お姉さんのために! もっと早く帰りなさい!

第16話 一緒にご飯、食べよ?

 

「UNOだ! ふふ~ん、このゲーム僕が貰ったよ!」


「あ、すみませんプラス4を5枚出します」


「あ、私は3枚出しますね。速子さん、32枚、取ってください」


「なんで!? なんでそうなるの!? 二人して僕にいじわるするのやめてよ!?」


「してませんよ、たまたまです。ほら、32枚取ってください」


「うー……バカぁ! バカバカ! もうこっからどうやって勝てばいいんだよ、もう……バカぁ!」


 少し泣きそな大きな赤い瞳をキっと細めて僕たちの方を睨んでくる先輩……興奮している委員長の手をギュッと抑えて、先輩に淹れ直してもらったコーヒーを啜る。


 ……うん、やっぱり先輩の作るコーヒーは美味しい。

 だからずっと、普通のコーヒーを作ってほしいな。



「……あ、やり返しだ、やり返し出来る! ほら、明良君プラス8枚だ、恐れ入ったか!」


「あ、すみません。僕まだ1枚持ってます」


「あ、私も1枚残してました。だから速子さん、16枚、取ってくださいね!」


「なんでー!? なんでそんなに僕にいじわるするの!?」

 先輩の叫び声と、委員長の笑い声が教室中に響いた。



 ☆


 月あかりがふんわりと照らす、薄暗い夜の廊下。

 隣を歩く委員長がくるっと振り返って、笑顔で口を開く。


「ふふふ、速子さん、えっちで面白い人だったね! また遊びに行きたいな~!」


「……委員長、先輩の前でえっち、って言っちゃダメだからね、絶対ダメだよ」


 僕の言葉に「大丈夫だよ~」とペロッと舌を出して笑う委員長。

 本当に分かってるのかなぁ……心配になる。


 あの後、二人で共謀しながら先輩をUNOでボコボコにした。


 気持ちよく勝たせてあげようかとも思ったけど……まあ、それじゃあ全然面白くないしね。


 先輩にやられっぱなしで終わるのも嫌だから……ちょっと、いじわるしちゃいました、てへへ!


 まあ、その結果として先輩は「バカ! いじわる! 一人で帰る! 明日も遊びに来い! お昼も一緒に食べろ!」って言って一人で帰っちゃったわけだけど……まあ、可哀そうだし明日も行ってあげるか。

 お昼は……まあ、考えよう。


「ふふふ、やっぱり斉藤君は明日も速子さんのところ行くんだね! それなら私もついてくよ、速子さんちょっと好きになっちゃたから!」


 そう言って、にへへと呑気に笑う委員長……先輩も男なんだから「好き」って軽々しく言っちゃダメだよ、委員長。


「えー、何々? もしかして嫉妬してる? 私が先輩の事好きって言ったから嫉妬してる? ふふふ~、ダメだよ~、そんな嫉妬したら」


「どっちにだよ……それに嫉妬なんてしてませんよ! ただ、そう言う事気軽に言っちゃダメだよ~、って思って」


 つんつんニヤニヤしながら聞いてくる委員長にそう答えると、わき腹をつんつんする委員長のスピードがさらに加速する……くすぐったいからやめてよ、委員長。


「やめないよーだ! それよりそれより! 嫉妬してるよねぇ、斉藤君! ぬへへ、もし私が速子さんのところに一人で行くって言ったらどうする? 二人きりになるっていたらどうする?」


「それは絶対にダメ! 絶対行っちゃダメ!」

 イタズラに効いてきた委員長の言葉を全力で否定する。


 そんな、二人になるなんて……絶対にダメだよ!

 委員長が先輩の変ないたずらに巻き込まれる可能性もあるけど、それより……先輩の安全がやばそうだから!


 僕がいないと委員長が暴走して先輩の安全がグチャグチャのめちゃくちゃにされそうだから……絶対にダメ!


「……え、そ、そんなに強く……そんなに行っちゃダメ? 二人きりなっちゃ、そんなに……ダメ?」


「ダメ、絶対ダメ! だって……危ないし! 何かあったら大変だし!」

 僕の言葉に、びっくりしたように声をあげた後、もじもじしながら上目遣いでそう聞いてくる委員長にもう一度強い口調で返す。


 本当にダメだからね、先輩と二人きりになるの!

 両方の安心と安全のためにも、僕が間に入ります、絶対!


「えへへ、そっか。二人きりダメ、危ないから、守ってくれる……にへへ……うん、わかったよ、斉藤君! 速子さんと二人きりにはならない! 若葉ちゃん、貴方と約束します!」

 そう言ってビシッと腕をあげる委員長に「よろしい!」と僕も腕をあげて返す。


 よし、これで二人きりにはならないだろう……なりそうでも僕が何とかしよう。



「えへへ……えへへ……ふふふ」



 ☆


「……あ、あのさ斉藤君、ちょっといい?」

 それからしばらく歩いて、階段降りて2階の廊下。


 旧校舎で人もいなくて、薄暗くて不気味ではあるけれど、後1階で学校脱出、もうすぐ家に帰れるぞ! って時に委員長がひょこっと僕の方をのぞき込んでくる。


「どうしたの、委員長?」


「あ、あのさ……速子さんと二人はダメでも、斉藤君と二人っきりでいるのは大丈夫だよね? 君と一緒は大丈夫だよね?」

 少し心配そうにそう言って、もう一度のぞき込んできて。


 僕と二人はいつもだし、何の問題もないけど。


「そ、そうだよね! うん、そうだよね……それじゃあさ、今日この後暇だったりする?」


「この後……うん、暇だけどどうしたの?」

 帰ったら多分お姉さんがなんかうだうだ言ってくると思うけど、あれは自然災害みたいなものだし……うん、絶対暇だ。


 そう言うと委員長はほっと胸を撫でおろす。

 そして決意した様に僕の方をまっすぐ見てきて。


「あのさ、斉藤君。速子さんのところに来る前に罰ゲーム、って言ったよね? あの話、覚えてる?」


「うん、覚えてるよ。なんかうやむやになったやつね」


「うん、それ! それでねその内容考えたんだ……だから斉藤君!」


「はい、何でしょうか!」

 ビシッと指をさしてきた委員長に思わず身構える。

 やっぱり委員長、目力というか指力と言うか……そう言う力が強い。


 僕の方を指さした委員長はそのまままっすぐ僕を見つめて、大きく息を吸って。


「ば、罰ゲームって言うのは……私と一緒に夜ご飯を食べに行くことです!」

 そう叫んで、頭を下げた。






「ん~、ぽんぽさん面白いね~……でも、あき君はまだ帰ってこないのかな? ちょっと今日は遅いなぁ、そろそろお腹空いちゃうよ、あきく~ん!」






 ★★★

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