第21話 ピーマンはヤダ! でーもんふーど!
「ん~!!! やっぱりあき君のお料理は美味しいねぇ、最高だねぇ! この酢豚ご飯にあってパクパク食べれちゃうし……う~ん、あき君のお料理が食べれてお姉さんは幸せだよ~!」
たるんだほっぺでにやにやにやにや僕のわき腹をつんつんしてくるお姉さんを褒め続けて数分後、お姉さんは僕の作った酢豚を食べて同じようにほっぺをふゆゆんとたるませてニコニコしていた。
本当にずっとこの顔していてくれればいいのに。
本当に可愛くて素敵で、キレイで甘えるきゅあきゅあな人なのに……別にわがまま言われるのも嫌じゃないけど、でもこっちのお姉さんの方がやっぱり好き。
……今の言葉は少し、その……色々考えちゃいましたけど。
「……変な言い方しないでください。美味しいなら良かったですけど」
「ん~? 変な言い方って何かなぁ? あきく~ん、変な言い方ってなにぃ?」
「……もう、バカ、何でもないです! お姉さんには関係ないです!」
「え~、何それ酷い~? むー、あき君のお料理本当に美味しいって思ってるのに! あき君にずっとお世話してもらいたいって思ってるのに! ……ぷはぁ、本当に美味しいよ、あき君!」
「……もう、お姉さんは……ありがとうございます、です」
太陽みたいに煌めくキレイな笑顔に、僕は何も言い返せなかった……お姉さんも別に何も考えてないだろうし。
「うまうま~! ん~、本当に美味しい、ご飯とぽしゃけが進むく~ん!」
……僕の事本当にお手伝いさんとしか見てないんだろうし。
それはちょっと……いやかなり、悔しいな。
「みゅ~、う~ん、パクパク~!」
「……お姉さん、そんなに急いで食べるとのどに詰まりますよ」
「ぬへへ、ごめんね~。ありがと、あき君!」
「……どういたしまして」
☆
「……ん? んん? んんん!!! ちょっとあき君! ちょっとあき君!」
美味しそうに、楽しそうに酢豚とご飯を食べていたお姉さんのお箸が突然ぴたりと止まって、その勢いで僕の方をキリッとにらんでくる。
……急にどうしました、お姉さん?
ゴキブリかなんかでも入ってました?
「むむむ、違う! お食事中にゴキブリとか言わないの、あき君のダメダメ星人、デリカシー皆無男の子!」
「なんですか、それ……それでどうしたんですか、そんな大きな声出して」
「むー……あ、そうだった、そうだった! あき君、これ見て! この緑色のもの! お姉さんが持ってるこの緑の食べ物何かわかる!?」
ぷりぷりと怒ったようにバシッとお箸を僕の方に見せてくる……ちょっと怖いですよ、お姉さん!?
「怖いじゃない、お姉さんの方が怖かったです!!! これ何かわかるよね、あき君! この緑色の食べ物!」
「……ピーマンですけど? それが何か問題でもあるんですか?」
「何か問題でもじゃなーーーーーーい!!!」
ほっぺをぷく―っとふぐみたいにぷくぷく膨らませて、くあーっと大きな声で叫ぶお姉さん。
お姉さん、近所迷惑だからちょっと……
「ちょっとじゃない、近所迷惑でも関係なーーーい!!! あき君、お姉さんがピーマン嫌いな事知ってるよね、ピーマンはでーもんふーどって言ったよね!!!」
でんでん大きく机を叩きながら、僕の方を睨んでそう叫んで。
「……お姉さん、ピーマン食べないと大きくなれませんよ?」
わざと入れたんですよ、お姉さん、お皿の奥に見えない様に。
その……僕の料理ずっと食べたいならそれくらい食べれるようになってください、お姉さんは好き嫌いが多すぎます!
「お姉さんがもう十分大きいもん! お姉さんはもう全部大きいもん、ナイスバディだもん、良い女だもん! だからピーマンなんて食べなくていいんだ!」
そう言って体をだだーんと見せつけてくるお姉さん。
確かにお姉さんはキレイで可愛くてスタイルもいいステキな女の人ですけど……それとこれとは話が別です!
お姉さんのわがまま、たまには反抗します!
