第63話 初めての家出


「少し待っていて下さい!」


 ルーテは二人にそう告げた後、急いで孤児院へと引き返す。


「行っちゃった……」「行っちゃったね……」


 彼が中でバタバタする音がしばらく響いた後、玄関の扉が開いた。


「帰って来た……」「帰って来たね……」


 慌ただしく準備を済ませて戻ってきたのである。


「さあ、行きましょう! どこへ家出するつもりだったのですか?」

「さっさと白状するのです!」


 なぜかついて来たミネルヴァが、二人に詰め寄る。


「ど、どうしてミネルヴァお姉ちゃんまで居るの……?」


 困惑した様子で問いかけるレア。


「みずくさいのですよ二人とも! 面白そうなことをする時はミネルヴァおねいちゃんも混ぜるです!」

「面白くないよ! わたしたち、本気でなやんでるの……っ!」

「もちろん分かっているですよ! ――だからこそ、こうしてお姉ちゃんが付き合ってやるのです!」


 ミネルヴァは言いながら、レアの頭をぽんぽんした。


「――さてと、ノア」


 それから、ノアの方へ向き直る。


「ぼ、ぼく……?」

「話はなんとなく聞いたです。――その恋の悩み、ミネルヴァが簡単に解決してやれるですよ!」

「ほんとう……?」


 半信半疑のノアに対し、ミネルヴァは自信満々にこう言った。


「ノアがミネルヴァを好きになれば万事解決なのです! さあ、歳上のお姉ちゃんのみりょくに気づくですよ!」

「………………」

「ふふふっ! お前のじゅんじょーをミネルヴァが弄んでやるのです! さあ、お姉ちゃんを好きになって、甘酸っぱくて苦い思い出を作るが良いです!」


 どんと構えてそう宣言するミネルヴァ。


 ノアは、それを冷めた目で一瞥した後、ルーテに聞いた。


「でも……勝手に出てきてよかったのルーテお兄さん? 元からそのつもりだったぼくらはともかく……二人まで心配されちゃうよ……?」

「はい!」


 元気よく返事をした後、一呼吸置いてから続けるルーテ。


「明丸の枕元に『お夕飯までには帰ります』と書置きを残してきたので、大丈夫です!」

「それ……もう家出でもなんでもないよ……」


 ノアは困った顔で呟く。


「ムシしやがったですっ!」

「ノアをとろうとしないでーっ! ばかばかばかーっ!」

「い、いたた、や、やめるのですレアっ!」


 一方ミネルヴァは、怒ったレアにぽかぽかと叩かれていた。


 ――かくして、彼らの家出は始まったのである。


 *


「……では、どこへ行きましょうか?」


 孤児院を離れて人目につかない森の中へと移動したルーテは、ノア達に向かって問いかけた。


「僕としては、ダンジョン探索とか魔物牧場とか冒険者ギルドとかがオススメです!」

「それ……ルーテお兄さんが行きたいだけだよね……?」


 じと目でルーテのことを見るノア。


「まものぼくじょーってなんだろ……?」


 対して、レアは小さく首を傾げる。


「はい! 好きなものを選んで下さい!」

「まものぼくじょー……は何か危なそうだから……冒険者ギルドが良いかな」


 ノアは、本能的に一番安全そうな選択をした。


「冒険者ギルドは良いですよ! 依頼を受けて魔物を討伐したり、アイテムを採取したりして過ごしているだけで、悩みなんて吹き飛んでしまいます!」

「そうなのかな……?」

「それに、今のうちに仕事のやり方を覚えておけば、本格的に家出をする際に役立ちます!」

「そうかも……!」


 なぜか言いくるめられてしまうノア。


「じゃあわたしもそこが良い!」

「決まりですね。――というわけで、早速冒険者ギルドへ出発です!」


 ルーテは、アレスノヴァを取り出して言った。


 こうして、四人はなぜか冒険者ギルドへ行くことが決定してしまったのである。


 *


「到着しました!」


 ルーテは、転移ポータルから降りながら三人に告げた。


 ここは、アルカディア南西部の海岸沿いに存在する港町『ヘスペリア』付近の遺跡である。


 遺跡から最短で冒険者ギルドまで向かうことができるのが、このポイントなのだ。


「時間は有限です、急ぎましょう!」

「ま、待ってルーテお兄さんっ!」

「置いて行かないでっ!」


 そう言って、わき目もふらず走り始めるルーテ。


「まったく、やれやれなのです」


 ――この後、彼らは重大な事件に巻き込まれることとなる。

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