若葉委員長とお姉さん(と先輩)

第23話 そろそろ体育祭なのです!

「はい、という事で私たちにとって初めての体育祭の季節が近づいてまいりましたので! 今日は体育祭での参加種目などを決めていきたいと思います!」


 教卓をバーンと勢いよく叩いて、楽しそうな声で委員長がそう叫ぶ。

 僕たち高校生にとっての一大イベント―体育祭が2週間後の土曜日に迫っている。

 ちなみに今日は金曜日、このタイミングで出る競技を決めるのは流石に遅いと思う。


「皆さん、出たい競技ありませんか! 私は縄跳びが好きですが、二人三脚に出たい人はいませんか? 二人三脚ですよ、楽しいですよ!」


 誰も手を挙げない教室の中で、委員長の声が響く。

 周りから聞こえる声は「やりたくねぇ……」の小さな声。



 体育祭―人によってこのイベントに対するイメージというか意識というかそう言うのは全然違うと思うけど、僕にはこのイベントに悪い印象しかない。


 というのも、中学校の時は学校の規模が小さかったせいかリレーに強制参加させられて、それで僕は足が遅いから色々恥をかいて……うん、だからちょっとあんまりいい思い出はないイベントだ。


 だからこういう時はなるべく足の遅さが目立たない、それでいて個人種目的な競技に参加するのがベストな選択肢。


「はい、綱引きは山田君と伊能君、お願いします! それじゃあ、次の借り物競争だけど……」


「はい! 委員長、若葉委員長! 僕にやらせてください!」


「え、なんでそんな急に……わかった、わかった! 借り物競争一人目斉藤君に決まりです! 二人目やりたい人、いますか!」


 という事で僕が選んだ競技は借り物競争。

 基本的にはそんな変な借り物は出ないだろうし、それに個人プレイだからあんまり悪いところは目立たない。


 うん、これがベストな選択、完璧な選択だ!

 取りあえず無難な種目に決まってよかった!





「……斉藤君さ、なんであんなに借り物競争に熱意あったの? その……くれたし、そんなに借り物競争出たかったの?」


「うん、リレーに回されるくらいなら借り物競争に出たかったんだ! 委員長が即決してくれたおかげで助かったよ! 委員長は何に出るんだったっけ?」


「……そっか。私は大縄跳びに出るよ、あれ凄く得意なんだ! 絶対に引っかからない自信あるから、注目してくれていいよ!」


「へー、そうなんだ。自信ありねぇ……わかった、注目してるよ、委員長が跳んでるとこ」


「うん、注目しててよ! 私も注目してるね、斉藤君の借り物……困ったら私を借り物として連れて行ってくれていいから!」


「……そんなお題来るかなぁ?」



 ☆


「……ねえ、斉藤君。今日も速子さんのところ行く?」

 お昼休みのざわざわした教室の中で、お弁当を片手に持った委員長がくるっとした目つきで聞いてくる。


 先輩のところか……ここ数日いろいろ言われて一緒にお昼ご飯を食べてるからそろそろ教室でのんびりしたいけど、行かないとちょっと先輩がめんどくさいことになりそうだし……うん、しょうがない、行こう。


「やっぱり、そうだよね! それじゃあさ、早く行こ、今日の化学の課題で聞きたいところがあったんだ!」

 僕の言葉に少し目を輝かせた委員長が、すんすんと軽いステップで扉の方に向かう……ん、化学?


「ちょいちょい、委員長。先輩文系だよ? ゴリゴリの文系だから、化学の事聞いても意味ないよ、多分わかんないって言われるだけだよ?」


「……ん? 文系……何言ってるの、斉藤君。理科室にいてあんな格好してるんだよ? 速子さんが文系のわけないじゃん!」

 僕の声に目をクリっと丸くした委員長はそういってクスクスと笑う。


 うん、僕もそう思ってたんだよ、最初は。

 でもね、先輩はすごく文系なんだ。

 本当にゴリゴリの文系なんだ。


「んー、もう、嘘ばっかりついて、斉藤君は! 何、また私と速子さんが仲良くなるかもって嫉妬してるの?」


「いや、そう言うわけじゃなくて……」


「大丈夫だよ、速子さんはそう言うの超越した存在だからさ! だから早く行こうよ、お弁当の時間なくなっちゃうでしょ?」


「……わかったよ。でも、何があっても僕は責任取らないよ?」


「わかってるよ、大丈夫! ほら、早く行こ、速子さんのところに! ほら、はーやーく! 行くよ、斉藤君!」


「ちょ、委員長……」


「良いじゃん、良いじゃん! ……ふふふっ」


 楽しそうに僕の手を取った委員長に連れられるがままに、僕は先輩のところに化学の宿題を聞くため(後お弁当一緒に食べるため)に行くことになった。


 ……いや、あの人本当に文系なんだよ……?

