第24話 家、行っていいかな?

「おーい、安海さん、明日から連休だからこれもやっといて~」


「え、本当ですか? また残業ですか?」


「うん、そうなるかな。頑張れ、私も頑張るから!」


「ううっ、頑張ります……あき君、待っててね、今日こそエビチリ食べたいから……」


「……あき君って誰? 彼氏?」


「いえ、違います。近所の高校生です!」


「……え?」



 ☆

「はーい、という事で今日の話も終わり! 皆さん、明日から3連休だけどハメ外しすぎないようにね! それじゃあHR終わり、解散!」


 先生のその言葉に一気に教室がざわつき始める。

 今から部活のちょっとしんどいけどでも楽しい! という雰囲気や、明日から3連休だから純粋にハッピーな雰囲気。


 僕? 僕ももちろんハッピーさ!


 今日は放課後、先輩のところにも行かないし、ここは友達誘ってカラオ……

「ねえ、斉藤君? この後暇? 暇だよね、ちょっと付き合って欲しいんだけど」


「……どうしたの、委員長?」

 浮かれた僕の思考の間を縫うように、委員長がトントンと机を叩きながらそう聞いてくる。


「うーん、それは内緒だけど……ちょっと付き合って欲しいんだ? 人手が足りないみたいで……ダメ? いいでしょ?」

 そう言って可愛くウインク。


 ……そう言えば委員長さっき僕も放課後用事ある! みたいなこと言ってたな。

 もしかしてこれ強制参加イベントですか?


「うん、断っても連れてくつもりだから。という事で斉藤君、レッツゴーだよ!」


「うう、もう……わかったよ、ターキンターキン!」

 何だか僕に拒否権はないみたいなので、そのまま委員長についていくことにした。


 ……でもカラオケ行きたかったな。3連休のどこかで行こ。

 ていうか、僕は今から何をさせられるんだ?




 ☆


「……もう、最初から横断幕の手伝いって言ってくれればよかったのに! 何させられるか内心ちょっとだけビビってたんだよ?」


「アハハ、まあまあ斉藤君いいじゃん、良いじゃん! だってサプライズ的に言った方が結構ドキドキ感あるでしょ?」


「ん~、こう言うのはストレートに言ってくれた方が嬉しいけど……」

 白い大きな紙の上で、大迫力に描かれた絵の背景を真っ赤に塗りながら、小さくため息をついた。


 体育祭の横断幕―他の学校ではどうかわからないけど、この学校では結構重要な役割を持つらしく、横断幕の出来具合も学年の得点に加算されるらしい。


 だから、学年の優勝を目指すにはすごく出来の良いものを作る必要があるんだけど……今日色塗りを行っているのは僕と委員長と後横断幕を作った張本人の3人だけ……あれぇ?


「ハハハ、仕方ないよ、横断幕作りなんて誰も興味ないからさ! でも普段は私と先生の二人だけだから、今日は若ちゃんと明良君が来てくれて助かったよ! ま、今日は先生がいないんだけどね、アハハハ!」


 そう言って豪快に笑うのは隣のクラスの華道部、島田美香さん。

 委員長とは中学校からの友達って言ってた。


 僕たちの学校には美術部なんて部活はないから絵のうまい島田さんが横断幕作りを一任されたらしい。


 ……一人にやらせるのは相当酷な事だと思うけど。


「まあ、そうだね! クラスの友達も部活が忙しいのか全然手伝ってくれないし……だからこそ、若ちゃんと明良君には本当に感謝してるんだよ! 君たちのおかげで今日は作業効率が倍々だ……あ、若ちゃん、そこ黄色だから色混ざらない様に気をつけて」


「あ、うん、気をつける……そう言ってもらえると手伝ってるかいがあるよ! でもでも、これも委員長だから当然の事だよ、美香ちゃん! ね、斉藤君?」


 そう言って力こぶをぎゅっと作った委員長が僕の方をニコッと見つめてきたので、僕も当然当然という風に島田さんに微笑む。


 委員長だから、って言うのはよくわかんないけど、学年の仲間だからね、協力しなきゃ!

 ……あれ、そう言えば島田さんなんで僕の名前知ってるんだろう?

