第12話 女神と一匹オオカミ

僕は今日みんなに


「おはよう」


と大きめの声で言ってみようと思った。それは

「お前の声なんて聞きたくないんだよ! 」

というクラスメートがいたからだ。実はこの男子生徒に僕はちょっと憧れていた。大体一人で行動して一匹オオカミのようで格好良かったからだ。だから人をいじめることなんてしないと思っていた。

それが、急にいじめる仲間に入り、むしろ今は中心人物のようになっている。体も態度も、元々大きいので、誰も逆らうことは出来ない。

彼がそうなってしまったのも、僕が悲しい理由の一つだった。

そうしてもう一つ大きな理由、それは彼が仲良くしている、女子のことだった。


 彼女が好きだという訳ではない。というのもあまりにも高嶺の花過ぎるのだ。同級生なのに大人びていて、凜とした美しさがある。どの子も、側にいると「引き立て役」にしか成らないほどなのだ。他校からも、時々モデルクラブの人も校門の外で待っていることがある。


 しかも彼女の美しさは、いじめを止めさせる力まである。

僕を今いじめているグループは、入学と同時にある女の子を「標的」にした。それに対し彼女は真っ向勝負をし、いじめている子の家に行って「あなたの娘がクラスメートをひどくいじめている、親としてどうにかして欲しい」と言ったそうだ。

 突然美少女からそう言われた親は、面白いことに我が子を「叱った」そうで、いじめは止んだ。これ以降、彼女を「女神」と呼ぶ生徒もいる。でもその後別の親たちが色々言い始め、彼女といじめグループはクラス分けで別々にされた。


その結果が、僕なのだ。


僕は彼女に助けを求めに行くほどの面識はないし、それはあまりにも格好悪すぎる。そして僕はショックな光景を目の当たりにした。


仲良く話す「女神と一匹オオカミ」

それを何度か僕も見て、他の生徒も、クラスの中でも話題になった。

僕にとっては信じたくない事実だったけれど、そのことでほんの少しだけいじめが減ったことだけを喜ぶしかなかった。


そして教室のドアを開ける直前、僕は深呼吸をして


「おはよう」


とちょっと自分でもびっくりするくらいの声で言ってみた。

僕は教室全体がざわざわして、妙な明るさになっているのに気が付いたけれど、それは僕の挨拶が原因ではなさそうだった。

本当に久しぶりに、一人の男子生徒が僕の所に近寄ってこっそりと耳打ちし


「その大きめの挨拶は嫌みかも」ととても明るく言った。

「え? どうして? 」

「ああ、知らないか、ちょっとちょっと」

と教室の隅に連れて行かれてどうなることかと思ったら


「あの・・・ごめんな・・・味方してやれなくって・・・本当にごめん」気が付いたら数人の男子が僕を取り囲み、その周りにも素直そうな、優しそうな女子生徒がいた。彼女、彼らは僕にいじめを「かぶせてくる」人間たちでは全くなかった。


「いいよ、どうしたの? 僕に味方すると・・・」

と言いながら気が付いたのは「いじめグループ」が教室にいないことだった。



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