第25話 たまには人の料理も食べたいでしょ?

「……え、安海さんは近所の高校生に手を出してるの? そのそれはちょっと……」


「え? あ、違います、あき君はそんなんじゃないです! その、あき君は私の、私の……何て言えないいのでしょうか?」


 ……本当は私のお手伝いさんなんだけど、その……会社での私のイメージってまじめで清楚な完璧お姉さんだから、ちょっとこれを言うのは憚られるというか、言っちゃダメと言うか。


「……やっぱり彼氏なの? その高校生と付き合うのは条例的にもちょっと色々あってだねぇ、この会社でもそれは……」


「だから違いますって、彼氏ってわけじゃないですから! その……あき君は高校生だけど一人暮らししてるので、その……お、! その私がお料理とか作ってあげてるって言うか、その……そう言う感じです!」


「ふ~ん……まあ手を出さんかったらいいよ~。警察沙汰になっても、私は庇ってあげられないからね~」


「もう、部長庇ってくださいよ~!」

 ひらひらと手を振って自分の席に戻っていく部長にぷーぷー文句を言って、でもやらないと仕事は終わらないので、私も仕事に戻ることにする。


 ごめんね、あき君……でもこれは必要な犠牲だと思うからその許してください! 

 私はお外では完璧なお姉さんだから……許して、あき君!




 ☆


「今日この後、斉藤君の家、行っていいかな!」

 振り絞るように、大きな声でそう言った委員長。

 暗闇で表情とかは全然見えないけど、声は少し弾むような、それでいてちょっと不安そうな、そんな複雑な声で。


 えっと……今からくるの?

 もう結構遅い時間だけど。


「うん、今から。今からじゃないとダメと言うか……その、斉藤君に夜ご飯、作ってあげようと思ってさ」

 少しオドオドした声で、そう言って……え、夜ご飯?


「うん、だってその……斉藤君一人暮らしだし、いつも自分で作った料理しか食べてないんでしょ? だからさ、たまには他の人の料理も食べたいんじゃないかな、って……ど、どうかな? 私、結構料理には自信あるケド」

 俯き加減で、少しもじもじしながらそう言う委員長。


 いや、それはその……別に大丈夫って言うか、お姉さんもいるし、その……


「大丈夫、大丈夫だよ! 自分の料理満足してるし、それに……委員長の負担になってもいけないし。だから大丈夫、金曜日だしゆっくり休もうよ!」


「ふふふ、休まないといけないのは斉藤君の方だよ、いつも家事大変でしょ? だから遠慮しなくて大丈夫! 私は全然用事ないし、負担にもならないし……だから、どうかな? 斉藤君の食べたいもの、作ってあげられるけど……ダメ?」


 心配そうな、不安そうな、そんな顔で僕の方をのぞき込んでくる委員長。


 えっと、その、いやじゃないしダメじゃないけど、その……え、本当に良いの?


「もう、何度もいいって言ってるでしょ! 私は斉藤君に私のお料理食べてほしいの、斉藤君にたまにはゆっくり休んで欲しいの! だから、今日は私が斉藤君のお家で家事をします! もうこれは決定事項です、異論は認めません!」


 そう言ってデデンと大きく胸を張る委員長。


 ……まあ、ここまで言ってくれるなら、ちょっと今日は委員長に任せようかな。

 僕も最近、お姉さんのお料理とか掃除とかで相当疲れてたし。


「……ありがとう、委員長。それじゃあ、ちょっと委員長に甘えようかな?」


「えへへ、存分に甘えてくれたらいいよ! という事で斉藤君のお家に出発進行! 進行進行!」


「フォレスト……って直接来るの? 一回荷物置いたりしないで?」


「うん、一回自分の家帰るのめんどくさいし! 途中のスーパーでお買い物もしたいし! それにこの格好だと……えへへ……だから! という事でこのままの格好のまま、斉藤君のお家に行かせてもらいます!」


 そう言って、ピシッと僕の方に敬礼のポーズ。

 まあ、委員長がそれでいいならいいや、僕的には何も変わらないし。


「そうでしょ、そうでしょ! という事で気を取り直していきましょうや!  ふふふっ、斉藤君のお家楽しみだな~……にへへ」


「楽しそうだけど、そんな僕の家面白いものないよ? 本当に普通のアパートって感じだよ、全然普通の」


「ふふ、それでいいの! 別に特別なものとか、いらないから!」


「本当に?」


「本当に! ふふふっ、楽しみ楽しみ~」

 ルンルンとステップを踏むように歩き出す委員長の隣を、僕も歩き出す。


 久しぶりに他の人が作った手料理食べられるな……ふふふ、それはすごい楽しみかも。





「……そう言えば斉藤君、何食べたいとかあったっけ? 今日何作るか決めてなかった屋、そう言えば」

 スーパーの野菜コーナーでニンジンを見比べながら、委員長がそう言ってにへへと頭をかく……なんでニンジン持ってるの?


 それより、今日食べたいものか、食べたいもの……うーん、あんま思いつかない。


 大体そんな考えずに料理作るか、お姉さんのわがままでしか料理作ってこなかったから……食べたいものって言われてもそんなに。

 ここは委員長に任せようかな。


「う~ん、そうだね……委員長の得意料理にしてよ! やっぱり僕も美味しいもの食べたいからさ! だから委員長の得意料理が良いな!」


「え、私の得意料理……それって、その……えへへ、わかった、わかったよ、斉藤君! ふふふ~ん、得意料理、得意料理ねぇ~……ふふふ、期待しててね、斉藤君!」


「……わかった、期待しとく」

 満面の笑みで僕の方を見て笑う委員長に、僕も満面の笑みで返した。




「……と言うとことで材料を買ってくるけど、何ができるか当ててみてね!」


「お、料理名クイズだね! 受けて立つよ、委員長!」


「ふふ~ん、私のクイズは難しいよ? まずはそれじゃあ……」


「あ、カゴ持つよ。どうせ重たくなるでしょ?」


「あ、どうも……ふふふ、ありがとう、斉藤君」



 ★★★

 感想や評価や☆などいただけると嬉しいです!!!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る