登校と先輩

「……意外と眠れた。結構寝れた……良かった……お姉さん……」

 パッと目を覚ますと、小鳥のさえずるちゅんちゅん音が聞こえる。


 良かった、今日は学校では寝ないで済みそうだ……本当に良かった、2日連続は流石にやばいもんね。


 という事で今の時間は……7時42分か、7時42分……めっちゃ反応に困る時間におきちゃったな、これは。


 朝ごはんとかお弁当を作る時間はないけど、でも急いでいくかって言われると微妙な時間。


 朝ごはんは諦めて、お昼ご飯は購買で買えばいいから……あとはどうしようか?


 うーん、とりあえず顔を洗って、クールダウンして頭冷やしてから……およ?


 取りあえず顔を洗おうと洗面台の方に向かっていると、ひらひらと一枚の紙が床に落ちているの気付いた。


 落ちているのも気持ちが悪いので、拾ってひっくり返すと、お姉さんの可愛い丸文字。


【昨日はごめんね、あき君! 途中から全然記憶ないから……だから謝りたくて! 朝は直接は会えないみたいだから、手紙送っておきます! ありがと、そしてごめんね! お姉さんより】


 ……まったく、もうお姉さんは!

 変なところで律儀なんだから、まったくもう!!!


 それに、記憶ないって……いつから? いつからないんですか、その記憶は……もう、本当にお姉さんは……そのせいですごく昨日の夜もんもんしたのに……本当にダメな人、好き!


 でもこういうの書いてくれて……えへへ、ちょっと嬉しいかも。

 よし、ちょっとパワーも補充したし、今日も学校頑張るぞ、むんむんむん!!!


 気合を入れるためにポンポンとほっぺを叩いて、洗面所に向かう。

 今日も良い日になりますように!



 ☆


「……あ、明良君! おーい、明良君! ふぅン、こんな時間に登校とは、珍しいんじゃないかい?」


 顔を洗って制服を着てふらふらと学校に向かっていると、いつも通りのコスプレ姿の先輩が萌え袖を振りながら「おーい!」と僕の方にてってて走ってきた。


 ……なんで先輩は僕の登校時間知ってるんですかね?


「違う、違う、人をストーカーみたいに言わないでくれ。僕はいつもこの道を通っているが、君に会うのは初めてだ……だから、少し珍しいと思ってな」

 焦ったようにフルフルと手を振って、そう訂正してくる先輩。


 なるほど……委員長もだけど、先輩の家もこの辺に近いのかな?


「ああ、近いよ。僕の家はここから少し行ったところにある……遊びに来るかい?」


「いや、良いです、大丈夫です。なんか変な事とかされそうですし」


「む、そんなことしないよ。普通に遊びに来て欲しいだけなんだが? 君は僕のフェレットだから家族を紹介したいんだ」


「そうですか、フェレットじゃないですよ? 先輩にはお姉さんがいるんでしたっけ?」


「むー⋯⋯まぁいい。ああ、姉がいる。今は両親がいないから僕と姉の二人暮らしだ」


「なるほど⋯⋯それじゃあ改めて遠慮しておきます!」


「えー! なんで即答!? 別にいいけど、即答は僕も怒りたくなるよ!!!」


 僕の言葉に少し顔を赤らめながら、そう言ってぷんぷん怒る先輩。


 別に先輩のお姉さんとかあんまり興味ないし……それより先輩、ほっぺの膨らませ方がちょっと中途半端で可愛い感じになってますよ?


 委員長が見たらえっちって言うんでしょうか?


「むー、本当に君たちは僕の事をなんだと……僕は君を……あれ?」

 むくれた顔でいじいじ石を蹴っていた先輩が、急に僕の方をのぞき込んで真っ赤な瞳を丸くする。


 昨日の反省か、服が鎖骨が見えないくらいぴちっとしたものになってて……ちょっと残念。


「……む? どこ見てるんだ、君は?」


「……ん? あ、いや、先輩の事見てましたよ?」


「え? いや、そのそんな……そうだね、僕の事見てたのか、それはそうだ、当たり前だ!」

 そう言いながらうんうんうんうん頷く先輩……ところで、なんで僕の方のぞき込んでたんですか?


「ああ、すまない、すまない……その、明良君の顔色が少し悪いというか、いつもより覇気がないというか……そんな感じがしてねぇ。君、ちゃんと朝ごはん食べてきたかい?」


「……食べてませんけど。よくわかりましたね、すごいです」

 コテンと首を傾げながら聞いてくる先輩に少し感心してしまった。


 顔色見てそう言うの当てるとか……保健の先生とか向いてそうだ、白衣だし。


「ふぅン、そんなに褒めないでくれ、照れるじゃないか……ふふふ、ありがとう……それで朝ごはんを食べていないのはダメだ、1日活動するためのエネルギーが足りなくなる。だから少し口を開けたまえ」


 ふんすふんすと嬉しそうに鼻息を荒くした先輩が、そう言って僕の方に萌え袖を近づけてくる……え、何ですか、それ?


「いいから! 口を開けたまえ……開けてくれないかい、明良君?」

 瞳をカッと大きく開いて、少し悩まし気な表情で僕の方をまっすぐ見てくる先輩……え、なにぃ、本当に?


「ほら、早く開けてくれ……その、人が来たら恥ずかしいだろ?」


「恥ずかし……先輩何すもがっ!?!?」

 俯きながら、恥ずかしそうにそう言う先輩にツッコもうとした瞬間、逆に萌え袖の中身を口に突っ込まれる。


 ……何? 本当になに!?

 その、萌え袖の中身を……本当に何!? どういう事……なんか口入ってきてるし! 


