第20話 お姉さんを褒めて! もっとえらいえらいして!

「ふむむ~、ふむむ~、まだかな、まだかな~……ちらっ、ちらっ……らんるんる~ん、まだかな、まだかな~……ちらっ、ちらっ」


「……もうちょっとで出来ますから、おとなしくしててください」


「やった、やったね! ぬふふ、さっきのピーナッツの分も美味しいご飯にしてくれないと許さないんだよ~……んっ、んっ……ぷはぁ、ピーナッツうまうま」


「……ハァ……」


 チラチラと僕の方を見ながら、そう言って投げたピーナッツの袋をおつまみにビールを飲むお姉さんに、僕はため息をついた……もう今日はずっとこれだな、本当に。


 まあでも、酢豚が完成に近づいているのは事実だし、なぜかご飯は炊けてたし、そろそろお姉さんの口を黙らせることが出来そうだ。


「ぱんぱぱん、朝はパン~だけど夜は酢豚です~あき君のお料理で~す!」

 待ってろ、お姉さん、今ピーマン入り酢豚食べさしてあげますからね!



 ☆


「う~ん、赤くて美味しそうな色! お肉も大きくて、きゃろちゃんも味が染みこんでそうで……ぬふふ~、やっぱりあき君はお料理美味いねぇ!」


 出来た酢豚と山盛りの白米(副菜は諦めた)を前に、そう言ってにへへと微笑むお姉さん。


 ……まだ一口も手を付けてないじゃないですか、食べてから言ってくださいよ。


「んむむ、まだしてないことがあるからね~、ご飯食べる前にそれしなきゃ!」


「なんですか、いただきますですか?」


「むー、違う! そんな初歩的なことは序の口だよ、当たり前だよ! そんなことじゃない、もっと別の事!」

 ぷりぷりと怒りながら、僕の方を見てくるお姉さん。


 ……なんだろう、新しいビールかな?

 でも空き缶もう4つもあるし、そろそろ明日の仕事に響きそうだからやめた方がいいかと思うんだけど。


「むむむ、それでもない、早くきづけばか! それにお姉さんはいくらビール飲んでも酔っぱらいません、次の日も大丈夫です! なぜならお姉さんは強いからね! ふんふん!」


 ふんすか鼻息を荒げて、シャドーボクシング。

 これで酔ってないとは言わせませんよ、お姉さん……もとからこんな感じの人疑惑もありますけど。


「ふんふん……ってそうじゃなくて、そうじゃなくて! お姉さんは今日お仕事頑張ったんだよ! お仕事、大変だったけど頑張ったんだよ……そんなお姉さんに何か言う事はありませんか!」


「……何を言って欲しいんですか? 僕も学校頑張ったんですけど」


「そうか、あき君えらいねぇ! でももっと早く帰ってきなよ、お姉さんのお世話があるから! ……ぬふふん、という事であき君、お姉さんにいう事ありませんか? ほら、あーき君? あーき君!」


 ドドーンと胸を張って、ぬふふんと楽しそうな表情で。

 僕からの言葉を待つように、ふるふると体を揺らして。


「……この時間にご飯たくさん食べたら太りますよ、お姉さん」


「うん、うん、あき君あり……ってちがーーーーう!!! そうじゃない、それにお姉さんは太らないし! いつでもいつまでもナイスバディだし! そう言う事じゃない、もっとあるでしょ、もっと!」


「……野菜食べないとお肌荒れますよ、もっと野菜も食べてください」


「むきーーー!!! 違う、違うでしょ、あき君! もっと、もっと大事なことがあるでしょ! お姉さんは仕事頑張ったの! 今日もお仕事しんどかったけど頑張ったの! 疲れてるの、ふわふわしてるの! ……もう言いたいことわかるでしょ!」

 ぷんすかぷんすかほっぺを膨らませながら、そう言ってドンドン机をたたく。


 もう、酢豚がこぼれますよ、まったく……ハァ


「落ち着いてください、お姉さん。ふわふわしてるのはビールのせいでしょ?」


「だからお姉さんは酔わないって言ってるでしょ! あき君のいじわる、バカ! むー、早く言ってよ、お姉さんの言って欲しいこと! 私にえらいえらいしてほめたたえてよ、もっと甘えさせてよ! もー、あき君のいじわる鬼畜変態お料理上手顔可愛い系お手伝いさん! バカ!」


 じたばたじたばた子供みたいにプンプン怒って、でもちょっと泣きそうな寂しそうな顔で僕の肩を揺らすお姉さん……もう、しょうがないですね、本当に。


 そんなことしないでも分かってますよ、本当は……恥ずかしいし、なんかあれだから言いませんけど。


「あーき―君! ねぇ、あーき―君!!!」


「……わかりましたよ、言えばいいんでしょ、言えば」


「うん、言って! 早く素直にお姉さんに言わなきゃいけないこと言って! お姉さんの事甘やかして!」

 ギュッと僕の肩を握って、真っすぐ瞳を合わせてきて。

 怒ったような、でも泣きそうなウルウル潤んだ瞳で僕の方を見つめてきて。


「……お姉さん、今日も一日お疲れ様です。お仕事、よく頑張りました」

 ……本当にずるいですよ、お姉さんは。

 そんな顔されたら言うしかないじゃないですか。


 お疲れ様ですって。

 がんばりましたね、って。


「にへへ、にへへへへ……う~ん、ありがとうあき君! でももうちょっと早く言ってよね……という事でもう一回! もう一回、お願い、あき君?」


「……お疲れ様です。よく頑張りました、お姉さん」


「ぬへへ、ぬへへへへ……ねえねえ、あき君、お姉さんえらい? 毎日お仕事頑張ってるお姉さんえらい?」


「えらいですよ、本当に。毎日毎日朝から晩までお仕事して本当にえらいです。疲れてもしんどくても、毎日よく頑張ってます」


「ぬふふふ、そうでしょ、そうでしょ! お姉さんえらいでしょ~! ……ねえねえ、あき君、もっと褒めて? お姉さんの事もっと褒めて? えらいえらいって、頑張っててすごいって、もっと言ってよ。つんつん、つんつん……ねえねえ、あきく~ん、あ~きくん?」


 たるんだだらしな笑顔で、つんつんと僕のわき腹をつつきながら、甘える声でふにふにとお姉さんが絡んできて。


 もう、本当に……好きです、お姉さん。大好きです。



「あ~きくん? ねぇ、あ~きくん!」


「ふふふ、すごいです、お姉さんは。本当にすごくて、えらくて……素晴らしい人です」


「ぬへへぬへへへ……ぬへへへへ……あーきー君⋯⋯ぬへへ」

 たるんだ顔をさらにふよふよにしながら、ひまわりみたいに笑った。



《あとがき》

 長く書きすぎてしまう、私の悪い癖!

 今日はもう一話上がる可能性があります。


 感想や評価などいただけると嬉しいです!!!

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