第101話 魔物サンドバッグ道場(裏)
「ふんふんふーん」
「な、なによっ! ここはどこなのっ?! 私はどこに連れてこられたのよぉっ!」
記憶を思い出したところでまったく意味がなかったシャウラは、泣き叫んだ。
凍らされた後、別の場所へ運ばれてしまったらしいので、結局自分が今どこにいるのか分からない。
「は、はやく……早く逃げないとッ!」
シャウラは自身の身体を透過させて拘束を解こうとする。
「なんでよ……どうしてできないの…………っ?!」
しかし、能力を発動させることが出来なかった。
何度試しても、体が透過しないのである。
「ふんふーん」
そうこうしている間にも、足音と鼻歌はどんどんとこちらへ近づいて来ていた。
「は、はやく透過しなさいよぉッ! 早く早く早くッ! 何か来ちゃうからぁッ!」
大粒の汗を流しながら、何度も何度も透過を試みるシャウラ。
――その時、正面にあるこの部屋唯一の扉が、ついに開かれる。
「……! あなたはっ!」
そこに立っていたのは、ギルタブリルだった。
「よ、よかった……助けに来てくれたのねっ!」
シャウラは安堵し、脱力する。
「私、能力が使えないみたいなの。あなたがこの縄を解いてちょうだい」
「……………………」
しかし、彼からの返事はない。
「ギルタブリル…………?」
「ごばぁっ」
刹那、ギルタブリルは口から血を吐き出してその場に倒れ込んだ。
「え」
「げーむおーばぁ……!」
そして、その後ろから、返り血で真っ赤にそまった兎――変態殺人鬼のホワイトが姿を現す。
「は……? だ、誰よあんた? 魔物……なの……?」
「今はねぇ、みんなで『楽しいかくれんぼ』をしていた所なんだ。ルールは簡単で、僕かサメちゃんに捕まったらゲームオーバー」
「げーむ……おーばー……?」
「そう。僕の天使が教えてくれたんだ! 『ゲーム』っていうのは、とっても楽しい遊びのことでね、『ゲームオーバー』は死ぬことなんだよぉ!」
「な、何を言っているの……? 意味が分からないわ……!」
「僕は天使の為にゲームを作ってあげたんだァ……!」
「はぁ?」
気色悪い笑みを浮かべながらゆっくりとシャウラに近づいていくホワイト。
「い、いや……ッ! 来ないでッ!」
「キミも、目が覚めたなら早く逃げてねぇ。次この部屋に来た時、まだ残ってたら、捕まえちゃうよぉ!」
彼はシャウラの耳元でそう囁いた後、その耳を食い千切った。
「いやああああああああああああああッ!」
痛みのあまり絶叫するシャウラ。血が勢い良く噴き出し、その後で、齧られたはずの耳がゆっくりと再生していく。
「ああああ?!」
その再生速度は、彼女の自己治癒力を遥かに上回っていた。
「あ……ぁ……! なんで……こんなすぐ治るのぉッ?!」
「おっといけない。僕としたことが、縄を解き忘れていたんだね! これじゃあ逃げられなくて当然だ!」
ホワイトは楽しそうに言いながら、シャウラの縄を解いた。
「……な、なんなのよ」
「うん?」
「どうなってるのよこの場所はぁッ!」
「ああ、『ステージ』の説明をしていなかったね! ここは――」
ここは、ホワイトの要望を元に増築された夜の魔物サンドバッグ道場。
その名も『魔物サンドバッグ道場(裏)』
中へ入れられた者は、決して抜け出せず、武器も使用できないこの空間で、頭のおかしい殺人兎と食人サメを相手に、夜明けまで逃げ続けるのである。
「ふ、ふざけないで……!」
ホワイトから説明を聞いたシャウラは、激怒して顔を歪ませる。
「ふざけてなんかいないさ。だって、みんなハッピーでしょ?」
「オ、オレ、クワレルノ……ヤダッ!」
その時、部屋の外からジュバの声が漏れ聞こえてきた。
「嘘はいけねぇぜ! 脂身たっぷりの美味そうなカラダしてるくせによお! 最低でも、普通の人間の二人分はあるその重量――実質カップルだな!」
「ク、クルナ……ッ!」
「シャアアアアアアアアアアッ! 一人でタプタプしてるカップルも例外なく俺のおやつだぜええええッ!」
「イ、イミワカンナああああああああああああッ!」
難癖をつけられ、とても理不尽な目に遭っているジュバの悲鳴と、咀嚼音のようなものが暫く聞こえた後、部屋の外は静まりかえる。
「ああ、僕も早く戻らないと! ――じゃあ、君も急いで参加してね! 待ってるよ!」
その悲鳴に触発されたホワイトは、シャウラの居る部屋を後にして、再び『かくれんぼ』へと出発した。
「あ……あ……あははははははははははははははッ!」
この世の終わりのような光景を立て続けに見せられたシャウラは、もはや笑うことしか出来ない。
「もういやだぁっ! おうちかえりたいいいいいいいっ!」
みっともなく泣きじゃくるシャウラ。
果たして彼女は、この極限状態で狂わずにいる事が出来るのだろうか?
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