第7話 致命的な勘違い


「うぅ…………?」


 ルーテが目を覚ますとそこは見慣れた森の中だった。


 近くで川の流れる音がする。


「良かった……目が覚めたんだな」


 彼のすぐ隣には、心配そうな顔をしたゾラが居た。


 どうやら、彼が気絶したルーテをダンジョンの外へ連れ出してくれたらしい。


「しなんしょ…………」

「目覚めて最初に言うことがそれ? ボクのこと何だと思ってるの……?」

「……ごめんなさい。お礼がまだでしたね。――助けてくれてありがとうございます」


 ルーテは我に返り、感謝の言葉を口にした。


「まあ、別にお礼もしなくて良いけど……。お前のことはついでに助けただけだし」


 ゾラは照れくさそうに言いながら立ち上がる。そして、近くに置いていた袋の中から二冊の本を取り出した。


「はいこれ。お前が持ってた変な本と、多分お前が欲しがってるやつ」


 ゾラは本を二冊重ねてルーテの頭の横に置く。


(やりました! 指南書ゲットです!)


 すぐさま起き上がってそれを確認しようとするルーテだったが、まだ体を動かすことができなかった。


「まだ動けないのか?」

「はい……そうみたいです。――僕知りませんでした。魔力を使いすぎるとこうなるんですね」


 ルーテはどうにか顔だけ動かして、ゾラの方を見る。


(魔力も体力と同じく、使い過ぎれば疲労が溜まって動けなくなる…………直感的には理解できますが……原作と仕様が違うのは少し不服です! 変えるならせめてチュートリアルくらい用意してください!)


 そして、心の中で文句を言った。


「まあ、無理はするな。動けるようになるまでは一緒に居てやるさ」

「感謝します。ええと……盗賊見習いさん」

「ボクの名前はゾラ。盗賊はもう辞めたよ……お前が壊滅させちまったからな」


 ゾラの言葉にルーテは驚愕する。


「ごめんなさい、少しだけお邪魔してすぐに引き上げるつもりだったんですが…………僕って実は結構すごいんですね」

「その通りだけどなんかムカつく」


 ゾラは自分の頬を膨らませながら、ルーテの両頬をつねった。


いはいれすいたいです

「ところでさ、お前は……名前なんて言うの?」

るーへれすルーテです

「るーへ?」

「ルーテです!」

「ふーん……ルーテか。確かにそんな感じの顔だな」


 そこで、ようやくゾラはルーテの頬から手を離した。


「まったく……僕が動けないのを良いことに攻撃してこないで下さい! 次やったら反動覚悟で魔法を使いますからね!」


 とルーテ。『レジェンド・オブ・アレス』では、魔力が底を尽きても魔法を使用する事が可能だ。しかし、その場合は代償として生命力――HPが自動的に消費されてしまうのである。


 そのため、魔法を使うことに恐怖心を抱いている者も多いのだ。


「ご、ごめん……そんなに怒るなよ……もうしないから……」

「いえ、今のはただの忠告です!」


 ルーテはそっぽを向く。彼は理由もなく触られるのが苦手なのである。


 イリアが隙あらば抱きついてくることに関しては諦めているが、本当は少しだけ嫌だった。


「なんだよ……怒ってんじゃん……」


 ゾラはそう言いながら、突然服を脱ぎ始めた。


「ぞ、ゾラさん? いきなり何を……!?」

「いや何って……逃げてくる途中で汚れちゃったから、川で水浴びしようと思って……」

「で、ですが……!」


 慌てて顔を背けるルーテ。


「――ああ、そっか」


 ゾラは納得した様子で呟いた後、服の下に巻いていた晒しを外して自分の胸を見せた。


「ほら、見ろよルーテ」

「えぇっ?!」


 突然膨らんだ胸を見せつけられ、困惑するルーテ。


「あの……ゾラさんは胸を露出するのが趣味なんですか……?」

「何でそうなるんだよ。見たら分かるだろ? 実はボク、女なんだ。でもそれだと舐められるからさ、男のふりしてたんだよ。…………あんまし効果なかったけど」


 そう話すゾラの服の下は、あざだらけだった。


「あ……ごめんなさい……」


 ルーテは彼女を気遣い、とっさに目を背ける。


「謝らなくていいよ。……とにかく、女同士なんだから安心して――」

「いや……ゾラさんが女の子でも、僕は男の子なので…………」

「へ?」

 

 突如としてルーテの口から告げられた衝撃的な事実に、ゾラは言葉を失った。


「えっ? あれ? うん?」

「確認……しますか? 本当は嫌ですが……それでおあいこということで……」

「………………!」


 ゾラは立ち上がり、ルーテの服を捲って胸を確認する。


「わっ……! そっちで……分かるんですか?」

「分かんない!」


 そして、顔を真っ赤にしながら叫ぶゾラ。


「え、何で?! お前女じゃないの?!」

「そんなこと言った覚えはありませんが……」

「だってそんな顔してんじゃん!」

「確かに、たまに間違えられますね……男の子にしては身長も低いし、筋肉も付きづらいし……とかく不便な体です。主に戦闘面で」

「うわああああああっ!」


 自分の勘違いを悟ったゾラは、逃げるように川へ飛び込んだ。

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