第4話 嫌な嵐
「なつかしいな、二年になるかな。真日がすごく成長しているのがわかるよ」
「本当にありがとう、コリコ。今みたいな心でいられるなんて、正直あの時には思えなかった」
「あの時は・・・真日、おまえが本当に可愛そうだった。いっぱい、いっぱいで」
「だから、尚更あの動物が可愛く思えたのかもしれないよ」
「そうかもしれないな」
中学に入ってしばらくたった頃の、もしかしたらどこの中学でもあることだったのかもしれない。
コリコ出会ったその日、僕は家に帰れなかった。
それは靴が隠され、上履きで帰らざるを得なかったからだ。そして悪いことに、共働きで普段は家にいない母親が朝
「今日は休みを取ったから、夜はお前の好きなメニューにするわね」と楽しげに言った。
「そう、ありがとう」
「行ってらっしゃい、テスト前だから早いでしょう? 」
楽しげだった。
靴を隠されるのには、慣れてしまっていた。でも今日はテスト前で早く帰るから、そんなことはしないだろうと考えたのが、僕の甘さだった。
もちろん防御策もとった。でもそれが過ぎると逆に「本当に見つからない」ことになるので、結局、耐えるしかない。
「お前の靴、あの辺で見たなあ・・・」
「ハハハハハ」それが僕の学校生活の一部だった。
意地悪なグループには男子も女子もいる。でも標的は一つ、つまり一人がいいらしく、急に「僕」になってもう半年以上がたった。
「テスト前だから、わざとなのか。意地が悪すぎる」
始めて人を憎むという気持ちを、僕は彼らから教えてもらった。
親に相談することは、しなかった。心配をかけたくないということがあったし、どこかで「自分が何とか出来るはず」と思ったからだった。でもそれは「根拠のない自信」だったのかもしれない。
たった一人の理科室掃除も、トイレ掃除も、耐えられはしたけれど、クスクスとわざと聞こえるような悪口を絶えず浴びせられるのは、その度にお腹に何か黒い物がたまっていくような気がした。
僕は一人っ子なので、三人で食卓を囲むと
「どうしたの? 最近食が細くなったわね」母親が言うようになった。
「何でも無いよ、今は食べたくないだけ」
「ああ、むらがあるんだろうな、成長期だから。お父さんもそうだったから」
家にこのことを持ち込みたくなかったのは、僕にとっては安心できる場所であったからだった。
毎日嵐の中に行き、意地悪な人間の笑い声を聞き、彼らの部活の顧問の先生と、楽しく談笑している様子を見た。
僕にとって、この中学のどこにも味方がいなかった。
自分がいじめられたくないからという理由を掲げるしかないクラスメイトを、ひどく責めるつもりはないけれど、
「正しいことをやることは勇気がいる」と、この小さな中学校で本当に思った。
同じような孔子の言葉で
「義を見てせざるは 勇無きなり」
というものがあると教えてくれた担任の先生に
僕は「不信感」しか持てなかった。
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