第9話 お昼ご飯と罰ゲーム委員長

 お昼休み。

 ざわざわする教室。


「あんな強がっちゃってさ、結局お昼までの授業全部寝てたよね、斉藤君? 寝顔鑑賞タイムになっちゃてたよね?」

 机を引っ付けて、前に座る委員長がからかうような目で口を開く……食べていたたこ焼きの青のりが歯に引っ付いてることは後で言ってあげよう。


 結局あの後、予想した通り授業中は全部爆睡をかましてしまった。


 国語家庭科生物世界史……全部全部眠っていて、本当に内容を覚えていない。


 幸い一番後ろの目立たない席だから起こされることはなかったけど、やっぱり隣の委員長は気づいてたみたいだ。


「いやー、申し訳ありません……ていうか気づいてるなら起こしてよ、委員長でしょ? そりゃ眠たかったけど、なんか見られるの恥ずかしいし!」


「今日はだーめ。朝言ったように、斉藤君の寝顔鑑賞タイムにするって決めたもーん!」


「もう、委員長のいじわる! ケチ!」


「ふふふ~ん、授業中に眠るのが悪いんです~」

 パクっと卵焼きを食べながら、そう言ってニコッと笑う委員長に僕はぷくーっとほっぺを膨らませて無言の抵抗。


 そんな僕を見た委員長は、さらにニヤニヤしながらウインナーを口に運んだ。


 お昼ご飯は他の友達と食べることも多いけど、基本的には委員長と一緒に食べている。席が一緒になってからは殆どずっとだ。


 きっかけは……何だったかな?


 確か委員長がずっと一人でお昼食べてて。


 例のごとく押し付けられた作業を二人でしてた時に「寂しいんだよね~」とか言ってたから、それきっかけで一緒に食べるようになった気がする。


 友達とお昼ご飯を食べるのも楽しいけど、委員長と食べるのもやっぱり楽しい、って感じ……まあ、たまに小言言われるけど。



 そんな事を考えていると、口の端っこに何かのソースをつけた委員長がお箸の先をビシッと僕の方に向けてくる……え、何怖い!


「まあまあ、お昼ご飯食べたらエネルギーチャージできると思うし! お昼からの授業は寝ない様に頑張るんだぞ!」


「……なんだ、そんな事か、ビビっちゃった。善処しますよ、善処」

 その言葉に「ほんとかな~?」というような表情を浮かべた委員長は、プチトマトのヘタを舌で器用に外した……なんかちょっとエロイ。


「……何そんなに見てるの、斉藤君?」


「え、いや、その……歯に青のりついてるし、口にソースもついてるな、って……」


「もう、そう言う事なら早く言ってよ! 恥ずかしいじゃん!」



 ☆


「結局最後の授業までおねむの時間だったね、斉藤君! 学生としての自覚も、この若葉委員長の友達としての自覚も全然足りませんな! ダメだぞ!」


 放課後のHRが終わってみんなが帰ろうとする中、開口一番に委員長が注意するような、それでいてどこか楽しそうな声でそう言ってきた。


 いや、確かにずっと寝てたよ? 

 でもね、起きてる時もあったから!


「残念でした、5時間目の授業の時はちょっと起きてました! 少しだけ話聞いてました!」


「へー、そうなんだ……じゃあ、日本国憲法の25条はなーんだ?」


「いや、それは……えっと……」


「ほーら、やっぱりわかんない! 絶対斉藤君寝てた!」


 僕を指さしてケラケラ笑う委員長……急にそんなこと言われたら答えれるものも答えられないって! 正解わかんないけど!


