第17話 帰りにラーメンつるつる
「ば、罰ゲームって言うのは……私と一緒に夜ご飯を食べに行くことです!」
ビシッと僕の方を指さした委員長が、そう言って頭を下げる。
「……え、そんなんでいいの? なんかもっと……本当にそんな感じで大丈夫?」
……正直少し拍子抜けしてしまった。
委員長、結構気合入ってる感じだったし、とんでもない罰ゲームが来るんじゃないか……そんな風に思ってたけど、やってきたのは罰ゲームとも思えない、なんか普通の食事のお誘い。
宿題やってこい、とか、掃除しろ、とかじゃなくていいの?
「え、だってそんな事斉藤君にやらすのは悪いし……だから、一緒にご飯食べに行けたら、私はそれで満足って言うか、その罰ゲームとしては十分というか……ダメ?」
そう言って心配そうに、少しうるんだ瞳で僕の方を見つめてくる委員長。
「いや、ダメじゃないけど……罰ゲームにはなってないって言うか。それ普通のご飯のお誘いって言うか」
正直これをやっても楽しい以外の要素がないような。
「え、あ、そ、そうだよね、これじゃあただのお誘いになっちゃうよね……うん、それじゃあ罰ゲームっぽいものつけるね! えっと……決めた! 斉藤君は私に夜ご飯をおごる! 私は斉藤君のお金で夜ご飯を食べる! これでどう?」
僕の言葉を聞いて焦ったように考えた後、ご飯の奢りの提案をしてくる委員長。
おお、これは確かに罰ゲーム。
「でしょ、でしょ! という事で斉藤君には私に夜ご飯をおごる権利を差し上げます!」
「ふふふ、いらないなその権利。でも分かった、それじゃあ、夜ご飯一緒に食べに行こっか」
「えへへ、それじゃあ食べに行こう! ふふふ、ご飯、ご飯、楽しみ楽しみ~! 人のお金で食べるごは~ん! 斉藤君のお金で~食べるごは~ん!」
「ふふふ、何その歌」
「で……罰ゲーム、楽しみってこと! ほら、早く行くよ、斉藤君!」
ルンルンとスキップで、楽しそうに階段を降りていく委員長に「危ないよ」と一声だけかけて、僕もその後ろを追いかけた。
☆
「ふーふー……熱、熱い! 舌やけどしちゃった……斉藤君、お水頂戴、お水!」
「ふふふ、もう3杯目だよ、お水……熱いの苦手だったらラーメンにしなくてよかったのに。もっと別のものでもよかったよ?」
「ん、ありがとう……んっ、んっ……ぷはっ……その斉藤君にあんまりお金の面で迷惑かけたくなかったし、それに放課後に友達とラーメンって憧れてたから!」
犬みたいに舌をはふはふさせながら、湯気と熱気で真っ赤になった顔をニコッと崩す。
委員長は意外と友達が少ない。
委員長の罰ゲーム、もとい夜ご飯に選ばれたのは学校から少し離れたラーメン屋さん。
委員長に「おすすめのラーメン屋さん教えて!」と頼まれたので、前に友達と一緒に食べに来たこのラーメン屋さんに行くことにした。
ここのお店はアツアツのドロドロの豚骨スープが美味しいお店なんだけど……委員長猫舌なんだったらお店のチョイス間違っちゃったかな?
「間違ってたないよ! アツアツだけど美味しいし! それに⋯⋯だし!」
⋯⋯委員長もこう言ってるしいいのかな? まぁ、いいか、美味しそうに食べてるし!
それに僕もここのラーメン久しぶりに食べたかったし!
つるつると熱い豚骨のスープに麺を絡めて一気に啜る。
確かにアツアツで、舌とか口の中は少し痛くなるけど……うーん、やっぱりこのお店のラーメンは美味しい!
僕が豚骨ラーメンを好きってのもあるけど、ここのスープは他の店より濃厚で、ドロドロしていて、それが麺と上手く絡み合ってて……うーん、やっぱり美味しい!
いつも(大体お姉さんのせいで)自分でそれなりに健康的な料理を作ることが多いけど、たまにはこういうジャンク的な外食ってのもありだね!
