第33話 とことん付き合いますよ、今日は

「……ねえ若葉、いい加減機嫌直してよ。ほら、島田さんも困ってるよ?」


「……つーん、明良とはちょっとしかお話しませーん、なんて⋯⋯ふふっ」


「若葉さん、ねえ若葉さんやい。ごめんだってまた作ってよ」


「つーん……ふーん……ふふふっ」


 どれだけ話しかけてもつーん、という軽い返事しか返ってこない来ない若葉に、僕はため息をついた。


 お昼休みが終わって、午後の授業もサクサク終わって、気づけば放課後色塗りタイム。

 今日も今日とて、さっきからずっと「ほーん」と呟いてる島田さん筆頭横断幕の色塗りを手伝っているんだけど……お昼休みから若葉がずっとあんな感じなんだよね。


 早々ににへへといつもの笑顔になった先輩と違って、若葉はずっとむすん、とすねた感じで全然機嫌が直ってくれなくて。


「美味しかったよ、若葉のお弁当。美味しくて、パクパク全部ペロッと食べれちゃって……だからまた食べたいなぁ、って思ったよ~」


「……ぷすーっ、ぬへへ……つーん」

 少し耳のあたりを赤くした若葉だけど、でもやっぱり振り向いてくれなくて、話しかけてくれなくて。



「……どうしよう、島田さん! どうすればいいとかアドバイスとかありますかぁ?」

 だから「ほーん」と納得した様に頷いている島田さんに助けを求めることにした。

 若葉と付き合いの長い島田さんなら色々知っているはず、こういう時の対処法も!


「ほーん、なるほどね……ぬふふっ……こほん。そうだ、私の事も美香って呼んでくれ。もう友達だ、遠慮しなくていい!」


「あ、それじゃあ、美香ちゃんで……で、美香ちゃん先生、こういう時の若葉はどうすればいいとかありますか? 機嫌直して欲しいんですけど~」

 また「ぷすっ」と怒ったようなオーラを出す若葉の方をチラチラ見ながら、そう聞く。どうすればいいかわかんないんですけど。


「アハハ、この反応は、そうだね……これは怒ってるとかいうよりむしろ……」


「美香ちゃん! 余計なこと言わなくていい! 明良も余計な事聞かなくていいから!」


「ハハハ、怒られちゃったね! それで今の若ちゃんはすねてるとかと言うより……」


「だから美香ちゃん! もういいから! 作業集中!!!」

 何か言おうとした島田さんの後ろから飛んでくるのは若葉の怒り声。

 ありゃりゃ、完全に怒ってらっしゃる。


「……まあ、こういうケンカはドブネズミもヌートリアも食わないからね。ここは私は静観することにするよ! ハハハ、黙って見ておこうかな!」


「美香ちゃん! それも余計!」

 若葉の声を聞いた島田さんはそう言って豪快に笑う……なんだそのことわざ、げっ歯類のお食事事情は知らないんですけども。



「……ちなみに、若ちゃんは甘いものが大好きだからね」

 少し静かになった教室の中で、島田さんがこっそり耳打ちしてくる。

 甘いもの……甘いものか。


「そう、パフェとかケーキとか……そう言う感じの甘いものが好きだよ、よく一緒に食べてた。だから仲直りにはそれが最適だ……応援してるよ!」

 そう言って、パチッと大きくウインク。

 そっか甘いものか……ありがとう、島田さん。


「ふふっ、だから美香ちゃんで「ちょっと何話してるの二人とも! 内緒話しないで集中して作業しなきゃ終わらないよ!!!」


 言葉を遮る若葉の大声に、島田さんはクスクス笑って、

「ふふふっ、嫉妬深いお姫様が怒っちゃった。それじゃあ、邪魔者は少し黙ります……という事で頑張ってね、明良君」

「……ありがと、美香ちゃん」


「ちょっと二人とも! 内緒話しちゃダメ! もっと作業に集中してよ、二人だけでしゃべるのやだ!」



 ☆


 今日も今日とて、月がキレイな夜の街。

 十五夜は過ぎたけど、まだまだまん丸なお月様はキレイに空を明るく照らしてる。


「……ふーん……にへっ……」

 そして隣を歩く若葉はいまだに機嫌が悪そうなままで。

 表情とかは暗くてよくわからないけど、「私は不機嫌ですよ!」と言い聞かせるようなオーラがぷんぷん漂ってきている。


 ……機嫌直して欲しいし。

 甘いもの食べに行くか、この前のお礼もあるし。


「……こほん。あのさ、若葉。この後、スイーツでも食べに行く? その、この前夜ご飯作ってくれたし、お弁当も作ってくれたし……だから、なんかお礼したいな、って」


「……んっ!」

 ぴくっと若葉の肩があがる。

 これは良い感じかな? 


「一緒に行かない、今から。僕も今日疲れちゃって、何か甘い物食べたい気分だったし、誰かに付き合って欲しいなぁ、って……という事で一緒に行きませんか、若葉さん?」


「むんす、むんす……むん」


「若葉のおすすめのお店とか、行ってみたいかも。僕全然スイーツとかわかんないから、だから若葉が好きな味、僕も知りたいなー、って」


「むん……スイーツだけじゃヤダ。夜ご飯も一緒に食べてほしい、付き合って欲しい。最後まで一緒にいてほしい……えへへっ」

 ギュッと僕のブレザーの端を握って、そう言う若葉。

 暗い夜道に、笑顔がキレイに映える。


「わかった、夜ご飯も一緒に食べる。若葉様の仰せのままにいたします」


「ふふ、何それ……こほん、それでいいのですぞ、明良君! 明良は私のために! ハイ復唱! 明良は私のために! 私に付き合う!」


「はい、今日は若葉に付き合います!」


「にへへ、よろしい! 付き合ってもらうよ、本当に……にへへへ」

 弾けた笑顔のまま、そう言ってビシッと腕を上げる。

 機嫌治ったら何よりだ……それじゃあ、何か食べに行きましょ!


「それじゃあどうするですか、若葉さん? まずはスイーツから食べに行く?」


「ふふふっ、そこは任せて! どっちもいいお店知ってるから……だから今日はとことん付き合った貰うよ。私の好き、明良君にも好きになってもらうから!」


「……ふふっ、お付き合いしますよ、若葉さん」

 ルンルンと楽しそうに歩き出す若葉の隣を、僕も笑顔で歩き出す。



「ねえねえ、明日も明良のお弁当作っていい? 明良のお弁当、私が作っていい?」


「それは嬉しいけど……大変じゃないかな? お弁当作るのって時間かかるし」


「大丈夫、そんなの平気……だから、楽しみにしておいて欲しいな!」



《あとがき》

 オークスはライラックに勝って欲しい(オルフェ大好き)

 


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