第5話 盗賊の隠れ家


 ルーテは前世の記憶を頼りにあっさりとダンジョンを攻略し、奥地にある盗賊の隠れ家まで来ていた。


(これは……攻略のしがいがありそうです!)


 森の中にひっそりと佇む朽ち果てた砦を見て、思わず息を呑む。


 しかし、今回の目的はあくまで【隠密】の指南書の入手。無駄な戦闘は避けるべきであることは、ルーテ自身もよく理解している。


(考えなしに突っ込めば良いというわけではありません。全滅しないように慎重を期すこともまた、ダンジョン探索の醍醐味。なるべく敵には見つからないようにしましょう)


 そう考えてゆっくりと砦のそばまで近づく。


 城壁の上に居る数人の見張りを確認したところで、ルーテはハッとした。


(だから、それをするには【隠密】が必要なのでは……?)


 またしても、【隠密】スキルを入手する為に【隠密】のスキルが必要であるという理不尽な状況に陥ってしまったルーテ。


(やはり、製作者の想定していない遊び方をするのはいけませんね。……この世界に製作者とやらが存在しているのかは知りませんが)


「な、何だあのガキ! 侵入者だぞ!」


 隠れ家じゅうに角笛の音が鳴り響き、侵入者ルーテの存在は盗賊全員に知れ渡った。


(思えば主人公として生まれ変われなかった時点で、僕は最初から詰んでいたのでしょう)


 ルーテは改めてそう理解する。普通の方法では、この通常プレイ不可かつコンテニュー不可の無理ゲーを攻略することなど出来ないのだ。


「こうなったら、全員僕の経験値になってもらいます!」


 所持していた魔導書のページをめくり、正面にある扉に向かって詠唱を始めるルーテ。


 その間にも、砦の上に居る見張りの盗賊達が弓矢で彼のことを狙っていた。


「風よ吹き荒れろ、ウェントス」


 次の瞬間、強風が吹き城壁に居る盗賊達がよろめく。


 ルーテはすかさず次の呪文を唱えた。


「火花よ散れ、シンティラ」


 すると今度は大きな爆発が起こり、盗賊たちと城壁の一部を吹き飛ばす。


(『常夜ニクスの隠れ家』攻略の推奨レベルは15……少々足りませんが、全くどうにもならないという訳でもありません。要するに、盗賊を全員経験値にすれば僕の勝ちです!)


 こうして、覚悟を決めたルーテは成り行きで盗賊団の殲滅に乗り出した。


「魔力がってくれれば良いのですが……」


 ルーテはそう呟きながら、壁に空いた穴を通って隠れ家の中へと入り込む。


「見ろ! 侵入者はガキ一人だ!」

「とっ捕まえてバラバラにしてやる!」

「いや、その前にどうやってここを見つけたのか拷問で吐かせろ!」

「ごちゃごちゃうるせェぞてめェら! まずはガキを引っ捕らえろ! 絶対に逃すなッ!」


 すると早速大勢の盗賊に出迎えられた。


 盗賊達は、ルーテを挟み撃ちにしようと両脇にある通路からにじり寄って来る。


(位置取りは完璧ですね)


 ルーテは魔導書を床に置き、通路に向かって両腕を広げた。


氷柱つららよ奪え、スティーリア!」


 刹那、ルーテの周囲にもやのようなものが発生し、向かって来ていた盗賊達の足を次々と凍り付かせていく。


「クソッ! な、何だよこれッ!」

「足がッ! 足がああああああああッ!」


 両脇の通路は瞬く間に阿鼻叫喚の地獄と化した。


 しかしその声もすぐに止む。盗賊達は皆ルーテの魔法で氷漬けになり、氷柱のような姿にされてしまったのだ。


 風を起こす魔法『アウラ』と強風を起こす魔法『ウェントス』、熱を発生させ一瞬だけ発火する魔法『シンティラ』、水を凍らせる程度の冷気を発生させる魔法『スティーリア』、ルーテが現在使える魔法はこの四つで全部だ。


 本来であれば、どれも戦闘で使用できるほどの効果はない超初級魔法である。


 だが、それを組み合わせて発動させることで、中級魔法に匹敵する程の威力を発揮するのだ。


(こんなに魔法を使ったのは初めてです……)


 襲って来た盗賊達を退けたルーテは、隠れ家の更に奥へと進もうとする。


 しかし、限界が近づいていた。


「あ、あれ……?」


 足元がふらつき、思わず壁に手をついてしまう。


(これが……魔力切れ……? でも、まだあと半分くらいは残ってるはずなのに……)


 ルーテはゲームとの違いに困惑していた。


 「魔力が減ることによって、身体にどのような影響が出るのか」という知識は持ち合わせていない。


 前世の記憶を頼りに、ゲーム感覚で魔法を使いすぎたツケが回って来たのだ。


(これじゃあ戦えません……一度戻らないと……)


 これ以上進むのは危険であると判断し、砦の外へ出ようとしたその時。


「ま、まてっ!」


 ルーテは、背後から何者かに声をかけられた。


 振り返ると、そこに立っていたのは赤髪の少年だ。その手には短剣が握られている。


 その姿を見て、ルーテはすぐに分かった。


(盗賊見習いだぁ……!)


 求めていたレアドロップを所持している可能性があるモンスターと遭遇し、ルーテの疲労は一瞬にして吹き飛ぶ。


「な、何だその目は! ぼ、ボクにこれ以上近づくつもりなら……容赦はしないぞっ!」

「見つけたぁ……!」


 お目当ての獲物を前にしたルーテは、にっこりと笑った。

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