第18話 月降る夜はのんびりゆるりと
ラーメンを啜り終えて、のんびり熱そうに啜る委員長を待つこと数分。
9月もそれなりに過ぎて、月がキレイな外の空気はすごくひんやりしてて、ラーメンで火照った身体を冷やすのにはちょうどいい温度だ。
「ふふふ、ラーメン美味しかった! こんなおいしいお店、ありがとね、斉藤君。それに……ゴチになりました!」
月夜に照らされた委員長がお腹をさすりながらにへへと満足そうに笑う。
熱くて結構大変そうだったけど……喜んでもらえたなら良かった、僕の財布はちょっと薄くなってしまったけど。
……そう言えば結構長居してしまったな。
今何時だろう?
スマホの画面に目をやる。
表示された時間は午後7時42分……もういい時間だ、お姉さんもう夜ご飯食べてるかな?
今日は昨日のカレーがあるからそれ食べてくれてるといいけど……ていうか今の時間からご飯ねだられても作れないけど。
まあ、でも酔っぱらってたり、どうせ洗い物いっぱい出てるだろうし……今日も帰ってその辺やんなきゃだね。
「よし、それじゃあ委員ちょ……」
「……ま、待って斉藤君! あ、あのさ……この後もさ、時間って、あったりする?」
委員長にサヨナラして、お家に帰ってやることやろうと思っていたけど、少し必死な感じの委員長に止められる。
この後か……うん、用事って言う用事はない、いつも通りのお姉さん関連だ。
「そ、そっか。うん、そっか……そ、それじゃあさ! この後さ、本屋さん寄らない? その私買いたいマンガがあるんだけど……一緒にどうかな?」
首をくいっと傾けて、のぞき込むように聞いてくる。
「本屋さん? 別にいいけど……それも罰ゲームの続き? そのマンガ、僕が買えばいいの?」
「え、違う。違うよ、そうじゃないよ、マンガは自分で買うよ。その、一緒に行きたいだけというか、いや、その夜一人で歩くのとかも怖いし、斉藤君のおすすめとかも聞きたいというか! だから、その……一緒にダメ、かな?」
手をわちゃわちゃ大きく動かしながら、少し心配そうにそう聞いてくる。
まあ、本屋さん寄るくらいなら全然いいか、今日は夜ご飯も食べたし作ってあるし。
「わかった、僕も一緒に行くよ。どこの本屋さん行くの?」
「えへへ、ありがとね、斉藤君……その、ここからはちょっと遠いけど、あのおっきな本屋さんに行こうと思ってるんだ。その、私の家も近いしね」
「へー、そうなんだ。ちなみに僕のマンションもそっち方面だよ、意外と家近いかもね」
「本当に? えへへ、それならなおさらその本屋さんだね! それじゃあ、本屋さんに向かってレッツゴーだよ、斉藤君!」
「うん、ドンキだね!」
「ふふふ、キリシマだよ! それじゃあ、行こっか!」
らんらーんとスキップするように、月明かりの路地を歩き出す委員長の隣に立って、僕も一緒に歩き出す。
「……斉藤君はさ、なんて名前のマンションに住んでるの?」
「……どうしたの、急に?」
「え、その……ちょっと知りたくなってさ。ほら、教えてくれたら遊びに行ったり、その……家事のお手伝いとかに行ってあげられるし! だからその、教えて欲しいなーって」
「ふふふ、どうしようかな……うーん、今は教えてあげない、また今度ね」
「えーなんで? 教えてよ、斉藤く~ん! お手伝いしてあげられるよ?」
「今は大丈夫だから……だから、また機会があれば教えてあげる」
「むー、何それ……絶対教えてよ、斉藤君のマンションとお部屋の番号!」
「ふふふ、また今度だね」
☆
「本当に今日はありがとね、斉藤君。本屋さんにも付き合ってくれたし、家まで送ってくれて……ふふふ、本当にありがとう! 感謝の気持ちでいっぱいだよ!」
「ハハハ、何それ。そんなに感謝してもらわなくても大丈夫。女の子が夜に一人で家帰るの危ないからね、それについていくのは男の義務でありますよ!」
「ふふっ、斉藤君の表現もちょっと変だよ……でもありがとうの気持ちは本当。すごく、嬉しかったから」
そう言って笑顔になる委員長に僕も笑いかける。
あの後、本屋さんでは委員長と好きなマンガとか小説とかの話とか、まあ言うならば学校の会話の延長戦みたいな会話をしながらだらだらと本屋さんで過ごした。
僕は何も買わなかったけど、委員長は買いたかったマンガをしっかりと買えたみたいで顔をホクホクにして喜んでいて……良かった良かった、ちゃんと買えたみたいで。
それより、もう8時半だ、そろそろお家に帰りましょうやい。
「それじゃあ委員長、もう遅いし、また明日、学校で会おう!」
「うん、そうだね、また明日……あ、待って斉藤君」
「おっとっと……今度は何?」
「ふふふっ、何でもない……おやすみ、斉藤君」
「もう、何それ……おやすみ、委員長」
「ふふふっ……おやすみ、斉藤君!」
「うん、おやすみ……じゃあね!」
手を振る委員長が見えなくなるまでは手を振って、家路に急ぐことにした。
うーん、今日は宿題がないから……帰ってゲームだな!
☆
いつものマンション、いつもの3階207号室。
いつものようにポケットから鍵を取り出して、ガチャリとドアを開ける。
そしていつもみたいに真っ暗な部屋に向かって「ただいまー」って……
「あ、お帰りあき君! お帰りだけど、遅いよ! なんでこんなに遅いの、お姉さんにいじわるしたの! お姉さんを餓死させるつもりだったの!?」
……なぜか電気のついている部屋の中には、これまたなぜかビール片手にぷんすか怒っているお姉さんがソファに座っていた。
……あれ? ここ207号室だよね?
隣の部屋と間違えたかな……?
そう思って、部屋番号を確認するけど、やっぱり207号室、お姉さんの隣の僕の部屋。
……なんでお姉さんいるの?
少し混乱気味の僕に、ずかずかとお姉さんが近づいてきて、右手の持った缶ビールをぐびぐびと喉に注ぐ。
「ん、んっつ……ぷはぁ! もう、あき君、本当に遅い! お姉さん心配したんだよ! あき君が誘拐されたんじゃないか、あき君が変なことされてるんじゃないか、って……もう、無事に帰ってくるならもっと早く帰ってきなさい!」
「え? あ、はい、ごめん、なさい……」
ふらふらと赤い顔でお姉さんにそう言われるけど……ちょっとなんでお姉さんが僕の部屋にいるのか、とか色々、えっと……なんで?
「もう、ちゃんと反省してる? 反省してよね、お姉さんもお腹空いて死にそうだったんだから! 罰として、あき君! 私に今すぐに美味しい酢豚をつくりなさい! 今すぐだよ、すぐにだよ! すぐに酢豚を作るのです!」
考えがまとまらない僕をよそに、お姉さんはビールで少し赤らんだ顔でそうまくしたてた……えっと、なんでぇ?
《あとがき》
久しぶりのお姉さん×あき君です。
先輩の話ほとんど別の話になっているので良ければ読んでいただけると嬉しいです。
感想や評価などいただけると嬉しいです!!!
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