第64話 港町へスペリア


 遺跡を抜けたルーテ達は、無事、港町に到着した。


 町の入口からは、ちょうど海を一望することができるようになっている。


「着きました! ここが、心地よい潮風が吹く港町『へスペリア』です!」


 記憶にあるこの町のNPCの台詞をそのまま流用して、そう説明するルーテ。


「わあ……! すてきな町だね!」

「うん…………!」


 ノアとレアは始めて見る景色に心を奪われ、目を輝かせる。


「サカナ人間が居そうなところなのです!」


 一方、ミネルヴァは元気良くそう言った。


「ミネルヴァお姉ちゃん、さかなにんげんってなに?」

「ぼくも知りたい」

「サカナみたいな顔をした人間のことなのです。お前みたいなかわいい子供をバリバリと頭から食べてしまうのですよ!」 


 ミネルヴァの話を聞いた二人の顔が、みるみるうちに青ざめていく。


「………………!」「………………!」

「――ミネルヴァが今考えたのです!」


 恐怖に震えるレアとノアに対し、能天気に言い放つミネルヴァ。


「まんまと騙されたですね!」

「これからは、ミネルヴァお姉さんの言うことは信じないようにする……」

「わたしも!」


 こうして、ミネルヴァは二人からの好感度を下げたのだった。


「まったく、二人の言う通りですよミネルヴァ。間違ったことを教えるのはやめてください! この町に潜んで居るのはサカナ人間ではなく、半魚人マーマンです!」

「騙される方が悪いのですよ! ……って、え……? 今なんて言ったですか?」


 思わず聞き返してしまうミネルヴァ。すると、ルーテはより詳細な説明を始める。


「この町の領主は、実は裏で秘密結社アンタレスと繋がっている魔物寄りの悪い人なんです! 彼の配下であるマーマン達は、普段は人の姿をしていますが、危険が迫ると正体を現して襲い掛かってきます! 子供だけでなく、大人もバリバリ食べてしまう危ない魔物なんですよ!」

「な、何を言っているのですか……?」

「――要するに、戦うかもしれない魔物の情報は正確に把握しておきましょうということです!」

「ほ、ほんとに居るですか……サカナ人間……?」

「サカナ人間ではなく半魚人です!」

「ひえぇ……!」


 衝撃的な事実を聞かされ、自分まで恐怖で震える羽目になるミネルヴァ。


「……今のうちに領主討伐のメインクエストをこなしておくのもアリですね。――とにかく、冒険者ギルドへ向かいましょう!」

「ま、待つのです! 置いてかないでほしいのですっ!」

「外って……やっぱり危ないんだね……レア」

「うん、家出するのはよくないね……ノア」


 ノアとレアは、外の世界の恐ろしさを理解するのだった。


 *


 ――それからしばらくして。


「皆さん、これが冒険者ギルドです!」


 先頭を歩いていたルーテはそう言って立ち止まり、前方の建物を指さす。


 彼が指し示す方向には、船のような形をした個性的な建物があった。


「陸なのに……船……?」


 ノアは首を傾げながら呟く。


「冒険者ギルドは、一目見て分かるように特徴的な形をしていることが多いという設定なんです!」

「そうなんだ。よくわかんないけど、面白いね!」


 奇妙な外観の冒険者ギルドに、興味津々な様子のレア。


「とりあえず、中へ入りましょう!」


 ルーテはそう言って、何のためらいもなくギルドへと足を踏み入れるのだった。


 ――入口から入ってすぐの場所は、ちょっとした広間になっていて、正面には受付が見えた。


 受付はいくつかに分かれていて、場所によって依頼の受注や報告をしたり、アッシュベリー商会やアッシュベリー銀行との取引をしたりすることが可能なのである。


 そして、受付の手前にある壁にはクエストボードが設置されていて、そこに様々な依頼書が張り出されていた。


 ルーテは慣れた様子で中へと進んで行き、依頼を眺める。


「さてと……どれを受けましょうか……」

「――おいボウズ、ここはガキの遊び場じゃねぇんだぜ?」


 するとその時、何者かが彼に声をかけて来た。


「はい?」


 ルーテが振り返ると、そこには戦士のような恰好をしたいかにもな姿の冒険者が立っている。


「早く出て行きな。ここは俺たち冒険者以外は立ち入り禁止だ」

「何を言っているのですか? 僕だって冒険者です!」

「面白れぇ冗談を言うじゃねぇか。証拠はあんのかよ?」

「あります! これです!」


 ルーテは、絡んで来た冒険者に自分の持っている冒険者カードを見せつけた。


「他の三人は冒険者ではありませんが、僕が特別にギルドへの立ち入りを許可しました。――なので、何も問題はありませんよね!」


 得意げな表情でそう宣言するルーテ。


「他の三人って誰の事だよ。お前……何が見えてんだ……?」

「はい…………?」


 男に言われたルーテは、首を傾げて周囲を見回す。


 すると、先ほどまでついて来ていたはずのミネルヴァ達の姿が、どこにも見当たらなかった。


「あれ? え?」


 ルーテは、ここに入る一瞬の間に、彼女たちとはぐれてしまったのである。


「……やっぱり怪しいボウズだな。そのカードも偽物だろ? 出て行け!」


 動揺していたルーテは、その隙に冒険者ギルドの外へとつまみ出されてしまうのだった。


「ど、どうしましょう?!」


 ――はたして、ミネルヴァ達はどこへ消えてしまったのだろうか?

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