第22話 今日は泊まる! 何もしたくない!!!

「ふい~、お腹いっぱいだよ~。ふふ~ん、ありがとね~、あき君」

 二杯目の酢豚とご飯をペロッと平らげたお姉さんが、そう言って僕の方をにっこり微笑む。


 二杯目の酢豚、結構ピーマン入れてたんだけど、少し嫌な顔はしながらでも全部しっかりと食べてくれて……すごいよ、お姉さん。

 僕は成長を感じてすごく嬉しいです。


「ぬふふ~、ぺ~んぺん! ふい~……ふふふっ」


「どうしたんですか、お姉さん?」


「いや、たのし~な~って思って。本当にいつもありがとね、あき君! 本当にいつもありがと~!」


「……どういたしましてです」

 ぬへへとだらしなく笑うお姉さんの笑顔がすごく可愛くて……ちょっと目線を外してしまなんか


 なんか今日のお姉さん、やけに素直というか何というか……好きです、本当に。


 ちょっと恥ずかしくなってきたので、チラッと壁にかかっている時計を見る。

 時間は10時42分……え、もうそんな時間なの!?



「ん~、君名前な~に~? ラスカル君って言うの? 可愛いね~、あき君みたい!」


「お姉さん、お姉さん、それぬいぐるみです。それより、もう11時前ですよ、そろそろお部屋、戻ってください。もうおねむの時間ですよ」


 ぬいぐるみに向かって会話をしていたお姉さんの肩をトントン叩いて、そう言う。

 そのラスカル、友達の間でも結構人気なんですよ、可愛いですよね。


「……ヤダ! ヤダヤダ!」

 ギュッとラスカルを抱きしめたお姉さんが、むすっとほっぺを膨らませてキーっと威嚇してくる。


「ヤダじゃないですよ、お姉さん。早く帰ってください、僕も眠たいですから」


「ヤダヤダ! 帰るのめんどくさいから今日はあき君の部屋に泊まる! あき君のベッドでラスカル君と寝るんだ!」

 ぬいぐるみに頬ずりしながら、お姉さんはそう言ってきて。


「……え、泊まる? ベッドで……ダメ、ダメです、お姉さん! そう言うのはダメです! ラスカルは貸し出しますから帰ってください、そう言うのダメですから! ていうか隣じゃないですか! ⋯⋯それにお姉さんお風呂入ってないでしょ!」


「やだー、お風呂も入りたくない! 入るの面倒だから、このまま寝るの、あき君のお部屋で寝るの!」

 ぷく―っとほっぺを膨らませたお姉さんはそう言ってじたばたじたばた床を器用に転げまわる。


 いや、その……ベッドとかはダメです、一緒になんて絶対ダメです!

 だってその我慢……だからダメダメ! ダメ!


「ダメです、明日の仕事に影響でます、どうせ朝起きれないんだから! だからお部屋帰ってお風呂帰って寝てください!」



「むー、ヤダ、めんどくさい、早く寝たい! むー……そんなにお風呂入ってほしいならあき君がお姉さんの事お風呂入れてよ!」

 むくれた顔でおねえさんは僕の方をキッと見てそう言って。


 ⋯⋯


「……は? え?」


「だーかーら! あき君はお姉さんのお世話係でしょ、お手伝いさんでしょ! お姉さんのお世話をするのが仕事でしょ! だからお風呂入れてよ、お姉さんもう何もしたくないもん!」


 そう言いながら「ん!」と大きく広げた手を伸ばすお姉さん……いやいやいや、お風呂!? お風呂!? お風呂って……え!?


 そのお風呂ってお姉さんと一緒に、そのふにふにで柔らかい背中とかお腹とか洗い合いっこして、それでその他の色々なところとかも、えっとおっぱ……いやいやいやいやいやダメダメダメダメ!!!

 そんなことしたらダメです、ダメです、ダメダメデス!!!


「あーきー君! お風呂入れてくれないの? いーれーて! お姉さんと一緒にお風呂入るの!」

 腕を伸ばしたままのお姉さんが、とろんとした目つきで、幼い上目遣いで僕の方を見てきて。

 計算じゃない、ストレートな雰囲気の言葉で、本当に思ってそうで。


 ゆるゆるのパーカの奥からふんわり柔らかそうな……また今日もお姉さん下着付けてないし!

 見えそうだし、もう全部見えちゃいそうだし、それに……お風呂入ったら!