 島田さんはちょっと有名人だから知ってたけど、僕は自己紹介もしてないのに……?


「ああ、名前の事? それは知ってるよ、だっていつも若ちゃんが……」


「美香ちゃん! ここって何色で塗ればいいの? 美香ちゃん、早く教えて!」

 何か言いかけた島田さんの言葉を遮って、委員長がぺしぺしと絵を叩きながら、焦ったようにそう聞く。


 ……聞こえた範囲では委員長が僕の事話してるみたいな感じかな?


「そこは緑だよ、大事なところだからじっくり……そうそう、若ちゃんがいつも私に君の事話してくれるんだ」


「へー、どんな話してるんですか?」

 後ろで「美香ちゃん! 美香ちゃん!」と叫んでいる委員長を無視しながら、島田さんにそう聞く。


 委員長のする僕の話って……授業中寝てる話とかかな? 


 僕の質問に、島田さんはクスクスと笑いながら、

「ふふふ、たまにそう言う話も聞くけど、基本はもっと明良君の事を……」


「あー、あー、ダメ! 二人とも集中して作業しなきゃ! 今私の話はどうでもいいでしょ、美香ちゃんも斉藤君も!」

 ……またまた島田さんの話を、少しほっぺを赤く染めた委員長がぶーぶー言いながら遮る。


 えー、何その反応? 何話してるか余計気になるじゃん!


「いいから、別にそんな大した話してないから! だから興味持たなくて大丈夫だから!」


「えー、あれ大した話じゃないんだ、若ちゃん? いつもすごく楽しそうだけど? それに今日はいつもみたいに名前で……」


「ああ、もういい、もういいから! 集中しないと横断幕出来上がらないよ、中途半端な出来になるよ! だからもっと集中しよ、集中!」


「えー、良いじゃん、そのままさ……」


「ダメったらダメ! ダメだから美香ちゃん集中しなさい!」


 怒った声で、でも恥ずかしそうな声でパンパンと手を叩く委員長に少しだけ「えー」と文句を言って僕も作業に戻る。


 こんだけ焦るってことは……委員長さては僕の悪口言ってたな! ふふふ、また仕返ししてやらないとね!


「……それでね、明良君。若ちゃんが言ってたのは……」


「はーい、ストップ、ストップ! もう美香ちゃんはしゃべっちゃダメだから!」


「……ちょっとぐらい良くない?」


「だーめ! 絶対にダメ!!!」




 ☆


「……もう外真っ暗だね。最近陽が落ちるのすごく早いや」


「……本当それ。早く帰らないと」

 先週まで6時過ぎなんてそんなに暗い時間じゃなかったのに、もう真っ暗だ。


 あの後、色々委員長をいじったり、普通に世間話をしながら作業を進めていると、あっという間に帰る時間となった。


 でも、島田さんは途中で合流した先生と一緒に、まだ特別に作業を続けるらしく「後は二人でゆっくり帰りなよ! 来週も頼むよ!」と言って僕たちの事を追い返した。


 特別作業があるなら僕も手伝いたかったけど……まあ、本人が帰れ言ってるしいいか。


 それじゃあ言われた通りゆるりと帰りましょうや。

 明日からの3連休を楽しむために!


「委員長、それじゃあ帰ろっか。家まで送ってくよ」


「……あ、あのさ、斉藤君! 明日から3連休だよね!」


「うん、そうだけど……何でそんな当たり前なこと?」

 9月は祝日多いからね、その分おやすみも多くなる。

 でも、どうして急に当たり前の事?


「えっとね、その……斉藤君さ、この後も暇でしょ? 3連休だし、この後も明日も暇だよね?」

 暗闇で表情はあまりわからないけど、なんだか少し不安そうな口ぶりで。


「うん、暇だよ。明日も多分暇だけど」


「そ、そうだよね……それじゃあさ……」

 そう言って大きく息を吸い込んで。


「今日この後、斉藤君の家、行っていいかな!」

 振り絞るように、そう言った。



《あとがき》

 人数足りんから、って理由で強制的に名前だけ書かされた華道部でこれまた強制的に色塗り手伝わされましたね、懐かしい記憶だ。


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