「本当に斉藤君、今日は寝てばっかりだったねー。という事で、斉藤君には罰ゲームを受けてもらいます!」


「……罰ゲーム? なんで?」


「だって、だって、ずっと寝てばかりの友達を委員長として放っておくわけにはいかないし? だから反省を促すためにも罰ゲームだよ! 君に拒否権はないからね!」


 まっすぐ僕の方を見ながら、パチンと手を叩く……こりゃ本当に逃げられないやつみたいだ。


「わかったよ、罰ゲーム受けるよ。何すればいいの?」


「そうだね、何してもらおっかな……えっと……ちょっと積極……でも……」

 ふらふらもじもじしながら、少し考え込む委員長。

 こんなに考え込まれると、どんな凄い罰ゲームが飛んでくるのか少し身構えてしまう。


「……でも、これくらいなら……よし決めた! 斉藤君!」


「はい、何なりとお申し付けを!」

 僕の方を向いてビシッと指をさす委員長に、僕もピシッと気をつけのポーズ。

 さあ、何とでもかかってこいや!


「あのね、あのね……罰ゲームって言うのはね!」


「うん、罰ゲームって言うのは……?」


「罰ゲームって言うのは、その、私と「おーい、いちゃいちゃしてるところ悪いけど、ここ教室だからほどほどにな。後、アキ、伝言預かってるぜ」


 少しほっぺを染めた委員長が何かを言いかけた瞬間に、友達の亮が会話に割り込んできた。

 イチャイチャって……別にそんなんじゃないし。


「イチャイチャなんてしとらんわ……それで、亮、伝言って何?」


「隠さんでいいのに……伝言ってのは例の先輩からだぜ。俺は関わりたくないから帰るけど、どうしてもお前にいつものところに来て欲しいってさ。じゃあな、TPOには気をつけろよ」


「TPOって……まあいいや、伝言ありがとう。また明日ね」


「おう、また明日」

 スタスタと足早に教室を去っていく亮に手を振って、思考を少し伝言の方に戻す。


 例の先輩でいつもの場所って……絶対にあの人だよな。

 めんどくさ、今日は何されるんだろう。


「……待って。話の途中だし、私も先輩のところついていくし!」


 でも、先輩に逆らうとろくなことにならないことを知っているので、いつもの教室に向かおうとすると、不満顔の委員長にギュッと制服の端を掴まれる。


 そうだった、罰ゲームの話の途中だった……ついてく?


「罰ゲームの話は今はもういい! 今はさっきの話! その、例の先輩って……速子さんだよね? あの、いつもコスプレみたいな恰好で、不思議な感じで、キレイで……蠱惑的というかえっちというか……取りあえずあの先輩だよね!」


 そう言いながら、少し赤くなった顔ををずんずん僕の方に近づけてくる……委員長?


「う、うん、そうだけど……委員長、ちょっと近い、離れて」


「離れない、私もついてく! 斉藤君が変な事されてるんだったら許せないし、それに……ちょっとずるいし! だから私もついていく!」

 グイッと踏み込んで、強い口調で。


 ⋯⋯でも。

「……後悔しても知らないよ?」


「後悔なんてしない、行かない方が後悔! だからついていく!」


「わかった、わかった……だから離れて、みんな見てる」

 委員長の圧と周りからの視線に耐え切れなくなったので、とりあえず首を縦に振る。


 ……あんまり合わせたくないんだけどな、あの人とは。

 何というか……本当に変な人だし。


 委員長が危険というか、何というか……本当は嫌なんだけどねぇ。


「最初からそう言ってればいいの! それじゃあ、斉藤君その先輩のところまで案内して」


「へい、へい……それじゃあ、ついて来て」


「うん、ついてくついてく!」


 でも、人の気持ちって見えないから、かなりの熱量で先輩のところに行こうとする委員長に圧されて、案内することにしてしまった。


 もう……どうなっても知らないよ?



 ☆


「ここが、二人の秘密の教室?」


「変な言い方しないでよ。ただの待ち合わせ場所だよ」

 いつも先輩と合ってる、旧校舎3階の理科室。


 部屋は暗いけどいつも通り、どうせ先輩はここにいる。

 ノックもせずにガラガラと勢いよく扉を開ける。


「……ふぅン、遅かったじゃないか、明良君。もうちょっと早く来てくれよー」

 奥の机に座った先輩が、茶髪を揺らしながら不満そうに言った。



 ☆☆☆

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