第4話 夜ご飯
「……バカって言われた、プレゼント拒否された……お姉さん悲しいなー、しくしく……ぷはぁ」
リビングの床に座りながら、僕の投げたエプロンを着けたお姉さんがぷはっ、っと寂しそうに、悲しそうにビールを啜る。
その姿を見てるとエプロン凄い似合ってるし、ちょっと同情したくなるけど……でも今回に関しては100お姉さんが悪いから!
「……知りませんよ、お姉さんが悪いんですから。というかご飯前にあんまり飲み過ぎないでくださいよ」
「私はプレゼントあげようと思っただけなのに……あー、かなしーなー、かなしーから鮭とば齧ってビールを……ぷはぁ。うまうま」
……それにやっぱりあんまり落ち込んでないんじゃないかな?
ずっとお酒ごくごくしてるし……ああ、もう!
「あー、こんなもんじゃ満たされないなー。聖花ちゃんはかなしくて、すごくお腹が空いたですー。早くご飯、食べたいなー! ……チラッ、チラッ」
……もう、本当にもう!
☆
「はやや、やっぱりあき君のカレーは絶品だね~。聖花お姉ちゃん、機嫌治っちゃった!」
「……とっくの昔に治ってたでしょ、もう」
「にへへ~、そんなこと言わないの……ぷはぁ」
「……」
へらへら笑いながらお酒を飲むお姉さんに、声にならないため息がもれた。
……美味しく食べてくれてるだけいいのかな?
本当に顔とスタイルと食べっぷりだけは良いんだから、もう……でも、今日のカレーはすごく美味しくできてる気がする。
甘口カレーだからもうちょっと辛い方が嬉しいけど……うん、やっぱり美味しいや。
なんか僕の機嫌もちょっと治ってきたかも、美味しい美味しい。
「にゃはは~、にゃはは~だね~!」
「……なんですか、それ?」
真っ赤なほっぺを美味しそうに抑えながら、楽しそうな声でお姉さんがルンルン話始める。たまに出てくる謎表現タイムだ。
「やっぱりあき君のカレーはほっぺがてるてるしちゃうってこと~。しかもカレーは辛いからお酒にも合うし~、それに鮭とばちゃんにつけても美味しいし~……ぷはぁ! しゃけとばちゃーん♪」
「……せっかく作ったんだからカレーライスとして食べてくださいよ」
「んー、なになに嫉妬? 嫉妬ですか? お姉さんが~、すぺしゃるなアレンジしちゃって自分の料理がぱちっと食べてくれないからって嫉妬してるんだ~!」
「……違います! そんなことしてません」
「このこの、照れちゃって~! 可愛い奴よのぉ~、ていてい! ていてい!」
「……違うから。やめてください、本当に……もう!」
お酒に酔ってかぷかぷした声で、つんつん僕の方を突っついてくるお姉さんの手をぺしぺし跳ね返す。
……別に嫉妬してるわけじゃないし、お行儀悪かったから注意しただけだし!
それにその、そう言う事するのは、本当にやめてくださいよ……もう!
「はにぇ~、そうだったの? じゃあつんつんやめちゃおっかな、お姉さんショック~……でも、あき君のカレーが美味しいのは本当だよ! ということでおかわり! もう一杯お願い!」
太陽みたいな明るいビッグスマイルで、僕の方にカレーのお皿と、ついでにビールの空き缶を差し出してくる。
「……自分で入れてきてください。それにおかわりすると太りますよ?」
「ざんね~んでした、太りませ~ん! お姉さん、そう言う体質なので! という事でけちけちせずにお願いします! ついでにビールももう一本!」
「なんで要求増えてるんですか?」
「お酒も飲みたくなったから~! だから~、おねがいあき君? 今日もいいことしてあげるから……ね」
「……はぁ、わかりましたよ、どれくらい入れればいいですか?」
「やったー、さっすがあき君! うーん、もちろんおおもりぃ! たくさんたくさん食べたいの~! それにビールも長いやつ~! いっぱいいっぱい飲みたいの~!」
ゆらゆら横に揺れながら謎のリズムで色々追加の要求をしてくる。
……まったく。
「本当に太っても知りませんよ?」
「だーいじょうぶ! お姉さん、スタイル抜群だから!」
ピシッと腰に手をやって、シャキーンと大きく胸を張る。
いや、本当に……顔とスタイルと外面だけは良いんだから。
「だ~か~ら! はやくいれてきてちょ~だい!」
「ピアノのCMですか……わかってますからちょっと待っててください」
立ち上がってキッチンの方へ向かう。
入れるご飯はいつもより少し多め、かけるルーも結構多め。
オーソドックスな大盛カレーに冷蔵庫から取り出した青と金の、ちょっと高めのロング缶。
「はい、お姉さん。カレーとお酒持ってきましたよ。鮭とばしないで普通に食べてくださいよ」
「うーん、わかってるって! あき君が嫉妬しないように普通に食べますよ~だ!」
そう言いながらカレーを受け取ったお姉さんは、息もつく間もないくらいにパクっと一口カレーを頬張る。
「う~ん、やっぱり美味しい! にへへ、ありがと、あき君!」
……その満面の笑みを見てると、なんかもうどうでもいい気がしてきた。
☆
「ぺし~、食った食った! ごちそうさまでーす、ごろ~ん」
2杯目の大盛カレーをあてにビールもぷはぁと飲み切ったお姉さんが、ぱんぱんのお腹を休ませるようにごろーんと床に寝転ぶ。
「食べてすぐに寝ると牛になりますよ。それにほっぺにカレールーついてます」
「にへへ、ありがとう、あき君。でもね、お姉さんは牛にはならないよ? だってうさぎさんになるからね、ぴょんぴょん!」
けらけら笑いながら、頭の上で手をぴょんぴょんさせるお姉さん……相当酔ってるね、これ。
「もう、大丈夫ですか、お姉さん?」
「大丈夫、大丈夫! だからちょっとごろ~んするね~。ごろ~ん」
コロコロとまん丸になって床の上を転がる。
もう、その……ねえ。
「お姉さん、コロコロしないでください、床も服も汚れます」
「へへへ、えーじゃないか、えーじゃないか~」
「もう、お姉さんストップです! それにまだ、いいことしてもらってませんし……」
「うーん、いいこと? ⋯⋯ぬへへ、あき君、そんなにあれ楽しみだったの?」
ボソッと言った言葉に、とんでもないくい付きでニヤニヤしながら僕の方を見てくる。
でも、だって、その……
「にへへ~、そうなんだ、そうなんだ。楽しみなんだ、ワクワクしてたんだ!」
「いや、そう言う事じゃないですけど……」
「もう、照れちゃって! もう、そんなに楽しみならすぐにしてあげる! それじゃあ……」
そう言って、ひょこっと僕の耳に顔を近づけてくる。
カレーの匂いと、アルコールの匂い、そしてふわふわの甘い香り。
「……あき君、お姉さんといいこと、しよっか?」
耳元で囁かれたのは、ぞくぞくする甘い声。
★★★
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