第27話 ラスボスの力


「さあ、大人しくミネルヴァにやっつけられるです!」


 ゴーレム達の前へ真っ先に飛び出したミネルヴァは、自信満々に胸を張る。


「………………ズズッ……ズッ」

「むーっ……そこを動くなです……!」


 そして、一番近くに居たルビーのジュエルゴーレムと睨み合った。


 ルーテとイリアは少し引いたところでそれを見守るが、両者共に動く気配がない。


「……あの、何もしないとやられてしまいますよ?」

「い、今からやろうと思ってたです! ママは黙っていてほしいのですっ!」

「そうですか……」

「――さあ! ミネルヴァがぶっ飛ばしてやるから覚悟するですよ!」


 握りしめた拳を天高く掲げながらそう言い放ち、勢いよくゴーレムに殴りかかるミネルヴァ。


「ありゃあああああああああっ!」


 彼女の攻撃は見事にヒットし、こん、という音が周囲に響き渡った。


「……………………」

「だ、大丈夫ですか……?」

「……う、うえええええええええんっ! いたいのですぅっ!」


 ミネルヴァは涙を流しながらルーテの元へ逃げ帰り、抱きついて顔を埋める。


「ルーテ、やっぱりこの子に戦う力なんて無いわよ……?」

「と、とりあえず治療するので手を出して下さい」

「ひっぐ……はいなのですぅ……っ」


 涙目で赤くなった手をルーテに見せるミネルヴァ。彼女はとても弱かった。


「このままだと危険よ。……一度戻った方がいいわ」

「いいえ、その必要はありません。――見てくださいイリア」

「え……?」

「ゴーレム達の動きが止まっています!」


 ルーテの言う通り、ゴーレム達は一切動いていない。


 ミネルヴァが一人で攻撃して一人でダメージを負っただけだ。


「これは一体……どういうこと……?」

「『支配』の力です。モンスターに命令を下すことができるラスボス専用の特殊技能なのですが……どうやら弱体化していても問題なく使うことが出来るようですね!」

「ええと……要するにミネルヴァは魔物を操れるってこと……?」

「その通りです! 流石、イリアは理解が早いです!」

「や、やめてちょうだい……褒められると恥ずかしいわ……」


 ――ラスボスであり究極生命体であるミネルヴァは、雑魚モンスターを支配する力を持っている。


 モンスターに命令を下すことによって、一定時間動きを止めたり、同士討ちさせたり、低確率で即死させたりすることができるのだ。


(攻撃力は低いですが……おそらく大器晩成型なのでしょう。鍛え甲斐があります!)


