第19話 お姉さんにご飯を作りなさい!!!

「あき君! 誘拐されてないなら早く帰ってきなさい! そしてお姉さんにご飯を作りなさい! 今日は酢豚の気分だから! 今すぐ酢豚を作りなさい!」


 缶ビール片手に、ふらふらと赤い顔のお姉さんんが少し怒ったような声で僕にそうまくしたててくる……僕の部屋で。


 ……なんでお姉さん僕の部屋にいるの?


 お酒飲んでるし、テレビついてるし、めっちゃくつろいでるけど……部屋間違えちゃったのかな? 

 いや、でもカギちゃんと閉めてきたはずだし……どうやって入ったんですか?


「むー? むー! あき君ちゃんと話聞いてないでしょ、ちゃんとお姉さんの話を聞きなさい! もう9時だよ、あき君が夜で歩いていい時間じゃないんだよ! あき君は私のお世話係でしょ、だから早くこのお腹ペコペコの可哀そうなお姉さんに酢豚を作りなさい! お姉さんのお世話をしなさい!!!」


 ブーブー文句を言いながら、ぺちぺちと痛くない程度に僕の頭を叩くお姉さん……ええっと。


「……あの、お姉さん質問良いですか?」


「むむ、お姉さんの話聞いてる~? ……むう、本当は受け付けないところだけど、特別に聞いてしんぜよう! あき君は特別に質問を聞いてあげるであります!」

 大迫力に胸を張りながら、デデーンと腕を組んでそう言って。


「あ、ありがとうございます。そ、それじゃあ、まず……なんでお姉さんは僕の部屋にいるんですか?」


 まずは最初にこの質問。

 一番の謎であり、根源のお姉さんがなぜ僕の家にいるか問題。


 僕の質問を聞いてお姉さんはむふふんむふふん頭を揺らす。


「ふむふむ、なるほど! むふふん、答えてしんぜよう、このお姉さんが! それはそれは! この部屋が、あき君の部屋だからだよ! あき君の部屋だから、お姉さんがいるの! 他の人に家には出没しないよ、お姉さんは!」


 ドーンと胸を叩いて自信満々にそう答えて……いやいや、そう言う事じゃなくて。


「あの、どうやって僕の部屋に入ったかというか……カギ閉まってましたよね?」


「うん、カギは閉めてたよ! でもでも~、あき君の合鍵がポストの裏側に引っ付いてることお姉さん知ってたから! だからだから~、それを使って入ったのです! お姉さん凄いでしょ、やるでしょ! 観察眼の鬼、名探偵聖花ちゃん!」


 相変わらず自信満々な表情でルンルン楽しそうに自画自賛をして。



 ……そっか、カギの位置バレてたか。

 逆にわかりやすいところにあるから盲点になるかと思ったけど……そっか、普通にバレてたか。


 ……まあ、でもいずれお姉さんには合鍵渡せたらいいなとは思ってたし……これはこのままでいいか。


 勝手に部屋に入られるのは困るけど……まあいいか、どうせお酒飲む以外はしないだろうし。

 勝手に部屋の中色々探されたら困るけど……まあ、大丈夫だと思うし。


「という事で、名探偵聖花ちゃんの推理によってあき君の部屋で帰りを待ってました! ずっと待ってました! だから次はお姉さんの「ちょっと待ってください、もう一つ質問良いですか?」


 ほっぺを少し膨らませながら何かを言おうとするお姉さんの声を遮って、僕も追加質問の要求をする。


「むー、今度は何かな? お姉さんの顔も3度までだよ、次までだよ!」

 ほっぺの膨らみを加速させたお姉さんの顔は不満げになるけれど、でも質問を許してくれて。


「すみません、多分最後です……その昨日、僕カレー作りましたよね? 結構な量作ったと思うんですけど……もう全部食べちゃったんですか? あれだけあったのに?」


 昨日の作ったカレーは2つのルーをお姉さんの家にある大鍋にブレンドしたから、分量通りであれば20皿分くらいはあるはず。


 昨日の夜にお姉さんが結構食べてたけど、まだ残ってると思ったんだけど……まさか朝に全部食べちゃったとか?


 お姉さん、みかけによらず大食いだから……もしかしたら全部食べちゃったのかも。


 そう聞くと、お姉さんはぷくぷくほっぺのままぷんぷん怒り出して……およ?


