第77話 不正ルート


 聖なる森を攻略するために必要な準備が全て整った、翌日の朝。


「おはようございます!」


 いつものように目を覚ましたルーテは、勢いよく高級なベッドから起き上がった。


「マルス! 僕は外に出かけるので、居なくても探さないでください!」

「…………んぁ? なんだ……また家出か……?」


 いきなりルーテに起こされ、寝ぼけながらそう問いかけるマルス。


「違います! 今日はお友達とダンジョン攻略ピクニックに行ってきます!」

「そっかー……楽しんで来いよー…………俺はまだ……眠い……ぐー」

「おやすみなさい!」


 それから、ルーテは二度寝したマルスを起こさないよう、静かに部屋の外へ出た。


「…………むにゃむにゃ……あけまる……はらへったー…………」


 ルーテを引き止めず呑気に夢を見ていたマルスは、この後イリアや明丸から怒られることになる。


 ――そして、勝手に遠出をしたルーテの方は、イリアと明丸に加えて、とばっちりを受けたマルスからも怒られることがこの時点で確定した。


 *


「到着しました!」


 アレスノヴァを使い、王都付近の遺跡までワープしたルーテは、元気よく外へ飛び出して言った。


「今日もいいグラフィックです!」


 ――聖なる森は、その名前とは裏腹に、封印された凶悪な魔物達が跋扈する禁域だ。


 この森を探索するには、王から特別な許可を貰わなければいけない。


 限られた優秀な冒険者のみが挑むことのできる、王国屈指の難関ダンジョン。それが聖なる森なのである。


 当然ルーテも、まずは王都へ行き、冒険者ギルドで探索の許可証を申請する必要がある。


 だが、特例で冒険者になることが出来たとはいえ、まだ子供である彼に許可が下りる可能性は限りなく低いだろう。


「出発します!」


 ルーテは王都には寄らず、ダンジョンへ直行した。


「今からとても楽しみですね!」


 しかし、わざと王都を無視したわけではない。


 アルカディアの王都は原作開始時点で大地の亀裂により壊滅状態に陥る為、探索の許可を得る必要が無くなってしまうのである。


 そのため、彼は現在の森が禁域であることを知らないのだ。


 かくして、王都による保護が一切無視された『聖なる森』は、ルーテの狩場へと変貌を遂げてしまうことになる。


 ――これが、王国で後々まで語り継がれ、様々な憶測を生むこととなる怪奇現象、『禁域魔物大量失踪事件』の真相だ。


 *


 時間をかけて平原を進んで行き、聖なる森の入口までやって来たルーテは、「危険、王からの許可なしに立ち入ることを禁ず」と書かれた看板を視界に入れることなく、内部へと不法侵入する。


 そして、『友情の鈴』を鳴らし、皆の事を呼び集めた。


「皆さん、ダンジョン攻略の時間ですよ!」


 すると、彼の周囲に六人の人間がワープしてくる。


「全てを漆黒に染める漆黒の魔弾、漆黒のスクイード。ここに漆黒の見参」


「水辺でイチャイチャするカップルは全員俺のおやつだぜぇーーーーーーーーーッ! ……ここカップル居なさそうだな」


「ェヌせでィクんエチーぁふおュく」


 大体いつも通りの登場を決めるシースルーの面々。


「あぁ、このクソ澄み切った青空を見ていると、心が洗われる気がしますわ〜!」


「あれ?! て、天使がみんな消えちゃった?! ……あ、一人居たぁ!」


「……空って、こんなにクールだったんだな。本当にかけがえの無いものは盗めないってことか。……へっ、我ながら陳「――こんにちは皆さん! まずは隊列を編成します!」


 ルーテはノックスが話し終わる前に、パーティの陣形を組み始める。

 

 ――ちなみに、半獣人化薬を飲んで動物に変身したトワイライト達だったが、現在はノックス以外、元の姿に戻っている。


 どうやら、無事に変身能力をマスターすることが出来たようだ。


「とりあえず……サメちゃんとワニちゃんは入れ替え要因としてここに置いて行きます!」

「えっ!」「えっ!」


 人間形態に戻れない二人が森の中をまともに移動することは不可能だと瞬時に判断したルーテは、冷酷にそう言い渡す。


「いざという時はもう一度鈴を使ってお呼びしますので、待機していてください!」

「え」「え」

「後衛は僕とスクイードさんが担当するので、ジェリーさんとホワイトさんとトワイライトさんは前衛をお願いします!」


 その後も、瞬く間に隊列を決定していくルーテ。


「さっそく探索開始です!」


 かくして、サメとワニがセットで森の入り口に放置される珍事が発生したのだった。

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