 ルーテは心の中でそう考え、キラキラした眼差しでミネルヴァのことを見つめる。


「……さてと、これで痛くなくなったはずです」

「ぐすっ、ありがとうなのですママ」

「………………やっぱり慣れませんねその呼び方」


 そうこうしている間に、ルーテの奇跡によってミネルヴァの手の怪我は綺麗に治っていた。


「見て、ゴーレム達が動き出したわよ!」


 同時に、支配の効果が切れてモンスター達が再始動する。


「――作戦変更です! ミネルヴァはゴーレム達に動かないよう命令し続けてください! その隙に僕とイリアで殲滅します!」

「ぐすっ……分かったです……! あいつら許さないのですっ!」


 こうして、今度こそ本当にゴーレム狩りが始まるのだった。


 *


 それから少しして。


「止まるですっ!」

「流水よ押し流せ、フルーメン」

「旋風よ切り刻め、ウェルテクス」


 ミネルヴァが動きを止め、イリアとルーテが魔法による全体攻撃で一掃する。


 この連携により、広場のゴーレムは狩り尽くされていた。


 ルーテ達の足元には、ドロップアイテムである宝石の欠片や、金塊や銀塊が大量に積み上がっている。


 【解剖】は一人が持っていればパーティ全体のアイテムドロップ率が上がるので、誰がモンスターにとどめをさしても問題ないのだ。


「はぁ、はぁ……ひとまずゴーレムは居なくなったわね」

「はい! 二人ともありがとうございました!」


 ルーテは感謝の言葉を口にしつつ、懐から袋を取り出して散らばったドロップアイテムを集め始める。


「後はこれを売るだけです! 稼いだお金は三人で均等に分けましょう!」

「私はいらないわ。みんなの為に使って」

「……本当にそれで良いのですか?」

「だって、ルーテもそうするのでしょう? ――私も同じ気持ちよ。みんなのことを守りたいの」


 イリアは言いながらほほ笑んだ。


「ミネルヴァはお金欲しいのです! こっそり町に行ってお菓子買いまくるのです! その後ばら撒いて手下を沢山増やすです!」


 しかし、そこへミネルヴァが割り込んできて雰囲気をぶち壊しにする。


「……ルーテ。この子にもまとまったお金はあげない方が良いと思うわ。だって危ないもの」

「そうみたいですね……」

「そ、そんな?! 二人ともひどいのですっ!」


 話し合いの末、稼いだお金は全額孤児院への投資に使うことになったのだった。


 ――その後、三人は協力してドロップアイテムの回収を始める。


「イリア、こっちに来てください」

「どうしたのルーテ?」


 ルーテに呼ばれ、トコトコと近くへ駆け寄るイリア。


「……手を出してください」

「う、うん」

「お金の代わりと言っては何ですが、イリアにはこれをあげます」


 彼が手渡したのは大きなサファイアだった。


「……私にくれるの?」

「はい! 宝石には色々と特殊な効果があるので、持っていてください!」


 イリアはまじまじと宝石を見つめ、それからルーテに問いかける。


「……青い宝石を選んでくれたのはどうして?」

「イリアにぴったりだと思ったからです!」

「るーちゃん……!」


 イリアの頬が少しだけ赤らんだ。好感度が上昇したらしい。


(サファイアは装備していると魔力と精神力のステータスに上昇補正がかかります! 魔法をメインに立ち回るイリアには最適な装備であると言えるでしょう!)


 一方、ルーテにはそんな思惑があった。


「ありがとう……大切にするわ!」


 そうとは知らず、愛おしそうに貰った宝石を握りしめるイリア。


「……ミネルヴァも欲しいのです」


 その時、彼女の横からミネルヴァが顔を覗かせて宝石を強請ねだった。


「だ、だめっ! これは私が貰ったものなの……っ!」

「じゃあ別のでいいです。ママ、イリアと同じ色のヤツをミネルヴァに寄こすです!」

「そ、それもだめっ!」

「……なんでですか。イリアには関係ないのですよ! ミネルヴァにだけご褒美がないのはおかしいです!」

「そ、それはそうだけれど……その……だって……!」


 珍しくミネルヴァに正論を言われ、イリアは動揺する。


 彼女はルーテから貰ったという事実を独り占めしたいのだ。


「――そ、そうだ! ミネルヴァにはこれをあげるわ。だって、あなたには青より紫の方が似合っているもの!」


 言いながら、拾い上げたアメジストの欠片を強引に押し付けるイリア。


「なるほど……確かにそうなのです。イリアは見る目があるのです!」


 しかし、ミネルヴァは気に入ってくれたようだ。一件落着である。


「ええと……話が済んだようなので帰還しましょうか。拠点に帰るまでがダンジョン探索です!」


 そうこうしている間にドロップアイテムの回収を終えたルーテが、二人に向かって告げた。


「ええ、そうね。そろそろ孤児院に戻った方が良さそうだわ」

「ミネルヴァはお腹が空いたのです!」


 そして、三人で並んで帰ろうとしたその時。


「――待てよガキども」


 坑道の奥から声が響いてきた。


「だ、だれ……っ!」

「……見てたぜテメェら。随分と良さそうなもん拾い集めてたじゃねェか」


 三人の前に姿を現したのは、修道服を身に纏い、血の付いた短剣を手に持った女である。


「それ売ったら金になンだろ? だけどよォ、クソガキが必死こいて金稼いだって仕方ねーぜ? 全部悪い大人に奪われちまうからなァ」


 女は不敵な笑みを浮かべながら続けた。


「いいか、一度しか言わねえぜガキども。――死にたくなけりゃ、集めたモン全部置いて「経験値だぁ!」

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