 困惑する僕の口の中に広がるのは、先輩の細くキレイな酸っぱい指の味……ではなくて甘くて、ちょっとほろ苦い、安心する味……あれぇ?


 口のなかでとろとろ蕩けて、少し甘く広がっていくその食べ物は……えっと、チョコレート?


「ふふふ、驚いたかい? ご名答、君の思った通りのチョコレートだ。朝ごはんの代わりには少し足りないかもしれないが、糖分補給にはなる……どうだい、お口に合うかい? 僕の手作りなんだが……お口に合ってくれたら嬉しいな///」


「……っ!!!」

 そう言って頬をぽりぽりかきながら、ニコッと恥ずかしそうに真っ赤な顔で微笑む先輩……その、チョコレートは美味しかったですけど、そういう所ですよ!


 わざわざそんな変な渡し方したり、そんな感じでほっぺをかきながらか可愛く照れたり……そういう所ですよ、先輩はもう!


 なんか先輩でそうなるの悔しい!


「ありがとうございます、先輩! それじゃあ先、失礼します!」


「え? ちょっと明良君、一緒に行こうよ、同じ学校だろ? 学校に着くまでは一緒に行こうよ! 僕を置いてかないでくれよ!」


 寂しそうにそう言って、小さい身体と茶色いアホ毛をてとてと揺らしながらついてくる先輩……今はダメです、ついてこないでください!


「むー、なんでだ、明良君! もしかして……僕と一緒に学校に行くの、嫌か? 僕と一緒にいるの嫌か?」


「はい、嫌です! ごめんなさい!」


「えー! また即答!? ううっ、なんで……僕、明良君に何か悪いことしたか? イタズラは許して欲しいけど……僕なんかした?」


「いや、その……」


「……その、悪いことしたなら、もうしないから。その悪いところあったら、直すから……だから僕と一緒にいてくれないか?」

 うるうると真っ赤な瞳を透明な涙で満たして、寂しそうな、謝るような上目づかいで僕の方を見つめてきて……ああ、もう!


「……わかりました、学校着くまでですよ?」


「バカ、早くそれを言え、僕を悲しませるな……学校着いてからも昼休みとかも一緒にいてくれ。あと、放課後も遊んでくれ。一人、寂しいから若葉君と一緒でいいから、僕とも一緒にいてくれ」


 ぴとっと密着するように体をくっつけてきた先輩が、少し恨めしそうに、でも楽しそうな声でそう呟いて……近いです、先輩、少し……何でもないです。


「……はいはい、わかりました、だから少し離れてください……チョコレート、美味しかったです。力、出ましたよ」


「むー……え、本当か!? 本当に美味しかったのか……その、気を遣って……」


「本当です、本当に美味しかったです」


「本当かい!? ……ふふふ、良かった。明良君の口に合ったなら、作った甲斐があったよ!」

 そう言ってにっこりと満面の笑みで僕の方を見てくる先輩……本当に……先輩だな、先輩は。



 ……それに、ちょっとけお姉さんに似てる気がする。

 ほっとけないところというか、寂しがり屋なところとか……ふふふ、そういう所がなんだか似てる気がする。


 だから僕、先輩とも一緒にいるのかな? わかんないけど……ふふふっ……



「えへへ、へへ……ん、どうした、明良君? そんな不気味に笑って?」


「不気味って……先輩の方こそ」


「僕は不気味じゃないぞ! ただ……嬉しかっただけだ!」


「そ、そうですか、ごめんなさい……その、ちょっと考え事してました。先輩に似てる人の事をちょっと考えてました?」


「僕に似てる人?」


「はい、先輩に似てる人です……何が似てるとかは言いませんけど」


「くくっ、何だそれ……ちなみに明良君はその人の事好きか?」


「……え、何ですか急に!?」


「興味本位で聞いただけだ……答えてくれ。お願い、明良君?」

 少し赤く色づいた首をコテンと傾げながら、可愛くそう聞いてきて。


 ……先輩に似てると思った人はお姉さんですから。

 それはもうだって……


「大好きです。本当に……大好きな人です」


「そっか、そんなに……ふふふ、良かった!」


「……何がですか? 先輩には別に……」


「関係ないけど。でも……良かったな、って……ふふふっ、明良君、一緒に学校行こ!」

 そう言ってにへへとだらしなく笑った先輩は、僕の手を取って走りだした。


 この笑顔の崩れ方も、何だかお姉さんに似てる気がするんだよな……それはそうとして!


「先輩、手離してください、恥ずかしいです」


「ふふふ、良いじゃないか、学校に着くまでだけだから。それに⋯⋯周りからは見えないだろ? 秘密の空間だ」

 萌え袖の中で秘密に手を握った先輩がそう言って笑う。


 ⋯⋯そう言うとこ!


「……萌え袖の中で見えない様に手をつなぐとかものすごくえっちです。それをする先輩はすごくえっちです」


「え、そんな、僕は憧……わ、わぁ、確かに秘密って、見えないようににぎにぎするのは……/// ……わ、わかった、普通に行こう……だからえっちとか言わないでくれ……!」

 色々考えたのか、顔を真っ赤にして、プイっと手を離す。

 そねまま赤い顔を伏せて、蚊の鳴くような声で呟いて。


 ……そういう所もえっちですよ、先輩。


「そ、その……は、早く行くぞ、明良君!」


「はい、先輩、お供しますよ!」

 カツカツとブーツを鳴らしながら早足で歩く先輩の隣でそう言って笑った。

 



《あとがき》

 若葉委員長出てこないけどそろそろ出る気がします。


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