第49話 教団への入り口


「ここです!」


 ルーテは町を通り過ぎ、その先の入り組んだ地形にある、小さな洞窟の前までやって来た。


(この場所を探索すれば、きっと他の紅蝠血ヴェスペルティリオの居場所に関する手掛かりがつかめるはずです!)


 そんなことを考え、やる気をみなぎらせるルーテ。


「こんなところに……変態どもが寄り集まっているのね……気持ち悪いわ……」


 すると、隣にいるシャーディヤがそう言いながら、ゆっくりと洞窟の中を覗き込んだ。


 それからすぐ、むっとした表情でルーテのことを睨みつける。


「…………何もないじゃない……嘘つき……」

「入口は隠されていますからね。……僕も、ヒントが少なすぎて最初に見つける時は苦労しました……!」


 ルーテは前世の記憶を思い出しながら、しみじみとした様子で語った。


「はぁ……はぁ……待ってくれ……!」


 その時、後ろから追いかけて来ていたバシリアが、ようやく二人に追い付く。


「き、君達、どこまで行くつもりだい……? こんな町はずれまで来てしまったじゃないか……!」


 息を荒げながら、そう問いかけるバシリア。


 彼女は鎧を着こんでいるため、ルーテ達のように早く走ることが出来ないのである。


「安心してください! 目的地はここです!」

「こ、こんな何も無い場所で……一体何を……?」

「先ほども言った通り、僕はこの洞窟に潜むアンタレス崇拝教団を壊滅させに来たのです!」


 そう宣言するルーテ。


(本当は紅蝠血ヴェスペルティリオに関する情報を入手しに来ただけなのですが……先に教団を壊滅させて自由に動き回れるようにした方が手っ取り早いですよね!)


 彼はスキルを習得したのにも関わらず、隠密行動が壊滅的に苦手だった。ステルスゲームをする際は、敵を全て正面から蹴散らして進んで行くタイプである。


「……ところで、そのアンタレス崇拝教団とは、一体何のことなんだい?」


 するとここにきて、バシリアがそんな疑問を口にする。


「……色々な国の人を誘拐して、悪いことをしているという設定の教団です! 言ってしまえば、悪魔崇拝者の方々ですね!」


 ルーテはそう答えた。


「――――っ?! そ、それは……本当なのかい?!」


 唐突に衝撃的な事実を告げられ、困惑するバシリア。


「はい! ……表立って活動を始めるのは数年後なので、知らなくても無理はありません」

「私は知っているわ……この前、信者の奴に後ろから襲われて……路地裏へ連れ込まれそうになったから……ぐしゃぐしゃにしてあげたの……ひひひっ!」


 シャーディヤがルーテに同行した目的は、その時のお礼参りをする為である。


「……分かった。この場所の調査は後日、我々騎士団が行おう。君たちの情報提供に感謝する。……というわけだから、早くうちへ――」

「お断りします!」

「待ちなさいっ!」


 バシリアは、とっさに洞窟の中へ入って行こうとしたルーテの腕を掴んで引き戻す。


「……まったく……ここはガキの出る幕じゃないわよ……」

「君もだ!」

「あぅ…………」

「子供二名確保っ!」


 そして、どさくさに紛れて抜け駆けしようとしたシャーディヤのことも捕まえた。


「……分かっているのか? 仮に君達の話が本当であるならば、教団は人を攫っている危険な存在なんだぞ?」

「その通りです! 危ない教団は経験値――じゃなくて、壊滅させなければいけません!」

「とりあえず……責任者を引きずり出して……指を一本ずつ潰しましょう……」

「もういやだこの子たち……」


 弱音を吐くバシリア。


 ルーテもシャーディヤも、新米騎士の手に負える相手ではないのである。


「……待って。……誰かくる……」


 その時、何者かの気配を察知したシャーディヤが呟いた。


「――か、隠れるぞ!」


 バシリアは瞬時の判断で二人の腕をひっぱり、近くの岩陰へ身を隠す。


「二人とも私の後ろへ!」


 ――それから程なくして、灰色のローブに身を包んだ怪しい集団が洞窟の前へやって来た。


「見てください。あれがアンタレスの信者さん達です……!」


 小声でそう説明するルーテ。


 信者たちは、入口の壁の辺りを調べた後、ぞろぞろと洞窟の中へ入って行った。


「確かに、怪しいな……」


 その様子を眺めていたバシリアは、少しずつルーテの言うことを信じ始める。


「――もう大丈夫そうだ」


 どうにかやり過ごし、ほっと胸をなでおろすバシリア。


「……とにかく、君たちは帰るんだ。私が家まで……ってあれ?」


 その時、彼女は後ろに立っていたはずのルーテとシャーディヤの姿がないことに気付いた。


「ここの壁に……隠し扉を開けるための仕掛けがあったのね……」

「開きましたよ! さっそく悪の組織のアジトへ乗り込みましょう!」


 彼らは、勝手に教団への侵入を試みていたのである。


「な、なんですかあなた方は?! どうやって入口を?!」

「見張りの存在を忘れていました!」

「……口封じしましょう……」


 そして、即座に発見される二人。


「……ああ。入団希望者の方ですか? でしたら――」

「黙りなさい……」

「問答無用!」

「ぐあああああああああああっ!」


 早速、信者の一人が尊い犠牲となった。


「うわああああああああああああっ?! なななな、何をしてるんだ君達っ?!」


 少し目を離した隙にどんどんと状況が悪化していき、悲鳴を上げるバシリア。


「か、確証も無いのに襲撃するんじゃないっ! 君達のことを捕まえないといけなくなるぞっ!」

「望むところよ……」

「どうしてっ?!」


 ――彼女の災難はまだまだ続く。

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