第13話 コーヒーに何かを混ぜる先輩は多分エロい(♂)
「らららら~♪ あき君の部屋の鍵は~、簡易ポストの中に~ある~! あき君の部屋の鍵はポストの中に~ある~!」
ガチャっとポストを開けると、扉の後ろにテープと一緒に張り付いている合鍵。
だめだよ~、あき君!
こんなところに鍵入れちゃ、危ない人に使われちゃうかもだよ!
今回はお姉さんでよかったけど、次からは気をつけるように!
「らららら~らららら~あき君と私の家は~3階! 3階!」
階段をてってと駆け上がって、あき君の部屋の鍵穴にガチャリと挿入……う~ん、ぴったり!
「お邪魔しま~す! あき君のお部屋!」
ドーンと扉を大きく開けて、お部屋に侵入。
全体的にキレイに整頓されていて、ゴミがそこらへんに散らばってるとか、そう言う事もなくて……うん、私のお部屋をキレイにしてくれるだけあっても、のすごくキレイなお部屋! いいお部屋だ!
そうだ、あき君確かアマプラ契約してるって言ってたよね?
ふふふ、帰ってくるまでアマプラ見てすーごそ!
いつ帰ってくるかな?
10分後かな? 30分後かな?
わくわく、わくわく!
☆
先輩えっち談義は僕にはあんまりわからなくて、わかったのは委員長がむっつりという事だけで……あんまりわかりたくなかったけど!
そんな会話をしていると、復活した先輩が訝しむように僕たちの方を見つめてくる。
「……二人とも何を話してたんだい? また僕がえっちって言う話かい?」
『いえ、違います!』
ギシッと睨むような流し目で僕たちを見てきた先輩に嘘っぱちの百点笑顔で返す。
本当はそう言う話をちゃんとしてたんだけど……うん、先輩本人には言えません!
僕たちの反応に先輩は「本当かい?」と疑うように聞いてくるので、またまた二人で百点スマイル。
……すみません、嘘です。
「……まあ、いいや。取りあえず、僕の話はいったんおいておこう、えっちかどうかは個人の判断だ」
そう言って、椅子に座り直す。
えっちかどうかは個人の判断―その言葉、先輩から聞いた言葉の中で一番心に残りました。
僕も先輩の事はあんまりえっちだと思わないし、それにお姉さんに似てると思って買った人気の同人誌も内容がハード過ぎて読めなかった。
本当にえっちかどうかは個人の判断だ。
……何言ってるんだろう、僕は。
取りあえず、僕も椅子に座ろう。
「……そうだ、若葉君、君コーヒーは飲めるか? せっかく来てくれたんだし、一杯ご馳走しよう」
少しの沈黙の後、先輩が思いついたようにポンと手を打って、そう聞いてくる。
「はうう、コーヒーですか? はい、飲めます、速子さんのコーヒー飲みたいです! でもお砂糖とミルクはつけてください、おこちゃま舌なので!」
少し興奮した様にそう言ってビシッと手を挙げる委員長……そう言えば、めっちゃ甘いもの食べてるイメージがある。
「ふふふ、了解だ。明良君はいつものでよかったね?」
「はい、いつものブラックでお願いします」
「了解だ。それじゃあ、隣の部屋でコーヒー淹れてくるから少し待っててくれ」
そう言って、少し上機嫌な、悪く言えばいたずらっ子のような足取りで隣の教室に向かう先輩……なんか怪しいけど、普通に歓迎してくれているだけと信じよう。
「ねえねえ、斉藤君。先輩のコーヒーって美味しいの?」
「うん、美味しい。めちゃくちゃ美味しい」
つんつんと聞いてくる委員長に答えたように、先輩のコーヒーはすごく美味しい。
コーヒー上手な先輩ちゃん(♂)
気分がいい時に作ってくれるんだけど……どんな豆使ってるのかわからないけど、とりあえず風味とか香りとかべらぼうに良くてめっちゃ美味しい。
……まあ、あのコスプレでなんでコーヒーなの? とかよく思うけど。
砂糖たくさん入れるし、本当になんでコーヒーなの? とは思うけど。
取りあえず「へー、そうなんだ!」とワクワクしている委員長とともに先輩の帰りを待つ。
後委員長の「速子さんえっち講座」を聞きながら……いや、これは聞きたくないよ、委員長のイメージがガンガンに崩れちゃったよ!
「速子さんの髪から覗く耳がえっち!」とか「匂いがえっち! 雰囲気も顔も行動もえっち! えっちの塊! 歩くえっち!」とか……そんな言葉、委員長から聞きたくなかった! もっと清純派だと思ってたのに!
そんな崩れ行くイメージに対抗するように楽しく話をする委員長の声を聞いていると、「お待たせ」という声とともにコーヒーの良い香りを漂わせながら先輩が帰ってきた。
プレートに乗った3つのコーヒー。
カフェオレ色のがいつもの先輩ので、あと二つが僕たちの……あれ?
「……先輩、このコーヒー大丈夫ですか? なんかいつもと色違う気がするんですけど?」
何というか、いつもより赤いというか……なんか匂いもちょっと変だし。
「豆を少し変えただけだ。大丈夫だ、心配ない、普通のコーヒーだ」
そう先輩は言うけど、どうもそうは思えない。
野生の勘が、これはやばいって叫んでいる。
……でも、委員長も「飲まないと失礼ですよ!」って言ってるし、まあ飲むか。
多分本当に豆変えただけなんだろう、そう信じよう。
「ククッ、最初からそうしておけばいいんだよ。それじゃあ、いただきます」
『いただきます」
少し警戒しながら、コーヒーを一口すする。
その味は……うえっ、ナニコレ、まずっ!?
何というか鉄っぽいというか、コーヒーの中に鉄パイプぶち込んだみたいな……とにかくめっちゃまずい。
「……あつっ、それにまず……いえ、その独特な味がしますね! なんというか、その……なんというかな味ですね……おえっ……」
何とか取り繕うとした委員長だけど、でも耐え切れずにおえっ、と少しえずいてしまって……やっぱり、まずいんだ、なにこれ本当に。
そんな僕たちを見て、満足げに微笑むのは先輩。
ニヤニヤと、真っ赤な瞳で僕たちの反応を見て楽しんでいて。
……この表情、見たことある。というかよく見る。
僕にしょうもないイタズラをしたり、イカサマを仕掛ける時の顔だ。
「……先輩、何入れたんですか! コーヒーに何入れたんですか!」
「えー、どうしようかなー? ククッ、何入れたと思う?」
そう言って先輩は真っ赤な瞳を大きく見開いて、笑った。
★★★
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