「だーめーです! お姉さんにはしっかりと好き嫌いをなくしてほしいんです!」
「好き嫌いなんてあっても困らないし! あき君がそれを抜いて料理してくれればいいんだし! お姉さんにこんな苦くてまずいでーもんふーどを食べさせようなんて……あき君の鬼! いじわる! 外道! 悪魔! お姉さんの敵!」
「僕は悪魔でも外道でもないです、親心です。だからしっかりピーマン食べられるようになってください、もうご飯作ってあげませんよ?」
「むむむ、それはずるいよ! そんな事言われたら……んんん、でもピーマンは……」
「お姉さん、もう少しです。それを口に運ぶだけです、酢豚の味がついてて美味しいですよ?」
そう言うと、おねえさんはむむむとお皿を見つめる⋯⋯お?
「ん……あき君のお料理は……でも、ピーマンは、青くて苦くて……でーもん……むむむ、むー……むーーー!!!」
「痛ぁ!? 何するんですかお姉さん!?」
悩まし気な、辛そうな表情でピーマンを眺めていたお姉さんが、突然掴んでいたピーマンをお箸で器用に僕のおでこめがけて投げてきた……お姉さん!
「だ、だって、だって! やっぱり嫌なんだもん! お姉さんピーマン嫌いなんだもん、食べれないもん! あき君がお料理作ってくれないって言っても……やっぱり嫌だもん!!! ピーマンは悪魔の食べ物だもん、食べれるわけないもん!!!」
少し反省した様に、でもやっぱり文句をぶーぶー言って、つんとそっぽを向くお姉さん。
お姉さん……これは本当にダメですよ!
「お姉さん! いつも言ってるでしょ、食べ物は粗末にしちゃいけませんって! 食べ物投げるなんて絶対にダメです、なにしてるんですか! もうご飯作りませんよ、本当に!!!」
「ぴえっ!? いや、そのあき君、その……ごめん。でも、でもぉ……! でもやっぱり食べられないもん、無理だもん! お姉さんピーマンは無理なんだもん!!! その……投げたのは、ごめん。ぶつけてごめんなさい、お姉さんが悪かったよ……けど、ピーマンは食べられないもん、でーもんふーどだもん……」
泣きそうな声で、あやまりながらシュンとそう言うお姉さん……そんな顔されたら許したくなりますけど、なりますけど……絶対にダメです!
食べ物を粗末にしたことは許しません!
「お姉さん、ちょっと見ててください」
「な、なにぃ? 私の事怒るの……?」
「怒りません、大丈夫です。だからちょっと見ててください」
「う、うん……わかった……」
シュンとした顔で恐る恐る僕の方を見てくるお姉さん。
申し訳なさな泣きそうな顔で、ちょっとやっぱり……いや、ダメだ!
ピーマンストライクをしたからには、今日でちゃんと食べられるようにしなきゃダメだ!
餡のおかげで、おでこに張り付いて離れなかったピーマンを、そのまま僕の口に運ぶ。
……うん、やっぱり美味しい。
全然苦くないし、ピーマンにもしっかり味付けできてる。
「あ、あき君何してるの? そんなもの食べたら汚いよ、お腹壊すよ?」
「汚くないですよ、お姉さんが投げたんでしょ? だから汚くないです……ピーマン美味しいですよ? このピーマン全然苦くないし、味付けもしっかりしてますし……お姉さんでも美味しく食べられるようになってます、大丈夫です」
普段は見せないおろおろ顔のお姉さんにそう言う。
ピーマン嫌いでも食べれる、そんな味になってるはず。
僕に言われたお姉さんは、もう一度お皿を見て、やっぱり複雑で、しんどそうな表情になって。
「で、でもぉ……お姉さん、やっぱりピーマンはむりぃ……だって、でーもんふーどだから……その、ちょっと……」
「でもじゃないです、食べられます! それに、悪魔の食べ物なんて言ったらピーマン作ってる人に失礼です、怒られます」
「むぅ、それはそうだけど、そうだけど……ねぇ、あき君、本当にピーマン美味しい? お姉さんのほっぺがてるてるしちゃうくらい美味しい?」
そうやってうるうるの上目遣いで僕を見てきて。
……美味しいにきまってるじゃないですか、誰が作ったと思ってるんですか?
「うん、あき君が作ったんだから美味しいとは思うけど……けど、けど……」
「お姉さん、大丈夫です。一口食べたら病みつきになりますから」
「う、そう言われると、けど……でも……うん、わかった。頑張る。お姉さん、頑張る、頑張って食べる」
覚悟した様に小さく頷いて、プルプル震えるお箸でお皿のピーマンを掴む。
「う、デーモン、ううっ……でも、あき君の料理、だから美味しい……でもデーモン……」
「お姉さん、頑張ってください!」
「うん、頑張る、頑張る。デーモンだけど美味しいもん、だから……いただきます!」
そう言って目を閉じたお姉さんは一気にお箸に掴んだピーマンを口に運ぶ。
「ん!? んん……ん!」
「大丈夫ですか、お姉さん?」
「んん、んん! んん! んん……んんっ……ぷはぁ……ハァハァ……けぷっ」
少し嫌そうに顔をしかめたお姉さんだったけど、それでもピーマンは吐き出さずに、なんとかごくっと飲み込んで。
少し顔をしかめながら、でもやったよ! という風な笑顔で僕の方を見てきて。
「……お姉さん、ピーマン美味しかったでしょ?」
「ううん、美味しくないよ、やっぱり美味しくない! ……でも、これまで無理やり食べさせらたピーマン料理の中では、一番、だったかも……でも美味しくなかった! だからお姉さん頑張った! 頑張ってピーマン食べたよ、お姉さん!」
そう言って、ほめてほめてという風に僕の服を掴んで……もう、しょうがないな。できて当たり前だけど、大事な一歩だもんね。
「美味しいって、ありがとうございます。お姉さんはえらいです、本当にえらい。苦手なものしっかり食べれて立派ですよ、よく頑張りました!」
「んん、ありがとう……にへへ……ねえ、お姉さんえらい? ちゃんとピーマン食べれたお姉さん本当にえらい?」
袖に顔を埋めたお姉さんが、さっきみたいにふんふんそう聞いてきて。
……ほんと、お姉さんもあまえんぼうですよね、結構。
本当にほめられるの大好きですよね⋯⋯そういう所も可愛くて好きですよ。
「はい、えらいです。すごくえらいです……これからも苦手な食べ物挑戦していきましょうね!」
「むー、それはしたくないけど……もう十分なんだけど」
「ダメです。しっかり好き嫌い、僕と一緒になくしていきましょうね」
「むー、あき君のいじわる……でもでも今日は頑張った! 今日は頑張ってピーマン食べた! だからあき君、お姉さんはご褒美にお米とビールと酢豚のおかわりを所望する! もうちょっとあき君のお料理食べたいから……おかわりを所望する!」
そう言って、酢豚以外はいつの間にか空になっていたお皿を僕の方に差し出してくる。
僕の料理もっと食べたいか……アハハ、嬉しいな、本当に。
「……そんなに食べると本当に太りますよ、お姉さん」
「太らないもん! これはご褒美だから大丈夫だもん!」
「そうですか……それじゃあ、入れてきますね、貸してください」
「ありがとう、あき君……あ、そうだ、酢豚にピーマン入れても、大丈夫だから。無理によけなくても大丈夫だから……今日のお姉さんはえらいから、ピーマン頑張って食べるから」
もじもじと手をいじりながら、少し恥ずかしそうにそう言うお姉さん……本当に、えらいです、お姉さん。
「わかりました、それじゃあ隠しピーマンたっぷり入れてきますね!」
「む、たっぷりは嫌だけど……お姉さん、頑張る。あき君のお料理、食べたいから頑張る……!」
むん、と小さくガッツポーズして僕の方を見つめてくる……可愛い。
「ふふふ、冗談ですよ。それじゃあ入れてきますんで少し待っててくださいね。ビールは短い奴にしてくださいね、倒れられても困りますから」
「うん、わかった……にへへ、いつもありがとね、あき君!!! 本当にご飯美味しいし、お世話してくれて……本当にありがとう!」
「な、なんですか、急に……どういたしましてです、お姉さん」
急に感謝の気持ちを伝えてニコッと微笑むお姉さんにどぎまぎドキドキしながら、僕も満面の笑みでその言葉に答えた。
よーし、感謝も貰ったし、大盛にしてあげるか!!!
《あとがき》
12時、間に合いませんでした! ごめんなさい!
想定の倍くらい長くなりました、あるあるです、ダノンスコーピオンおめでとう!!!
感想や評価などいただけると嬉しいです!!!
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