああ、あった、あった、僕の小さい頃だよ。今みたいにパクチーが浸透していない頃で、中高生が学校に持って行って大問題になったって」

「あれが、かしがじの仕業、そう仕向けたんだそうだ」

「開発者の発想じゃなくて、妖怪の悪戯なの? 」

「まあ、本人がそういうから、話半分だけど。でもヒットした菓子とかもあるんだ。開発に加わっていたから、今でもお礼に送られてくるらしい。肩書きは「お菓子研究家」で業界ではまあまあ有名なんだそうだ」

「へえ、会ってみたいな、いつか」

「でも忙しいからな、何かと」

それをコリコは覚えていてくれた。


「こんにちは、真日君ね、コリコがお世話になっています」

「何だよそれ」とコリコは言ったけれど、まあそう言うシュチュエーションが普通の見える三人だった。

「まあ、座って! 今日は私がおごるから。好きなもの選んでね、遠慮しないで! 」するとお店の人が

「サービスは本人だけだぞ! 」と楽しげに言った。


「もちろんよ、ご主人、これからのためにも!! 」


妖怪の中でも稼ぎ頭で、悪戯好きの優しい人という噂通りだった。


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