第65話 殴り込み
「た、大変です! みんなが迷子になってしまいました!」
三人が忽然と姿を消してしまい、あたふたするルーテ。
冒険者ギルドの近くにある路地裏や川の中を覗き込んで回ったが、ノア達の姿は見当たらなかった。
「どこにも居ません!」
どうすることもできなくなったルーテは、頭を抱えてその場に座り込む。
「迂闊でした……子供から目を離すとこういうことになってしまうのですね……!」
子守をするうえで大切なことを学び、また一つ成長したその時。
「何してるですか?」
背後から何者かの声がした。
「…………?」
振り返ると、そこに立っていたのはミネルヴァである。
「それが大変なんですミネルヴァ! ミネルヴァ達が迷子になってしまったんです!」
切羽詰まった様子で事情を説明するルーテ。
「ミネルヴァはここに居るのです」
一方ミネルヴァは、あっけらかんとして答える。
「…………居ますね。事件解決です!」
こうして、ルーテはほっと胸をなでおろすのだった。
「――随分と探しましたよ。一体どこに行っていたのですか?」
「近くから美味しそうな匂いがしたから、様子を見に行っていたのです」
「まったく、心配させないでください!」
「悪かったのです。ママにもこれをあげるから、機嫌を治して欲しいのです」
言いながら、足を生やした魚をかたどった謎のお菓子をルーテに差し出すミネルヴァ。
「……何ですかこれ? 見た事のないアイテムですね」
「マーマン焼きなのです! 中に『あんこ』が入っていて、甘くてとても美味しいのですよ!」
「なるほど……一体どこでこれを……?」
「通りすがりのマーマン焼き屋さんが売ってくれたのです!」
「怪しすぎます……!」
ルーテはそう呟きつつも、『マーマン焼き』を口へ運ぶ。
正体不明のアイテムはとりあえず使ってみるのが彼の流儀である。
「……それなりの美味しさです! HPが50くらい回復した感じがします!」
「意味の分からないことを言わないで欲しいのです」
呆れた様子のミネルヴァ。
しかし次の瞬間、彼女の口からとんでもない発言が飛び出す。
「そんなことより、ノアとレアはどこへ行ったのですか?」
「…………はい?」
「だから、ノアとレアはどこへ行ったのか聞いているです。ミネルヴァは二人の分も買ってきたのですが……」
「つまり、一緒じゃないという事ですか……?」
「そういうことになるですね」
――結局、何も解決していなかったのである。
*
「たのもー!」
なす術がなくなったルーテは、ミネルヴァを連れて再び冒険者ギルドへ突撃する。
「おいおい、またお前か……」
舞い戻って来た彼の姿を見た先ほどの男は、呆れ果てた様子でルーテに近づいて来た。
「また僕です!」
「ミネルヴァも居るです!」
「増えるな。――ここはガキの溜まり場じゃねぇんだ。さっさと出て行け」
そう言って、もう一度二人のことをつまみ出そうとしたその時。
「ななな、何をしているのですかっ!」
一部始終を遠くで見ていた受付嬢が、突如として受付のカウンターを飛び越え、ルーテ達のことをつまみ出そうとしていた男の元へ駆け寄って来た。
「ちょうど良いところに来たな嬢ちゃん。さっさとこのガキをつまみ出してくれ」
「ふざけないでください! 出て行くのはあなたの方です!」
男に向かって、はっきりと言い放つ受付嬢。
「お、おい……待てよ。いきなりそれは無いだろ? ……このガキ、一体何者なんだよ……」
「ガキではありません! このお方はルーテ様です! あぁ、ルーテ様に何てことを……!」
「ルーテさまぁ?」
「ルーテ様は、二年ほど前から各地の冒険者ギルドへふらりと現れては、普通の冒険者の手に負えない依頼を解決して去っていく、とてもすごいお方なんです!」
受付嬢の説明によって、ギルド中の注目がルーテに集まる。
「おいおい、あの弱そうなガキが……? 嘘だろ……?」
「いいや、噂には聞いたことがあるぞ! あまりにも規格外の強さを持っているため、特例で冒険者として認められているとか……」
「お姉さんのパーティに入ってくれないかなぁ……ぐへ、ぐへへへへぇ」
「誰かこの女をつまみ出しておけ」
遠巻きにルーテのことを眺め、ひそひそ話をする冒険者達。
「とにかく、ルーテ様に無礼を働いたあなたは即刻ギルドから――」
「ま、待ってください! 人は誰だって間違ってしまうものです。出て行く必要はありませんよ!」
「おぉ、あれほど失礼なことをされたというのに、何とお優しいのでしょうかっ!」
ルーテの寛大な心を目の当たりにし、涙を流す受付嬢。
「おいおい、何だこの茶番は」
「ママは年上のオンナに好かれやすいのです……腹立たしい限りなのです……むぎぎ!」
「お前、あいつのことママって呼んでるのか? どういう関係だよ……」
「うるさいのです!」
ママを取られたミネルヴァは、少しだけ機嫌が悪かった。
「こ、こほん。――それでルーテ様。本日は一体どのようなご用件で?」
気を取り直し、ルーテがギルドへ訪れた目的を聞く受付嬢。
「はい! 今から、この町の領主を襲撃したいので、『領主の館を調査せよ!』というクエストを受注させてください!」
「………………へ?」
色々と順番が逆転した要求を突き付けるルーテ。
「えっと、はい?」
「今からこの町の領主を討伐します! 悪い事をしている証拠は屋敷を探せば見つかると思います! なので、クエストを受注させてください!」
「ええええええええっ?!」
彼はこの時点で、ノアとレアが領主に拐われてしまったのだと決めつけていた。
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