「ふふふ、美味しそうに食べるね、斉藤君は。斉藤君はラーメン好きなの?」
一心不乱にラーメンを啜っていると、箸休めに無料のもやしのナムルをパクパクしていた委員長がクスクス笑いながら聞いてくる。
どうやらラーメンは少し冷めるまで食べるのを諦めたらしい。
「そうだね、ラーメン結構好きだよ。まあ、普段は家で自分で料理してるからこういう外食の機会ってのが嬉しいってのもあるんだけどね」
「⋯⋯なるほど! じゃあ罰ゲームで外食にしたのは正解だったってわけだね! えへへ、私に感謝しなさいよ、斉藤君!」
「ふふふ、罰ゲームでしょ? 感謝出来ないよ」
「むー、そうだけど! 外食する機会を作ってあげたから感謝案件だよ、だからこの前野若葉に感謝せよ、だよ!」
口の端からもやしをぺろんと垂らしながら、そう言ってドーンと胸を張る。
よくわかんないけど、ありがとうなのかな?
取りあえず、僕はアツアツ好きだから、冷めないうちにつるつるしないとだね!
「……あのさ、斉藤君。斉藤君さっき自分で料理してるって言ってたよね? その……普段は何作ってるの?」
ラーメン啜りに復帰した委員長が、熱そうな顔をしながらそう聞いてくる。
普段の料理、普段の料理ね……
「うーん、普段の料理って言われても作ってるものその日の気分によって決まるからね。焼き魚作る時もあれば、適当に野菜炒めの時もあるし、お肉料理も作るし、後は……なんかパエリアとかアクアパッツァみたいなちょっとおしゃれな料理の時もあるし」
まあ、そう言う料理作る時は大体お姉さんのわがままなんだけど。
お姉さん、自分は料理作れない鮭とば妖怪のくせにリクエストだけはいっちょ前にめんどくさいものするんだから……まあ、レシピさえあれば作れるからいいけど。
「本当になんでも……すごいね、斉藤君は! でも、ずっとお料理するの大変じゃない?」
僕の言葉を聞いて、パンと手を鳴らした委員長が、すぐにちょっと心配そうに聞いてくる。
「まあ、大変だけど……もう慣れたし。それに……」
「それに?」
「いや、何でもない。意外と習慣になると大変じゃなくなるものだよ、本当に」
お姉さんがうるさいから作らないという選択肢がない、という言葉を飲み込んで、創委員長に笑いかける。
正直お姉さんがいなかったらカップ麺ばっかりになってた可能性は否めないであります。その点はお姉さんに感謝だ。
「ふーん、そっか……まあ、でも、その……もし、もしさ、大変だったらいつでも私に言ってよね! ほら、私が力になれることなら何でも手伝ってあげられるから! その、ご飯とかお弁当とか……お部屋のお掃除とかでも! なんでも言ってくれたらお手伝いサービス若葉ちゃんするよ!」
そう言って、元気よく力こぶをギュッと作るのはいつもの世話焼き委員長。
いろんなことに首つっこんで、色々な役割を押し付けられるいつもの委員長。
……気遣いは嬉しいけど、委員長の迷惑になるし、それに……どうせお姉さんが乱入してくるし。
「いや、大丈夫だよ、委員長。委員長も忙しいでしょ?」
「いやいやいや、斉藤君の方が一人暮らしで忙しいと思うし! だからだから、遠慮しなくても大丈夫だよ! 斉藤君の好きなものとか作ってあげるよ、私もお料理結構得意だから!」
自信満々な満天スマイルで、僕の方をそう見つめてきて。
「……ふふふ、それじゃあもしかしたらお願いするかも」
「ふふふ、もしかしなくてもいいよ? 私に任してくれたらいいから! 私に……あつっ……にへへ」
力強くそう言った委員長はラーメンを啜って再び舌ハフハフさせながらにへへ笑った。
☆
「むーーー!!! 遅い、遅いよ、あき君! お姉さんお腹空いちゃった!」
ぽんぽさんが終わって、時計がもう7時半を回っているのに、まだあき君が帰ってこない!
何してるの、私のお世話をするのがあき君の役目でしょ、義務でしょ!
こんなに遅くなるなんてダメでしょ!
「はむー……こうなったら! あき君の秘密、暴いちゃうもんね! お酒ももう飲んじゃうもんね!」
まずはエッチな本のチェックをして、それで、それで……!
あき君が早く帰ってこないのが悪いんだからね!
★★★
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