第50話 増え続ける犠牲者


「……私は……責任者をはっ倒して帰るわ」

「僕は朝ご飯の時間になるまでここを探索します!」

「ま、待ちなさい君たちっ! ――お願いだからっ!」


 ルーテとシャーディヤは、バシリアの制止を振り切って教団の本拠地へと侵入する。


 階段を下って地下へ降りると、そこは大広間になっていた。


「……無駄に広いわね」

「しかも人が居ません。何かあったのでしょうか?」


 本来であればこの場所でも信者とエンカウントするはずなのだが、今は静まり返っている。


 不思議に思ったルーテは、大広間を通り抜け、さらに下の階へと降りた。


 そこは通路になっていて、三方向に道が枝分かれしている。


「…………どこへ進めばいいの……?」

「偉い人の部屋は真っ直ぐ行ったところにあります」

「……そう。…………ありがと」


 珍しく素直に礼を言うシャーディヤ。


「ばかって言ったの……取り消してあげる……」

「――――――はい?」


 しかし、彼女の声はルーテに届いていなかった。


「み、見ろ! 侵入者だ!」

「だ、だが、二人は子供だぞ……?」

「構わんやれ! あれを見られたかもしれない!」


 おまけに、通路を通り抜ける前に、見回りをしていた三人組の信者に見つかってしまう。


「ま、待ってほしい! 我々はただ、ここへ迷い込んでしまっただけだ!」

「そんな言い訳が通用するか! 騎士の分際で子供を盾にするとは……我々に劣らず卑劣な奴だ!」


 酷い言葉を投げかけられショックを受けるバシリアだったが、信者達の様子を見てあることに気づいた。


「…………その慌てよう。やはり、何か見られてはいけない物でもあるのか?」

「――やれッ!」


 信者達は一斉に槍を構え、突撃してくる。


「やられるのはあなた達よ……お仲間が天才に気安く触れた報いを受けるがいいわ……」


 刹那、シャーディヤは先行して飛び出し、槍を華麗にかわした後で、信者の一人に向かって回し蹴りを放った。


「ぐはぁっ!?」


 首元に強烈な一撃を入れられ、あっという間に意識を刈り取られる信者その一。


「え……?」

「うそだろ……?」

「――大岩よ守れ、アルマ」


 そして、魔法によって自らの身体を硬化させた後、信者その二の腹部へ手刀による容赦のない突きを放つ。


「ごはぁっ!」


 派手にダメージを受け、口から血を吐き出して膝をつく信者その二。


 シャーディヤはすかさず顎を蹴り上げ、彼にとどめを刺した。


「……あと一人」

「ひぃ…………!」


 不穏に光るシャーディヤの目。


「風よ吹き荒れろ、ウェントス!」

「うわあああああああああああっ!」


 その時、ルーテが魔法を唱えた。


 信者その三は風によって吹き飛ばされ、全身に切り傷を負いながら、壁に叩きつけられて気絶する。


「人助けが出来ました!」

「…………私の獲物をとらないで」

「何故ですか? パーティを組んでいる間は全員に経験値が入るので、誰が倒そうと問題ありませんよ?」

「……凡人の言うことは……分からないわ」


 不機嫌な顔で呟くシャーディヤ。


「ええとですね。要するに、僕とシャーディヤさんとバシリアさんは運命共同体であるということです!」

「わ、私までっ!?」


 一番動揺したのは、二人を止めるために後ろから付いてきていたバシリアだった。


「な、なあ君達……。良い子だから……もう、こんなことはやめにしないか? それに、危ないから……」

「ここを探せば、攫われた人たちが見つかるはずです! だから僕を信じて付いてきてください!」

「うー……そういう事では無くてだね……」


 目を輝かせたルーテに迫られ、何も言い返せなくなってしまうバシリア。


「…………た、確かに……『あれを見られたかもしれない』という先ほどの言葉は気になる。だが――」

「バシリアさんは将来、立派な騎士団長になる人です! こんな所で立ち止まっていてはいけません! みなさんを救いましょう!」

「……………………」


 バシリアには、何故見ず知らずのルーテが自分に対して絶大な信頼を寄せているのか分からなかった。


 しかし、真面目な彼女には子供の言うことを、笑ってあしらうような真似は出来ない。


「私も……(命令違反でクビになる)覚悟を決めるしかないのか……!」

「はい!」


 ルーテに断言され、バシリアは観念したようにがくりと項垂れるのだった。


「……ん? あ、あなた達は一体――」

「黙りなさい」

「うぐぅッ?!」


 その時、近くの扉から出て来た事情を知らない信者その四が、シャーディヤによって速やかに処理される。


「次から次へと……不愉快ね」

「シャーディヤさん……原作をプレイした時から思っていましたが……一体何者なのですか……?」

「決まっているでしょ。……ミステリアスな……天才美少女よ」

「それ、自分で言ったらだめなやつでは?」

「あなたも黙りなさい」


 言いながら、近くに倒れていた信者その二の手を踏みにじって八つ当たりするシャーディヤ。


「ぐあああああああああああっ!」

「……これ、貰うわね。……拒否権はないわ」


 そして、持っていた槍を強引に奪い取った。


「武器を使うのは良いですが、なるべく殺さない方が賢明だと思いますよ?」


 ルーテは、そんな彼女に忠告をする。


「……なぜ?」

「騎士団のバシリアさんが見ているので、犯罪行為は普通に捕まります!」

「念の為言っておくけども、今君たちがしている事も犯罪行為だからね……?」


 バシリアの言葉が、虚しくこだまする。


「…………たしかに……騎士団に追われるのは面倒ね。……そもそも……私は自分の手を汚すようなことはしないけれど……」


 奇跡的に納得したシャーディヤは、槍の穂先を手刀で叩き折った。


「もはや、手で戦った方が強いのでは?」

「いいえ……槍の方が扱いなれているの……。それと…………物理的に手が汚れるのも不愉快……」

「どうしてこの人がプレイアブルキャラなのでしょうか……? やはり倒した方が良い気がします……」


 ルーテは思わずそんな疑問を口にしながら、シャーディヤの真似をして信者その三が落とした槍を拾い上げる。


「風よ象れ、ラミナ」


 そして、魔法を詠唱し、槍の持ち手の部分を細身の木刀へと加工した。


「……なによそれ、変な形」

「刀ですよ! 変じゃありません! かっこいいです!」

「…………変よ」

「か、かっこいいですよ!」


 敵地のど真ん中で言い争いが始まろうとした、次の瞬間。


「う、うあ、あああああああ」


 右側の通路の奥から、うめき声のようなものが聞こえて来る。


「な、何か来るぞッ! 気をつけるんだッ!」


 バシリアはそう叫び、剣を抜くのだった。

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