「あき君! ねえあき君! お風呂! おーふーろ!!!」

 お風呂に入ったらお姉さんのこれを、僕が……いやでも、それは……でも絶対そうなって……ふにゅっとして柔らかくて、だから……そのまま顔を、手を……でもでも……


「あ~き君? どうしたのあき君? お風呂いこーよー! 身体洗ってよ、お姉さんのお世話してよ~!」

 それにそれ以外にも他にも全部、お姉さんの全部見れて、洗いっこするから全部……いや、それはそれは、でもでも……


 ……どうしよう、どうしよう、どうしよう! 


 なんで今日の酔っぱらいお姉さんはこんなに幼いの!


 いつもだったらからかって、「どうしたの~?」って感じでニヤニヤからかってきて、ムスッてなって終わりなのに……なんでなんでなんで!?


「あーき君! ねえあーき君! あーきーくぅん?」

 少しうるんだとろんとした目つきで、ふやふやと幼い雰囲気を醸し出して。

 甘い猫なで声で、ふわふわしてしまいそうな声で、そう聞いてきて。


 でもでもでも……でもお姉さんが言ってるから……でも、その……うーーー、むーーー……ううっ……!


「んー」とずっと手を伸ばしていたお姉さんの手をぎゅっとつかむ。

 もちっと柔らかい感触が⋯⋯今はダメです、今はダメ!!!


「えへへ~、あき君お風呂入れてくれるのぉ? シャンプー目に染みちゃやだからちゃんとシャンプーハットしてよねぇ! 身体洗うのは~、ふわふわのやさし~やつがいいな~!」


 僕の手をギュッと握り返して、トロトロの声でそう言ってにへへと楽しそうに僕の後ろをテトテトついてくるお姉さん。


 ああ、もう可愛い好き、大好き、でもダメ!

 もっとお姉さんとはちゃんとしないと、ちゃんとした時にちゃんとした感じでそう言う事にならないと!


 酔っぱらってるときに無理やりだなんてダメダメダメ! 絶対ダメ!!!

 お姉さんもちゃんとした時じゃないとダメダメダメダメダメダメ!!!


「ちょっと、あき君? お風呂そっちじゃないよ? お外出たらさぶいよ?」


「違います、お風呂はもういいです……だからもう、お姉さんはお部屋に帰ってください!」


「お部屋……やーだー! 今日はあき君の部屋で寝るの! あき君のベッドでラスカル君と一緒に寝るの!」

 ドアの前に止まってずんずん足踏みお姉さん……ああ、もう好き! 一緒にいたい! でもダメ、今はダメ!


「このラスカル君持ってていいですから! だから自分の部屋で寝てください、お風呂も後で良いですから……」


「むー。やだ! 今! 一緒!」


「いや、もうダメです、ごめんなさい、勘弁してください……もう色々限界が近いんです、お願いですからお部屋に戻ってください、頼みます……」


 お姉さんの手を取りながら、とりあえず外に出て、隣の家のドアノブをガチャガチャ……良かった開いてる、カギ開いてる、助かった……んだと思う。


「ほら、お姉さん、早くお部屋に……ラスカル君も一緒に……」


「え、何、ヤダ、あき君? あーき君!」

 じたばたと抵抗するお姉さんをそのまま隣の部屋に押し込む。

 そしてそのまま、ベッドの上にドーンと寝かす。


「……あき君?」


「……っ……お、おやすみなさいお姉さん!!!」

 クルクルの目で、物欲しそうに僕の方を見ていたお姉さんに一瞬で別れを告げて、急いで自分の部屋に戻る。


 ガチャっとカギをかけて、そのままお姉さんが座っていたクッションに顔を埋めて。


「……!!!!!!!!!!! ……っ!!!!!!!!!!」


 ああ、もうすごくいい匂いするし、お姉さんの温かい感覚がまだ残ってるし!

 ああ、もう好き好き、大好き大好き!!!


 どんな状態のお姉さんも好き! 

 幼くても、キリッとしてても、小悪魔な感じでも全部全部大好き!!!


「……!!!!!!! っ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 でもでもでも! 

 手出すのは違うし!


 僕まだ高校生だし、そのお金稼げるようになるまでは……うう、お姉さん!!!

 なんでもう、あんなに……ああ、もう、お姉さん!!!


 本当に、もう、今日も……寝れないよ、たぶん……ぷええええ……





「くかーくかー、ぬふふ、ら~すかるく~ん……ねへへ……」



《あとがき》

 自分は酔っぱらうとテンション高いモード・スーパーダウナーモード・呪文唱えだすモードの3種類があるそうです。



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