「もう、あき君はお姉さんの事なんだと思ってるの! お姉さんはそんないっぱい食べる食いしんぼう妖怪あまびえちゃんじゃなーい! まだカレー残ってるし、冷蔵庫の中ですやすやしてるし!」

 そう言ってぶんぶんと手を振り回す……なんだ、カレー残ってるのか。


「お姉さんは鮭とばお化けですもんね……ていうか残ってるならそのカレー食べてください。僕はもうご飯食べましたし、今日は疲れてるので」


「むー、誰がてるてる妖怪鮭とばちゃんだ、可愛い可愛い妖怪ちゃんだ! お姉さんはそんなんじゃないわ! カレーは残ってるけど、今日は酢豚が食べたい気分なの! 二日連続のカレーじゃなくて、酢豚が食べたい気分なのー!!!」


 そう言いながら、じたばたじたばた、足も手も大きく振って暴れ始めるお姉さん……もう、下の人に怒られるので静かにしてください!


「むんむん、これがどうして落ち着けようか! お姉さんは酢豚が食べたいの! それに二日連続で同じものとか……あき君はお姉さんにいじわるしたいの!? いじわるしたいんだね、あのエッチな本みたいに!!!」


 演技ったらしい、恨めしそうな流し目で僕の方を見てきて。

 二日連続同じものくらい我慢してくださ……え、ちょっと待って今なんて言った? 


 最後の最後になんて言いました、お姉さん!?


「ん~、エッチな本だよ、あき君が隠してた! あのお姉さん似ている女の子が表紙の……」


「ちょおおおおうぇぇぇぇぃぃぃ!!! おおおおおおお姉さん、なんでそれを!!?? なんでそのぶつを!?!?!?」


 待って、なんで、なんであの本のことお姉さんが知ってるの!?


 友達とお店に行って「お姉さんに似てるから」って理由で買ったあのハードな同人誌の存在を……なんでお姉さんが知ってるの!?

 よりにもよってなんでお姉さんが知ってるの!?


 ちゃんと見つからないような場所に隠したのに……隠したのに!?


「なんでって、だってテレビの下にあったからだよ! ……ダメだよ、あき君女の子にあんなことしたら! あんないじわるで激しくてハードな事したら好きな女の子に嫌われちゃうよ! もちろんお姉さんにもね!」


「あああああああ!!!!!! あばばばば、あば、あば、あばばばば……ややややめて、やめてください、本当に、もう、ダメ……殺してください、僕を殺して……一思いに首ちょんぱしてください……スパっと殺してください……」


 ……なんで中身まで読んでるんですか!?

 もう、本当に、もう……ダメだ、お嫁にいけないよ、もう……

 お姉さんに見つかって読まれたの……ああ、もう、本当に、ダメだ……


 あれ内容がものすごいハードだったし……絶対にお姉さんに勘違いされたよ、それに……ううっ、死にたい、殺して、誰か僕を葬って……




「……大丈夫だよ、あき君。お姉さんはすべて許してあげる。あき君がどんな性癖持ってようと男の子だもん、許してあげるよ! だって天使の聖花ちゃんだもん!」


「……お姉さん?」

 絶望に打ちひしがれる僕の肩をお姉さんがポンポンと優しく叩いてくれて。

 その顔はいつにもまして優しくて。


「うん、お姉さんだよ、妖怪じゃなくて天使のお姉さんだよ! だから、大丈夫だよ、あき君。天使のお姉さんはあき君が何してても気にしない、あき君はあき君だから!」


「……お姉さん!」

 お姉さんの笑顔は天使のほほえみに見えて……すごくキレイで嬉しくて。

 僕を許してくれるんですね、天使のお姉さん……嬉しいです!


 そんな天使のお姉さんは天使スマイルのままポンと手を打って。

 まだ何かあるのですか、お姉さま!


「それにあき君が死んじゃうとお姉さんが困るし! あき君が死んじゃったらご飯作ってくれる人も、部屋の掃除してくれる人もいなくなるし!」


「……お姉さん?」


「だからだから、あき君は死んじゃダメ! お姉さんのお世話をするって言う義務があるんだから! お世話して甘やかす責任があるんだから!」


「……お姉さん……」


「だからあき君、お姉さんのために働いて! 今すぐ酢豚作って! 天使のお姉さんのためにえらいえらいしながら美味しい酢豚作って食べさせて!」

 ニコッとした笑顔のまま、いつもの駄々をこねる小さな子供みたいな声で言って。




 ……もう、お姉さんのバカ! バカバカバカ!

 なんで最後の最後に絶対そうなるんですか!!!


 昨日のエプロンもだけどちょっと感動しちゃった僕の気持ち返してよ、バカお姉さん!!!

 酢豚は美味しく作るけど!!!



 ☆☆☆

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