第34話 迫りくる門限
「少々待っていたまえ」
ルーテにそう言い残し、部屋を後にするブラッド。
だが、それからさほど時間を置かずに戻って来る。
「待たせたね。……まずは手続きを済ませよう。ここに必要事項を記入してくれたまえ」
ブラッドはルーテに書類とペンを差し出して言った。
「分かりました」
頷きながら返事をし、言われた通りに書類への記入を済ませるルーテ。
「できました!」
「よし、後はこれを協会に送り付けて、問答無用で冒険者として認めるようせびれば手続き完了だ。――おそらく明後日くらいには協会側が折れて、私の元へキミの冒険者カードが届けられていることだろう」
「あの……お願いしておいて何ですが、本当に良いのでしょうか?」
「安心したまえ。私の権力があれば問題ない。……向こうも、誰のおかげであそこまで大きくなれたのかはよく理解しているはずだからね」
ブラッドは不敵にほほ笑む。
(……冒険者協会の人が不憫ですね。僕のせいですが)
それを見て、ルーテは心の中で思った。
「――それに、私はキミの能力を高く評価しているんだよ。……娘を拐った例の三人組は、ここら辺じゃかなり名の知れた犯罪者達だ。キミはそんな相手を難なく無力化させているからね」
「いいえ。詰めが甘くて最後に気絶してしまったので、改善点はまだまだあると思います!」
「……おまけに向上心もある」
ブラッドはおもむろに立ち上がり、部屋の中を歩き回りながら続ける。
「熟練の冒険者に匹敵する戦闘能力と、子供であるが故の無謀ともいえる行動力。……キミは実に素晴らしいよ。年齢を理由に冒険者として認めないことの方がどうかしているね」
「そ、そこまで言われると少し恥ずかしいです……過大評価ではないでしょうか……」
あまりにも褒められすぎたルーテは、恥ずかしくなり俯いた。
(ゲームを遊んでいるだけなのに褒められてしまうと……むしろ罪悪感が湧きますね)
むず痒い、何とも言えない気分に耐えきれず、体を縮こまらせるルーテ。
「謙遜する必要はないさ。自分の能力を誇りたまえ」
ブラッドはそんな彼の側へ近づき、さり気なく頭を撫でた。
「――私はキミのような逸材をみすみす逃しはしないよ」
「何か言いましたか?」
「…………おお! なんてサラサラな髪の毛なんだ! 娘といい、キミといい、若くて羨ましい限りだね」
「先生が綺麗好きなので、毎日お風呂に入らないといけない決まりがあるんです。入った所で能力アップ等のメリットは存在しないので、僕としては三日に一回くらいの入浴で十分だと思うのですが」
「駄目だ。お風呂にはちゃんと毎日入りなさい」
真剣な表情で念を押した後、ブラッドはこう続けた。
「…………そういえば、キミ達は孤児院から来たと話していたね。イリア君から聞いたよ。……ここら辺に孤児院は無いはずだが」
「アルカディアの西、ルクス村の近くにある孤児院から来ました!」
「……ふふふ。まったく、冗談を言って大人を困らせてはいけないよ。ここからアルカディアまで、どのくらい離れているのか知っているかい?」
「詳しい時差は知りませんが、昼が夜になるくらいです!」
「……まあいい。とにかく、あまり私のことを揶揄わないでくれよ?」
ルーテの話は一切信じてもらえなかった。
(アレス・ノヴァの存在を教えるべきでしょうか……? ――いいえ、まだそこまでの信用はできません。原作に登場しないキャラなので慎重に行きましょう)
考えた末、詳しい説明はしないでおくことに決める。
(……というか、そろそろ帰らないとまずいのでは!?)
そこでようやく、孤児院の門限に気付くルーテ。
「ええと、話しも済みましたし僕達はもう孤児院へ帰りますね! 明後日になったら冒険者カードを貰いにまた来ます!」
「待ちたまえルーテ君。今から帰るつもりなのかい? 今日はここに泊っても良いんだよ?」
「大丈夫です! ありがとうございました!」
ルーテはブラッドにそう告げ、一礼をして部屋を後にした。
(早くしないとまた外出禁止になってしまいます!)
大急ぎで屋敷の廊下を走るルーテ。
(ええと……こっちは今、真夜中ですから……今から帰ればどうにか間に合うでしょうか? 集めた宝石は秘密基地へ隠しておけば問題ありませんし……)
頭の中で考えていると、イリア達の居る部屋が前方に見えてくる。
「――ありました! あの部屋です!」
どうやら、今回は運よく迷わずに発見することができたようだ。
ルーテは勢い良く扉を開け、イリアとミネルヴァの姿を確認する。
「……あら、お帰りなさいルーテ」
「た、助けてほしいのですママっ! さっきからイリアがミネルヴァのほっぺを引っ張ってくるです! おまけに抱きつかれて苦しいのです! 吐くのです!」
「――助けません! とにかく帰りましょう!」
*
それからルーテ達は無事、門限前に孤児院へ戻ることができた。
しかし、雨の中を走ったせいで服がびしょ濡れになったため、結局先生に怒られてしまうのだった。
「はぁ……今日はなんだかどっと疲れてしまったわ……」
「おかわりなのです!」
「あなた……本当によく食べるわね」
「ミネルヴァは育ちざかりなのです!」
ちなみに、ブラッドの屋敷でたらふくご馳走を食べたミネルヴァは、孤児院の夕食も普通に元気良く食べた。
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