 1年生の時の化学のテストで赤点取って泣いてた(先生情報)人なんだよ?




「ねえねえ、やっぱりあの二人……」


「うん、絶対そうだって……速子さんって、あの人だし、多分口実……名前で呼んでないのも恥ずかしいから……二人の時、えちえち⋯⋯絶対にそう言う関係だよ」


「だよね、だよね! 絶対あの二人……ねえねえ、牧野君! 牧野君は斉藤君からあの二人の事聞いたことある?」


「ん、俺? ……そうだな、聞いたことは無いけど、多分そうだと思うぜ? だって、毎日一緒にいるし、今日だって……それにこの前夜一緒に歩いてるとこ見たし」


「え、夜一緒に……やっぱりそうだよね! ふふふ、あの二人も隅に置けないなぁ……ふふふっ、隠さなくていいのに!」




 ☆


「うん、わからない。僕は化学とか数学とかそう言うのは全くわからないからね!」


 いつもの旧校舎に行って化学のプリントを見せると、先輩はそう言って誇らしげに胸を張った……何を誇ってるんですか?


「え、わからない……先輩は本当に文系なんですか?」


「ああ、文系だ。だからそう言った方面は全くわからない!」


「そ、そんな……私の、課題楽ちん作戦が……ううっ……」

 対照的に落ち込んだように目をくるくるさせるのは委員長。


 だから言ったじゃん、先輩は文系だって。

 ゴリゴリの文系だって。


「まあまあ、そんなに落ち込まないでくれ。僕は社会とか国語は得意だ、その辺は聞いてくれて大丈夫だぞ?」


「……それは私も得意なんです! 私も文系人間なんです!」


 そう言えば委員長は期末テストの国語、3位だった! でも数学はびりから3番目だった! って言ってたな。

 凄く複雑そうな顔で言ってたな。


「あ、そうなんだ……ちなみに明良君は?」


「はい、僕も文系です。数学とかマジでわからんです!」

 まあ、僕は国語学年1位だったんだけど、そのテストで。

 

 ⋯⋯でも数学は最下位だったんだけど、普通に赤点だったんだけど……やだ、全員ゴリゴリの文系じゃないですか、この空間。



 僕たちの答えを聞いた先輩はクスクスと笑い始める。

「そうか、そうか! 理科室に文系が3人……ふふふっ、なんだかおもしろい光景だねぇ」


 ……先輩はその恰好何だからせめて化学くらいは出来てほしかったですけどね!




「そう言えば先輩は体育祭何に出るんですか? 僕は借り物競争ですけど」


「あ、私は縄跳びです、大縄です!」


「ふぅン、二人とも楽しそうな競技に出るねぇ……ちなみに僕は何の競技にも出ないよ、僕の存在はクラスでないものにされてるからね!」


「……それ言ってて悲しくないですか?」


「うるさいうるさい、僕には君たちがいるからいいんだ! それより今日の放課後も遊びに来てくれるか? こんな悲しい僕と遊んでくれるよね?」


「ああ、それは「ごめんなさい! 私も斉藤君も用事があるのでいけないです! また今度にしましょう、速子さん!」


「……そうか。まあ、毎日というのも難しいか、無理言ってすまない……でも、また一人か……」

 そう言ってシュンと落ち込む先輩に、僕の方を見てにやりと微笑む委員長。


 ……僕、放課後に用事なんてないんだけどなぁ……



《あとがき》

 章の名前変えます、なんか色々変なことになりそうなので。

 高校の体育祭は、それこそ委員長みたいな人と一緒に旗振ってましたね、意味わからんテンションで。


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