第28話 中ボス狩り
「風よ
ルーテは即座に風の刃を生成し、戦闘態勢に入る。
「風よ舞え、アウラ」
そして自らの素早さを上昇させ、シスターへ向かって一直線に突撃した。
「…………は?」
あまりにも一瞬の出来事だった上に子供からの反撃を想定していなかったので、シスター――トワイライトは反応が遅れる。
その一瞬の隙にルーテは間合いへと踏み込み、≪一閃≫を発動した。
「――――っ!」
対して、反射的に短剣を振るうことで攻撃の軌道を逸らすトワイライト。
結果的に、胴体を狙って放たれたルーテの戦技は、彼女の両腿の辺りを斬り裂いた。
「ぐああああああああああッ!? いってェええええッ!」
トワイライトはその場で崩れ落ち、出血した腿を手で押さえて転げ回る。
一方、ルーテは彼女が落とした短剣を足で遠くへ蹴飛ばして制圧を完了させた。
――しかし、初撃を外して仕留め損ねたせいでまだ経験値を入手できていないため、彼の攻撃は終わらない。
「冥界の冷気よ、あまねく生者を不帰の眠りへと誘え」
ルーテは呪文を詠唱しながら、苦しみのたうち回るトワイライトの足首を掴む。
「くそッ! クソクソクソッ! やめろっ! やめろおおおおおッ!」
そして、にっこりと笑いながら魔法を発動した。
「――ヒエムス」
刹那、彼女の身体は下半身からゆっくりと凍りついていく。
「ひぃっ?! テメェッ! 何しやがったッ!? ふざけんなッ! ふざけんなガキがああああああッ!」
「……少しだけHPを調整します」
元気そうなトワイライトを見て魔法の威力だけでは倒しきれないと判断したルーテは、ついでに彼女の上に馬乗りになって顔面を数回ぶん殴った。
バキッ、バキッ、という乾いた音が鳴り響き、地面に血が飛び散る。
「うぐっ?! がはぁっ!」
「……よし! これでおそらくレベル32になれますね!」
「あ――――?」
次の瞬間、トワイライトの身体は完全に凍りつき、ルーテの経験値と成り果てた。
「討伐完了です!」
そして、宣言通りレベルアップするルーテ。
トワイライトの攻略法は回復する隙を与えないことだ。ルーテは、それに忠実に立ち回ったのである。
「ふぅ…………」
戦闘を終えたルーテは、服の埃を振り払って一息つく。
「るーちゃんっ!」「ままぁっ!」
そんな彼の元へ、震えながら一部始終を見ていたイリアとミネルヴァが駆け寄った。
「怖かったよぉ……っ!」
「おっかないおばさんだったのですぅっ!」
涙声でそう言いながらルーテに抱き着く二人。
「…………主人公候補とラスボスの方がよほど怖いと思いますが」
対してルーテは、素直な気持ちを述べた。
「ね、ねえ……ルーテ。この人……殺しちゃったの……?」
するとその時、イリアが足元に転がっている凍り付いたトワイライトを見て問いかける。
「――殺すつもりなら最初に首を狙っています。今回は軽く足を斬った後に凍らせただけなので生きていると思いますよ!」
「ほ、本当に……?」
「………………たぶん。調整を間違えていなければ」
「………………………………」
イリアがそれ以上追求することはなかった。
「……一歩間違えばミネルヴァもこうなっていたですね……よく考えたらママが一番おっかないのです……!」
ミネルヴァは事実に気付いてしまい、震えながらルーテの側を離れる。
「安心してください。ミネルヴァのことは大切な家族だと思っていますよ! それに、育てた方がメリットが大きいので経験値にはしません!」
「……なるほど、やっぱりミネルヴァは特別なのですね! 大好きですママぁっ!」
「よーしよしよし」
ルーテは再び抱き付いてきたミネルヴァの頭を優しくなでた。
「歪な関係ね……先生に相談するべきかしら……」
その様子を隣で見ていたイリアは、思わず呟く。
「――ですが、これで終わりではありません」
「………………え?」
「僕はこれから、近くに出現しているであろう『残りの二体』を狩ってきます。なので二人は先に戻っていてください!」
「な、何を言っているのルーテ……?」
「ここに中ボスのシスタートワイライトが出現したのであれば、他の二人も近くに潜んでいるはずなんです! そういう決まりがあるんです!」
「…………よく分からないわ」
いつも通り意味の分からないなことを言い始めたルーテに対して、首を傾げるイリア。
――シスターを含めた『賞金首』三人組は、ストーリーの中盤あたりで戦うことになる、本筋とあまり関係のない中ボスだ。
一度撃破した後も度々監獄を脱走するので、世界各地のダンジョンで稀にエンカウントするのである。
獲得経験値量が多い上に賞金も手に入るので、中盤から終盤にかけて積極的に狩られる存在だ。
中ボス三人組が出現するかの判定はダンジョンに入る度に行われるので、彼らとエンカウントするまで同じダンジョンを何度も出入りするプレイヤーも居る。
通称『中ボスマラソン』である。
「すぐに戻って来ます! さようなら!」
「る、るーちゃん?!」
「経験値! 経験値! 経験値!」
「ま、待ってっ?!」
現在が経験値獲得のボーナスタイムであることを理解したルーテは、嬉々として走り出すのだった。
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