第16話 細い入り口
僕は教会の短い階段を、靴音を立てないように登った。
「階段もかなり勢いよく登っていたんだろうな」
音だけで判断したことだったけれど、僕は更にゆっくりと教会の木の扉に近づいた。
この古い扉は実はいつも少しだけ開いている。開閉の階数を減らしたいためなのか、換気のためなのかわからない。でも一人が横向きになるとすっと入れるくらいの広さだから、僕はそっとのぞき込んだ。
まだ明るい日差しが教会の上の方から注ぎ、中央の十字架の前で、制服のスカートのまま跪いて祈っている後ろ姿は、見たことのないほどきれいで、清楚な光景だった。
でもその体からは、悲しさとは違うものを感じた。
椅子には誰も座っていなかった。この教会は決まった日にしか神父さんは来なくて、普段は建物の管理の年配者が、外を掃除していることが多い。
今日はその姿も見ていない。彼女もそれを知っているのだろう。何かをもごもご言っている声が、次第に大きくなっていった。
「私は・・・後悔していません。人の心をもてあそんで踏みにじったことは大きな罪になることもわかっています。でも、そうすることで、無実の人を、善良でやさしい男の子を救えたのであれば、何の後悔もありません。
もちろん昨日のことで全部上手く言ったとは思いませんが、教室の雰囲気が元に戻って、楽しくなったと聞きました。
神様・・・この罪は私が背負います。どうか・・・このまま彼らを過ごさせてください」
その彼女の声を聞いて、気が付いたら僕は彼女の横で、同じように膝をついていた。
「神様、悪いのは僕です。彼女は人のために勇気を持って行動してくれました、しかも何度も。僕は自分自身のことなのに、はっきり「止めてくれ」ともいえませんでした。それが物事を悪くしたのだとわかっています。
神様、今日僕は久しぶりに、本当に楽しく学校生活を過ごせました。
彼女のおかげです。僕は一生この感謝を持ち続けます。それはあなたに誓います。どうか彼女を罰する事などありませんように」
「真日君・・・」
そう言って僕を見つめた、美しくて大きくて、涙で潤んだ美しい瞳。
自分の細い指ですっと涙を拭った姿を、一人締めすることがもったいないような気がした。
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