第11話 えっち先輩と委員長
「お疲れ様です。それでは私はここで失礼します!」
「はい、お疲れ様~」
上司さんとかに挨拶して、会社の階段をスキップで駆け降りる。
やった~、今日もお仕事終わり!
そしてそして~、今日のお夕飯は酢豚に決まったのであーる!
あき君に作って貰うのであーる!
でもでも~、お姉さんはやさしーからぁ、豚肉を買ってあげるのであーる!
だから今からお買い物! お買い物! らんらんらーん!
お酒と鮭とばちゃんも買わなきゃね~! 待っててね〜!
☆
先輩―長浜孝宏は女の子のキャラクターのコスプレをしていて、声も女の子みたいで顔もキレイで整っていてどっからどう見ても女の子だけど……れっきとした男だ。
茶色い長いキレイな髪に、すらっとした細い身体、キレイで整った顔に、独特の妙に色気のある不思議な雰囲気。
服装も相まって騙されそうになるけど、先輩は性別の上では男だ。
「服装も髪型も、目の色も顔も体型も話し方も、すべてコスプレに合わせてるんだよ!」と少し前に言っていたから、この姿は仮の姿で、本当はもっと違う感じなんだろう。
……まあ、僕も先輩の本当の姿って言うか、コスプレ解いた姿は見たことないんだけど。
学生証とかも絶対に見せてくれないから、先輩と付き合い長いはずなのにまだ素顔も見たことないけど。
速子さんとしての先輩は知っているけど、長浜孝宏としての先輩は全然知らないけど。
☆
先輩と知り合ったというか、強制的に知り合わされたというか、そう言う目にあったのは今年の4月、僕が入学してすぐの事だった。
出来心で旧校舎の方を探検していた僕は、誰もいない廊下で倒れている先輩を見つけてしまって、そのまま保健室に運んだ。
で、そんなことしてしまったせいで、先輩になつかれてしまって、「寂しいから遊んでくれ! 遊んでくれないと泣くぞ? 泣いた」って言われて、渋々それなりの頻度で先輩のよくわからない実験とかゲームに付き合うことになってしまった。
当時は先輩の事コスプレの撮影中に倒れた人だと思ってたんだけど……現実は非常に難解だった。
まさか男とは……まさか常時この格好で生活しているとは……まさかこんなにめんどくさい人だったとは……生まれて初めて人を助けたことに後悔を覚えたよ、僕は。
コスプレ姿を見る限りでは素顔の方もイケメンというか、可愛い系というか、とりあえず女の人にモテそうな顔ではあるし、コスプレしなければ友達いっぱいできるんじゃ……と思ったことは何度もある。
というか何回も伝えた。
でも、そのたびに帰ってくるのは「愚問だね。僕は速子だ、これを解く気は一切ないよ!」って言う言葉……僕には先輩の事はよくわかりません。
取りあえず先輩について分かっていることは、(多分)とてもキレイな人という事、一人ぼっちで友達作る気なさそうなのに妙に寂しがり屋なところ、そして今委員長に土下座をさせているということ……え、委員長何してんの?
「ごめんなさい、ごめんなさい! ずっと変なこと言っててごめんなさい! 勘違いしててごめんなさい! 変な空気にしてごめんなさい」
頭を地面にこすりつけながら、震える恥ずかしそうな声で、必死に謝る委員長。
え、本当に……え? な、何してんの?
「いや、その……えっと、か、顔を上げてくれよ若葉君。その、そんなことされるとどうすればいいかわからなくなるし、その……」
その姿を見て、どこか焦ったような、困惑した表情でおろおろする先輩……先輩のこういう表情、あまり見たことないから新鮮かも。
「でも、でも! 速子さんに酷いこと言いました! 悪い女だって、怖い女だって、えっちなこと以外取り柄がない淫乱だって……ごめんなさい! 斉藤君とはただの友達なのに……本当に、申し訳なくて……!」
「え、淫乱? そ、そんなこと言ってたかな……まあ、いいや。本当に顔をあげてくれよ、若葉君。君は勘違いしていただけだ、何も悪くないさ」
優しい表情で、優しい顔でそう言う先輩……僕、半年間でそんな声も表情見たことないんだけど。なんですか、その表情普通に可愛いのやめてください!
ていうか、委員長は淫乱とか言わないの! そんなキャラじゃないでしょ!
そんなどこかおかしな委員長が、先輩の声を聞いて演技っぽく体をふらりと揺らす。
「う、なんて優しい顔、聖母速子さん……その良いんですか? 私が速子さんに言った暴言の数々、許してもらえるんですか?」
「⋯⋯ああ、許そう。許してあげるよ。それに僕も、君の事をフェレットにしようとした……これでおあいこだ。だから早く顔を上げてくれ、困ってしまう」
「うう、お優しい……本当にごめんなさい。そのフェレットは……ドキドキしました。えっちな匂いとか雰囲気にドキドキしました……!」
「えっち……アハハ、本当かい? それならとても嬉しいが」
「はい、ドキドキしてバクバクしてゆでだこさんみたいにふわふわして……でもごめんなさい。私他に好きな人がいるんで速子さんのフェレットにはなれないです。お気持ちは嬉しいですが……その、ごめんなさい」
「え、なんで⋯⋯こほん。アハハ、フラれてしまった、悲しいねぇ……でも僕のフェレットも他にいる。若葉君とすると浮気になってしまっていた。だからお互い、これでよかったのかもしれない……アハハ」
「そうですね……これで、良かったんです……ふふふっ」
そう言って二人で楽しそうに笑い合う。
……
……僕は一体さっきから何を見せられてるんだ?
先輩はまだしも委員長ちょっとおかしいよ、さっきから……本当にどうしたの?
なんか情緒もふわふわだし……絶対にここに連れてきたのは失敗だった気がする。
さっきもなんか変だったし、今も変だし……元の委員長に戻ってよ!
《あとがき》
先輩が出る話は、みんなが勝手に暴走し始めるのでマジで困ります。
お姉さん早く来てくれ。
感想や評価などいただけると嬉しいです!!!
迷走の時期です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます