第5話 いいこと

「……あき君、お姉さんといいこと、しよっか」

 耳元で囁かれる甘い声。


 もとより抵抗する気はないけど、抵抗しようにも抵抗できない、骨抜きになるような、そんな声。


「ふふふ~ん、いい子いい子。それじゃあ、ベッドに横になってね~。いいこと始めるから、お姉さんの指示に従ってね~」

「……はい」


 言われたとおりにお姉さんのベッドに横になる。

 さっき掃除も洗濯もしたばかりだから、ふわふわと温かくて、きゅっと来るのは柔軟剤の良い香り。


「それじゃあ、上の服脱ぐね~。はい、おててばんざーい、ばんざい!」


「いいですよ、上は脱がなくても。そこまでは大丈夫です」


「だめだよ~、ちゃんとしないと! ちゃんとしないと気持ちよくなれないでしょ?」


「わかりました……でも、自分で脱げるから大丈夫です。自分で脱ぎます」


「んも~、照れてる~?」


「照れてません!」

 からかうような表情で見てくるお姉さんを無視して上の服を脱ぎ、もう一度ベッドに横になる。


 ベッドの繊維とかが直接当たって……なんだかヘンテコ気分。


 寝転んだ僕を見て、ワキワキと手を動かしながらニヤニヤと僕の方を見てくる。


「それじゃあいいこと始めよっか……ふふふ、あき君バキバキじゃん。どうしてこんなに硬くなってるの?」


「……誰のせいだと思ってるんですか」


「えへへ、ごめん、ごめん。それじゃあ、失礼しま~す」

 シャカシャカ手を動かしながら、お姉さんが近づいて、僕に触れる。



「……んっ……あっ……」


「ふふふ、我慢しなくていいよ~。気持ちよかったらいっぱい声出していいからね~」


「……でも、そのお姉さん、もうちょっと……」


「なになに~? もうちょっとよわくしてほしいの? でもざーんねん、弱くなんてしません! ここが弱いんだろ~えいえい!」


「ちょっ、お姉さん、んっ、本当に……もうちょっとだっけゆっくりしてください……腰が壊れちゃいます……」


「にへへ~、そんな要求聞けないな~。そしてそして、今日一番気持ちいいポイントは~ここ!」


「ひあっ……やあぁ……くううんっ……!」

 的確に気持ちいポイントを攻めてくるお姉さんに、思わず変な声が洩れる。


 でも、だって……気持ちいいんだもん。

 お姉さんの、それ……すごく気持ちいんだもん。


「ふふふ~ん、変な声出しちゃて! でもでも~まだまだ終わらないよ!」

 ベッドにうつぶせになる僕の上で不敵に微笑んだお姉さんは、もう一度僕の腰にビシッと指を当てる。


「ぴやっ……あっ……ひぁあっっ!」


「ふふふ、また変な声出しちゃって! そんなに気持ちいいの、私のマッサージ!」



 ☆


「……ありがとうございます、お姉さん。その……すごくスッキリしました」


「へへへーん、どういたしまして! あき君本当に私のマッサージ好きだよね!」


「だって……めちゃくちゃ気持ちいんですもん」

 脱いだ上の服を着ながら、お姉さんに感謝を伝える。


 たまにお姉さんにしてもらっているマッサージは、何というか……ものすごく気持ちよくて、格別というか、何というか。


 普段から結構腰にダメージを受けやすい体質だから、本当にすごく助かっている。

 本当に……うん、助かってる。


 毎回上は裸になるし、変な声出るしでやっぱり恥ずかしいは恥ずかしいけど、でも気持ちよさの方が勝るって言うか。

 気持ちいいから無問題って言うか。


「……そう言えばお姉さんはなんでマッサージだけはこんなに上手なんですか?」


「むー、マッサージ以外も得意な事あるもん! 鮭とば作れるもん! スポーツも出来るもん!」


「……そう言えばそうでしたね。でもマッサージが得意な理由は気になります」

 そう言えばお姉さんは何でもできる人だった。

 マッサージもなりゆき……いや、そんなことないか。


「えー、そんなに気になるの~? えっとね、私がマッサージ得意なのはね、専門学校言ってた時にマッサージのお店で働いていたからだよ! お給料が良くて、ご飯も出るから凄く良い職場だったんだ! すごく良かったの!」


「……そんなにいい職場だったんですか?」


「うん、凄く良いところ! あ、そうだ! あき君もそこで働けるように練習しようよ! 私もちょうど、腰がぺきぺきだったんだよね~」

 パチンと思いつた様に手を叩いたお姉さんが、ごろーんとベッドの上に寝転がる。


 そうして僕の方を見て「はよはよ」と手招き。


 ……えっと。

「あの、僕に何をしろと?」


「何ってマッサージに決まってるじゃん! 私にもマッサージしてよ! いつもあき君ばっかり気持ちよくなってずるいから!」

 ぺちぺちとベッドを叩きながら文句を言ってくる。


 ……いや、でも。

「その、僕マッサージとかできませんし、それに……」


「でもじゃない、して! マッサージして! 私を気持ちよくして!」


「……その、えっと……」


「やーるーの! マッサージするの! もうお姉さんは準備万端なの!」

 ぷくぷくほっぺを膨らませながら、はよせい、はよせいという風にベッドを叩く。


 ……覚悟決めるかぁ。


「……わかりましたよ。後悔しないでくださいよ」


「後悔なんてしないよ~。あき君のマッサージも受けてみたかったもん!」

 無防備に横になったまま、そう言ってけらけらと笑って。


 ……もう、まったく!


「……それじゃあ、失礼しますね」


「うん、失礼して!」

 少しドキドキしながら、お姉さんの腰に触れる。


 服越しでもわかるくらいにやわらか……いや、ダメダメ平常心、平常心! 頑張れ頑張れマッサージに集中!


「うーん、なかなか上手だねぇ、あき君。気持ちいいよ~……でもなんかちょっと足りないかも?」


「……も、もっと強く、とか、ですか?」


「う~ん、そうじゃなくてね~……あ、そうだ! 服着てるからだ! ナマでしないと気持ちよくなれないもん!」


「……変な言い方するのやめてください。脱がないで大丈夫です、脱がないでください」


「でもでもナマでした方が気持ちいいし? 脱ぐ脱ぐ~」


「ストップ、お姉さんストップ!」


 コロンと寝返りをうち、座った状態で服に手をかけるお姉さんを止める。


 いきなり何しようとしてるんですか!

 そんな色々見えちゃうし、その……絶対ダメです、ダメです!


「えー、あき君お姉さんの下着見えそうだから緊張してるの~? いつも片付けとか洗濯の時見てるのに~?」


「そ、そんなんじゃないです! 脱がないで大丈夫です! そのままでいいです!」


「えー、やっぱり緊張してるじゃん。でも大丈夫! 今は着けてないから、ノーブラだから! だからそんなこと考えなくていいよ~」


「じゃあもっとダメじゃないですか! なんでそんなに無防備なんですか!」


「え~、だってそっちの方が気持ちいいし! それにあき君なら安心だし! あき君なら~大丈夫だから!」

 そう言ってにへへと笑うお姉さん。


 ……


「……もう、バカにしないでください! 絶対脱がないでください!」

 人の気も知らないで!

 もう、緊張とかドキドキでやばいのに、大変なのに!


 怒った僕の反応を見て、お姉さんはため息をつく。

 だからこっちだってそれは!


「……もう、わかったよ、あき君。じゃあ腰の部分だけペロンしてよ、それならいいでしょ?」


「……わかりましたよ。それじゃあ、もう一回寝転んでください」


「へへ~ん、あき君ありがとう! ちゃんとペロンしてよ、しなかったらわかるんだからね!」


「……わかってます」


 お姉さんに言われたとおりに、したい気分としたくない気分を交差させながら、パーカーの端っこを持ち上げる。


 少しピンクに色づいた、キレイな肌。

 普段の部屋とか、すさんだ食生活からは想像できないような、本当にキレイで、赤ちゃんみたいにハリのある肌で。


「早く早く! マッサージのつづき、つづき~!」

 言われるがままに、流されるように、お姉さんの腰に手をやる。


 キレイな肌は、その見た目通りにすべすべしていて、もちっと柔らかくて、ぷにぷにで……いやいや、ダメダメ! 変なこと考えちゃダメだから!


 本当に変なこと考えちゃその、そのまま……だから絶対にダメ! ダメだから!


 真っ赤になりそうで、血液が集中しそうになるのを必死に抑えて、こらえて、お姉さんの腰をぐいぐいと押す。


 ただただマッサージに集中……出来るか! 柔らくて、すべすべで……あー、もう!


「ぬぬ~ん、やっぱりナマですると全然違うね~。あき君上手だからすごく気持ちいいよ~……んっ、あっ……んふふっ」


「……お姉さん、本当に……変なこと言うのも、変な声出すのもやめてください……」


「ん~? 変な声ってどんなのかな~? あっ……やっ……っ……んっ」


「……ぅぅぅ!」


「ふふふっ」


 からかってくるお姉さんを僕の理性で必死に応戦しながら、そのままマッサージを続けた。



「ぴやっ……んふっ……」


「……お姉さん、本当に、もう……」



 ☆☆☆

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