日曜日、ベランダ 

 プルルルルプルルルル


「はい、もしもし、斉藤です。明良です」


【ふふふ、何の電話の出方。ちょっとどころじゃなく変だよ、ツッコミ待ち?】


「ハハハ、そうかも……それで若葉どうしたの? 急に電話なんてかけてきて、朝早いけど」

 日曜日、朝早く起きちゃって暇だな~、とか思いながらベランダで思いっきり伸びをしていると、若葉から電話がかかってきた。


 この時間……さては今日が月曜日だと勘違いして学校早く来い! って連絡してきたな? まあ、今週の場合は月曜日も休みだけど。


【もう、違うよ、そんなんじゃない。ちょっと連絡というか、報告があってさ】

 電話の向こうから若葉のクスクスという笑い声が聞こえる。


「報告?」


【そう報告……あのさ、3連休のどこかで家に行く、って言ってたじゃん?】


「ああ、そんなこと言ってたね」


【うん、でも私、今日から家族で軽い旅行に行くことになったから、明良の家には行けない、って言う報告。ごめんね、私の料理、楽しみだったでしょ?】


「別に楽しみではなかったけど……そっか、旅行行くんだ。楽しんできなよ!」


【もう、嘘でも楽しみって言ってよ……うん、楽しんでくる! お土産、楽しみにしててね……ちなみにだけど、明良は何が欲しいとかある? 速子さんには何あげたらいいとか知ってたら欲しいな】

 お土産か、それに先輩の好きなもの……ん~、わかんないけど、お菓子類でいいんじゃないかな?


 先輩、甘いもの好きだし。


【ふふふ、わかった。それじゃあお菓子買ってくるね……じゃあ明良君、おやすみだからってカップラーメンばっかりじゃダメだよ! ちゃんとしたご飯食べなよ……でもお姉さんに頼るのはほどほどに!】


 強く、でもどこかおどけたような声でそう言ってくる委員長に「わかってる」と苦笑気味に返す。


 正確には、お姉さんが僕に頼るのをほどほどにだよ、って言いたくなるけど、でもまあ、そう言う事を言うのは、あれってやつです。

 お姉さんもカッコつけたいお年頃みたいだし!


【本当に分かってるのかなぁ……まあいいや。それじゃあ、明良、ちゃんと生活するんだよ? 私がいなくてもしっかりするんだよ?」


「何急に、どうしたの? お母さんみたいなこと言いだして」


【もう、そんなんじゃないよ、それよりは……取りあえず、私は旅行に行ってきますから! お土産楽しみにしててね、明良!】


「わかった、行ってらっしゃい! 楽しみにしとくね!」


【うん、それじゃあ……行ってきます、明良!】

 その声とともに、ツーツーと電話が切れる。


 若葉は旅行に行くのか……う~ん、他の友達も部活とか何とか言ってたし、一気にやることなくなっちゃったな。


 先輩と何かするにしても……あの先輩と休日何すればいいかわからないし、こっちから誘うってなるとなんか癪だし。



「ぬ~ん、あき君! 若葉ちゃんとの会話は終わったかな? 楽しい楽しい会話は終わったかな?」

 そんな事をいろいろ考えていると、隣の部屋の窓がガラガラ開き、お姉さんがぬんと顔を出す……いつから聞いてたんですか?


「う~ん、なんか声がするな~、って思って外を見てみたらあき君が誰かとお電話してるじゃないか! ってなってね~。それでそれで、若葉ちゃんかな~、と思ったんだけど……やっぱり正解みたいだね! ぬふふ、朝からアツアツですなぁ、二人とも! ぬんぬん! ぬんぬん!」


 絶対に届かないベランダから、そう言って遠隔つんつんしてくるお姉さん……だから若葉は、って言うのはめんどくさくなったので言わないことにした。

 でも違うからね!!!


「ぬんぬんうるさいですよ……それよりなんでお姉さんこんな早起きを? いつも休日はお昼前くらいまで寝てますよね?」


「う~ん、そうしようかと思ったんだけど、なんだか目が覚めちゃってね~。あ、そうだあき君、ゲームしようよ! あき君の部屋、パワプロあったよね? あれやろうよ、あれ! お姉さんあれ得意なんだよ、意外と!」


 そう言って、ブンブンとバットを振り回すポーズをするお姉さん……こんな朝早くからゲームですか、マジですか?


「マジです、マジです、大マジだよ! ゲームに時間なんて関係ないからね、したいときにするのがゲーム! という事で今から着替えてそっち行くね、お昼ご飯をかけたゲームをしよう、あき君!」


「え、お昼ご飯!?」


「うん、負けた方がお昼ご飯を作るの! お姉さんが負けたらあき君の食べたいもの何でも出前で注文してあげる! その代わり勝ったら……わかってるよね、あき君!」

 そう言ってニヤリと笑うお姉さん。


 もともと今日はお姉さんの昼ご飯は用意する(たかられる)予定だったけど……僕がいい思い出きそうな賭けなのでちゃんと乗りますよ、お姉さん!


「お、あき君もやる気だねぇ! それじゃあちょっと待っててね、すぐにフィールドに向かうから!」


「わかりました! 後でほえ面かいても知りませんよ!」

 そくそくと部屋に戻っていくお姉さんに、そう煽りを入れて、僕も部屋に入る。


 ふふ~ん、朝からお姉さんとゲーム……これはギリギリ充実と言えるんじゃないでしょうか!!!



 ☆


「……お姉さん、ちょっと強すぎませんか? これお姉さんだけロックオン5でプレイしているとか……そう言う話はないですか?」


 テレビの画面に映し出された15-2というスコアを見ながら、お姉さんに聞く。

 おかしいなぁ、僕もこのゲーム得意なんだけど……何だこの結果は?


「むんむん、疑ってるの、あき君? それでは確認してください、ちゃんと正々堂々プレイしております! そしてこれで5連勝です!」

 言われたとおりに確認してみると、やっぱりしっかり通常のロックオンなしで……お姉さんが家事以外は何でもできちゃう超人さん、ってことに改めて気づかされた。


「ふふ~ん、お姉さんの実力に酔いしれろだよ、あき君! という事でお昼ごはんは頼んだよ、お姉さんは今日はカオマンガイの気分!」

 ふにゃふにゃ~、と体を揺らしながら、そう言って僕の方にウインクしてくるお姉さん……聞いたことのない料理をリクエストしながら。


「……それどこの料理ですか?」


「タイ料理だよ、美味しいよ! 鶏肉とご飯のお料理! それじゃあ、お願いあき君!」


 そう言って、ニコッと僕の方を微笑むお姉さん。

 わかりました、そのカオマンガイ、とやら作らせていただきますよ、今日は僕の負けですから。


「うん、よろしくねあき君!」

 そう言ってビシッと手を挙げるお姉さんに僕も手を挙げて、買い物に向かった。




 ……で、レシピ見て気づいたんだけどこの料理、妙に時間かかるやん! 炊飯器で全部出来るけど!


「ふふ~ん、それじゃあ待ってる間、このWBCモードしない? 二人で協力して、世界一を目指そうじゃないか!」


「ふふ、OKです! 足引っ張らないでくださいよ!」


「むむむ、それはこっちのセリフだよ! 頑張ろうね、あき君!」




《あとがき》

 つなぎの回です。


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