お寿司の時間でい!

 土曜日のお昼。


 あの後、ほっぺを膨らませてぷんぷん怒るお姉さんを自分の部屋に押し戻して早12時間が経過しました。


 お姉さん、お寿司予約してくれたのか、出前とか……別に忘れててもそれはそれでいいんだけど、結構もうお寿司の口になっちゃってるというか……。

 信頼してくれてるみたいだし、強引に予約させればよかったな……なんてね。流石にそれはしないけど。


 そんな事を考えていると、ピンポーンとインターホンのなる軽快な音が聞こえる。

「はーい」と玄関に出てみると、お寿司の出前のあれ(丸くてちょっと深めのやつ)を持ったお姉さんがニヤニヤそこで立っていた……!


「あ~き~君! お昼ご飯だよ、お寿司食べましょ!」


「はい、お姉さん! ありがとうございます!」

 お姉さんの言葉に、僕は大きく頷いた!

 ありがとうございます、お姉さん!



 ☆


「時にあき君よ、お寿司の中で一番好きなネタは何だい? お姉さんはサーモンが好きだ、大好きだよ!」


「お姉さん鮭とば好きですもんね……僕も同じです、僕もサーモンが好きです。後はえんがわが好きですね」

 パチンと口で器用に箸を割りながら、お姉さんが聞いてきたので答える。


 老若男女に大人気なサーモンはやっぱり鮭とばお化けのお姉さんは好きみたいだ。

 あまびえ、ってよく言ってるから甘えびは……いや、そこに関連はないか、別に。


「そうかい、そうかい、あき君はえんがわが好きなのかい……それじゃあこのサーモンは2貫ともお姉さんがいただくね!」

 そう言ってお皿のサーモンを2貫とも自分のお皿に……ちょいちょいちょい、お姉さん!?


「お姉さん話聞いてました? 僕もサーモン好きなんですけど?」


「うん、聞いてたよ! でもえんがわも好きなんでしょ? だからえんがわの方をあげるから、お姉さんはサーモンを貰うね!」

 そう言ってニコッと笑ってお醤油をかける……いやいやいや、待て待て待て。


「なんでそうなるんですか? 僕もサーモン食べたいんですけど? お姉さんが2貫とも食べちゃうのはルール違反じゃないですか?」


「いやー、でも? これお姉さんのお金で買ったんだし? それを考えるとお姉さんが2貫食べるのは妥当ではないかと……という事でいただきま~す!」


「ダメです、僕にも1個残してください! えんがわも2貫あるので1つあげますから!」


「むー……ヤダヤダ! お姉さんが2貫食べるの! お姉さんがサーモン2貫とも食べるんだから! あき君は別のもの食べときなさい! これはお姉さんの奢りなんだよ、少しはお姉さんの好きにさせて!」


 食べる食べないで押し問答していると、急にお姉さんが駄々っ子のようにぷーぷ―文句を言いながら、ぺしぺしと机を叩き始める……全くお姉さんはいつもこうだから。


 それにお金出してるなんて言われると、それは事実で反論できないし。

 お姉さんのお金でこんなお寿司が食べれてるわけだから……うん、何も言えませんや。


「わかりましたよ、食べていいです。2貫ともあげますからぺちぺちせんといてください、醤油がこぼれます」


「ぬへへ、ありがとね~、あき君! あき君のそう言う優しいとこお姉さんも好きだし、若葉ちゃんも好きだと思うよ~」


「……さいですか」


「うん、そうだよ……ん~! このサーモン、脂がのってて美味しい! ベリーグッドだよ、てるてるだよ~! これが2貫も食べられるなんて……えへへ、本当に譲ってくれてありがとう、あき君!」

 そう言ってだらしなく緩んだ笑顔を僕の方に見せてくる。


 まったく、もう……本当にもう、ですよ。




「あき君、ここに中トロがあるね」

 お寿司を7割ほど食べつくしたところで、熱いお茶を啜りながらお姉さんが神妙そうに口を開く。


 目線の先にあるのは1貫だけおまけのようにはいっている中トロ……なるほど、言いたいことは分かりました。


「お姉さん、さっきサーモン2貫食べましたよね? 僕も食べたかったんですけどあの時は譲ってあげました。つまりこの中トロは僕のものでいいですよね?」


「ふふふ、何バカなこと言ってんの、あき君は? 何度も言うけど、これはお姉さんのお金で買ったお寿司なの……わかる、この意味?」


「……わかりませんけど。そもそもお姉さんが見栄張るためだけに僕を使って色々嘘ついことがこのお寿司食べる原因になったはずですけど? 言うなれば罰ゲームですけど?」


「むむむ、あき君だって嘘ついてたじゃん……それはそれ、これはこれだよ! 罰ゲームだとしても寿! お姉さんが頼んだ、お姉さんのお金で買った……まごう事なき聖花ちゃんのためのお寿司だから! だからこの中トロはお姉さんのものです! だから……」


「ダメです! いつまでもわがままが通用すると思わないでください、さっきと同じ手には載りませんよ!」


 そう言ってふんすと息を上げながら中トロに手を伸ばすお姉さんの手を止める。

 さっきは同じ理屈に乗ってあげましたけど、今回はダメです、僕も中トロ食べたいですもん!


「むー、あき君も引く意志はないようだね……それじゃあ!」


「わかりましたよ、これで決めましょう……」

 そう言って、二人して拳を固めて、そのままじりじりとにらみ合って。


「それじゃああき君、恨みっこなしだよ」


「わかってますよ、お姉さん……それじゃあ!」



『最初はグー! じゃんけんポン!!!」




「ぬふふふふ、やっぱり中トロは美味しいねぇ、お口の中でトロトロ蕩けて、クルクル脂がほどけていって……う~ん、最高、邂逅、絶好調!!!」


「なんですか、そのコンボは……ハァ、中トロ食べたかったなぁ……」

 残っていたイカのお寿司を口に運びながら僕はため息をついた……いかのお寿司も美味しいけど、やっぱり中トロ食べたかったよ。


「ぬへへ、じゃんけんには必勝法があるからね! それを見いだせないあき君が悪いのだよ……でもでも、昨日のあれを盾にして強引にお寿司食べないところはあき君の良いところだよ! 変に優しくて、変に義理堅いところ! そういうとこ伸ばして、もっとお姉さんの事甘やかして欲しいな!」


「……なんですか、それ褒めてるんですか?」


「褒めてるよ! 嬉しいな、ありがとね~あき君! ってことだよ! にへへ、中トロもサーモンも……お姉さんが好きなもの譲ってくれてありがとう、あき君!」


 にへへと、少し意地悪く微笑みながら、そう言うお姉さん……それは感謝の気持ち、全然伝わってきませんよ、お姉さん。



《あとがき》

 お昼ご飯のお話だからお昼にあげるやーつです。

 お寿司のネタは何が好きですか?

 僕はいくらが好きです、なんか高いもん食べてる気になるので。


 感想や評価などいただけると嬉しいです!!!


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