ちょっとお姉さんの話

「おはようございます、おばあさん、お席どうぞ。重たそうですし、その荷物も持ちましょうか?」


「あら、ありがとね、聖花ちゃん。いつも助かるよ~」


「いえいえ、人助けは義務ですから!」



「あ、聖花ちゃんちょっとこれ……あ、でも会社の……」


「いえいえ、いつもお世話になってますし! そのくらい手伝わさせてください、まだ時間ありますし、急げば一瞬ですし!」


「ごめんね~、聖花ちゃん。いつもありがとう!」




 …………


「安海さん、この案件なんだけど……」


「あ、これ? これは、こうやって、ああやって……それでこうすればいいと思います!」


「安海さん! そのちょっと失敗……」


「大丈夫、それは私が対応するから! だから佐那ちゃんはゆっくり休んでて!」


「安海さん、これも……」

「安海さん、次の会議……」

「安海さん、この仕事も……」


「はい、わかりました、全部やります! 私に任せてください!」



 ☆


「大変だったね、今日は特に。なんだかいっぱい仕事押し付けられちゃってて……まあ、これもお仕事が出来る人の性かな? なーんて」


「もう、そう言うなら助けてくださいよ……大変だったんですよ?」

 お昼ご飯の時間、部長さんときた近くのラーメン屋さんで、気合が抜けたのか少しへにょってしまった。

 今日は一段とお仕事大変だったぁ……お昼食べるのも3時前になっちゃったし、お腹ペコペコだよ……朝ごはんもあき君作ってくれなかったし!


「こらこら、聖花ちゃん。そんな恰好したらダメでしょ、ここはお外だよ?」


「いやー、そうですけど疲れて……あれ? 部長さんが久しぶりに名前で呼んでくれました! なんだか嬉しいです!」

 部長さんの名前呼び……新入社員として入った時以来な気がする……!


「ハハハ、たまにはいいでしょ。今日はお疲れ、ってことでここは私の奢りに……まぁ、まだ午後もあるけどそれの景気づけという事で!」


「もう午後ですよ~……でもでもありがとうございますです! いただきます!」

 にへへ、部長にラーメンおごってもらえるなんて嬉しいな~、嬉しいな~!

 それじゃあ遠慮せずに……この一番高い奴! 美味しそうだし、炒飯もプラスで!


「ふふふっ、本当に遠慮しないな、聖花ちゃんは……それじゃあ注文するね。すみませーん」


 ぬふふ、最近はあき君と若葉ちゃんのお料理を結構食べる機会が多かったから……なんか外食久しぶりな気がする! 

 お寿司食べたけど……あれはあき君の家だし!

 たまにはこういうジャンキーな感じの外食もいいよね!




「……ところで聖花ちゃん。聖花ちゃんはこの会社だと私には本性見せてるって言うか、甘えたがりな所見せてる感じだけど……普段もこういう感じなの?」

 ラーメンをそわそわそわそわしながら待っていると、部長さんが少し苦笑いを浮かべながらそう聞いてくる。


 普段もこういう感じ、って……どういう感じですか?


「いやいや、なんというか……一部の人にだけ甘えるというか、普段はシャキッとしてるけど、気心知れた人には甘えるというか……そんな感じなのかな、って思って」


「なるほど、そう言う事ですか、ふむふむ……そうですね、確かにそう言う感じです。普段から結構甘えちゃってる人はいますね! というか、私は結構家では甘えてばかりですね……家の中まで完璧じゃ、しんどいし、壊れちゃいますから」


 あき君とか、あき君の彼女の若葉ちゃんとか……若葉ちゃんとはもうちょっとコミュニケーションがいる気もするけど、でもでも、もう結構甘えちゃってる気がするし。


 ていうか、色々あって実家追い出されちゃったから、あき君がいないともうほとんど生きていけないし、生命線だし!


「ふふふ、そうか……でも、家でも男子高校生を甘やかしてるんだろ?」


「え?」


「前言ってたじゃないか、あき君? だったけ、その子のお世話をしてる、みたいな話……もしかして本当はその子に甘えてるとか? その子に色々してもらってるとか?」


「いえいえ、そんなことは無いです! あき君は私がいないと生きていけないですから! だからあき君は、私が全力でお世話して、全力で甘やかしてます!」

 そうだった、あき君は私がお世話してあげてる設定だったんだ、いろんなところで! 若葉ちゃんにも部長さんにも……うむうむ、この設定忘れちゃダメぜよ!


「全力で甘やかしてるか……結局家でもそれなりに完璧なんじゃないの? 家でも外でも人のために色々出来て……やっぱり聖花ちゃんはすごいよ、上司として誇らしいです!」

 そう言って笑う部長さんに、私も笑みを返した。




 ☆


 ……ごめんなさい、部長さん。

 私少し、嘘ついてます。

 部長さんにも本当の本当は見せてないところ、ありますから。


 家でも完璧なんて無理です、誰かをお世話なんて今の私では到底できません。

 そんなことして、また壊れちゃったら嫌ですから。


 だから、私は家ではもう無理しないって決めました。


「あき君ただいまー!!! お姉さんお腹空いちゃった! ご飯作ってあき君!」


「……お姉さん、急に部屋入ってこないでください。一回自分の部屋に帰ってから……」


「良いじゃん良いじゃん! それよりお姉さん疲れちゃったからご飯作って! 早く、すぐに、いーまーすぐ!!!」


「……わかりました。食べたいもの作りますから着替えてきてください!」


「やった! それじゃあ今日は青椒肉絲が食べたいです! お願いあき君!!!」

 それに今は、ちゃんと私を受け入れてくれる人がいますから。

 だから全力で甘えます……見栄は張っちゃいますけど。



《あとがき》

 平安ステークスはオーベルニュ期待。

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