第47話 天敵登場


「到着しました!」


 ワープが完了し、遺跡に着いたルーテは、いつものようにドアをこじ開けて外へ出る。


 そこには、広大な砂漠があった。どうやら問題なくエリュシオンに到達したようである。


「…………寒いです!」


 しかし、外はまだ夜だった。ルーテは思わず身震いする。


(来る時間を間違えてしまいましたね……)


 そう思い後悔するが、再びアレスノヴァの充電が完了するまでには、まだかなり時間がある。


(…………ここまで来てしまったのであれば、もはや進むしかありません!)


 だが、彼に「待機」というコマンドは存在していないのだ。


(とりあえず、まずは町を経由してから、その先の洞窟に隠されている教団の本拠地を目指しましょう!)


 こうして、ルーテは遠くに見える町へと向かって歩み出すのだった。


 ――しかしその時。


「…………まちなさい」

「うわぁっ?!」


 突如として何者かに足を掴まれそのまま倒れ込むルーテ。


「うぐ……な、何事ですか……?」


 どうにか上体を起こして背後を見ると、そこには、褐色の肌に長く伸びた美しい黒髪を持つ少女の姿があった。


 フェイスベールで口元を覆ったその少女の胴体から下は、なぜか砂の中に埋まっている。


「…………助けてとは言わない……身代わりになりなさい」


 ルーテの足をがっしりと掴んだまま、そう命令する少女。

 

「あなたは……!」


 一方、ルーテは彼女のことを知っていた。


「踊る天才魔術師……シャーディヤ……!」

「私のこと……知ってるの……?」


 ――シャーディヤは、ゲーム本編に登場するプレイアブルキャラクターである。


 槍の扱いと土属性魔法を得意とする、謎多き美少女という設定だ。


「星四です!」

「は………………?」


 基本無料のレジェンド・オブ・アレスは、課金要素としてキャラクターを引けるガチャが存在している。


 ゲームに登場するキャラをガチャで引き当てると、いつでも自由にパーティ入りさせる事ができるようになるというシステムなのだ。


 彼女も、ガチャで引けるキャラのうちの一人なのである。レア度はルーテの言う通り星四つだ。


「なによそれ……?」

「星五が最大なのでまあまあといった感じです!」

「理由は分からないけど……無性に腹が立つわ……」


 シャーディヤは不機嫌そうな顔で言った後、続ける。


「……まあ……なんだっていい……。早く身代わりになって……」

「あの、先ほどから言っている身代わりとは、どういう意味ですか……?」


 ルーテは、本編で登場するよりも幼い姿の彼女に問いかけた。


「屋敷を抜け出して土魔法の研究をしていたら……砂の中に埋まっていた魔物の種子を発芽させてしまったの……」

「なるほど。つまり、シャーディヤさんは今、砂の下で植物系の魔物に捕まっているわけですね!」

「…………ええ。……けれど……天才魔術師の私が……ここで気持ち悪い触手に巻き取られて死ぬのは惜しいわ…………だから……あなたが代わりに犠牲となりなさい……」

「お断りします!」


 事情を理解したルーテは即答し、自分の足を掴んでいた彼女の手をそっと引き剥がす。

 

「…………末代まで呪ってやる……」


 シャーディヤが恨めしそうに宣言しながら、ずるずると砂の中へ引きずり込まれていくのだった。


「――大火よ焼き尽くせ、イグニス!」


 ルーテは正面の地面に向かって火炎魔法を唱え、砂の下に居る魔物を炙りだそうと試みる。


「グオオオオオオオオオッ!」


 次の瞬間、耐えかねた魔物の叫び声と共に、シャーディヤを引きずり込もうとしていたツル状の触手が飛び出した。


 先ほどまで埋まっていた彼女の体は、今度は空中で逆さに吊り下げられる。


「…………さいあく」


 砂と、触手から滴る謎の粘液まみれになり、不愉快そうに呟くシャーディヤ。


「土よ吸い取れ……サブルム」


 彼女は呪文を詠唱することで触手を萎れさせ、自力で助かった。


 ルーテは、とっさに上から落ちてきたシャーディヤの事をお姫様抱っこで受け止める。


「自力でどうにかできるのであれば、僕を巻き込まないで下さい!」

「…………自分以外の人間が魔物に食べられるところを……一度見てみたかったの…………」

「…………! 人としてあり得ません!」


 シャーディヤはルーテに匹敵するレベルの人格破綻者だった。


「そうやっていい子ぶって……生意気なガキね…………」

「……酷いです! 最低です!」


 抱きとめたシャーディヤのことを降ろしながら、珍しく普通に怒るルーテ。


「あなたとは…………仲良くなれる気がしないわ……」

「僕も同じです! 許せません!」

「…………ばか」

「ばかって言うほうがばかなんですよ? 知ってましたか?」

「……うるさいばか」

「また言いましたね……! 取り消してください!」


 二人は仲良く子供同士の喧嘩をする。


「オオオオオオッ!」


 その時、攻撃を受けて激昂した魔物が彼らの前に姿を現した。


(ラフレシア…………!)


 中心部に捕食器官のようなものを持った巨大な花型の魔物を見て、ルーテは心の中でその名を呼ぶ。


(HPが無駄に高い割に、経験値がやたら少ない外れモンスターです……!)


 大いに落胆するルーテ。


 彼は砂漠の国の洗礼を受けていた。


「――逃げます!」

「…………私も連れて行きなさい」

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