第7話

正人が教室に入ると、一斉にクラスメイトが振り返る。授業はとっくに始まっていた。椎名が「おー、坂本。来たか。」と声をかける。正人がバックを机の横にかけ、椅子に座ろうとする。「お、ちょっと待て。」と椎名が止める。

「花木先生がお前と話をしたいらしいから、まず花木先生のとこまで行け。」

椎名はそう言って教室の前のドアを開ける。ここから出ろと言わんばかりに手を横に出す。正人はそれを無視して教室の後ろのドアから出る。


 正人は職員室をずかずかと入り、花木の机の前で止まった。

「話って何?」

「来たか。」

花木はボソッと呟く。

「校長室に行くぞ。」

昨日より威勢の無い声をしていた。

 校長室に行くと、校長の隣に椎名が、校長の前に桜田と内山が姿勢を正して座っていた。正人は桜田の隣に腰をかける。一瞬正人は二人の方を見るが、視線を合わせる気がなさそうだったので、前に向き直る。


 校長はしばらく黙っていた。何か決心したように深く鼻から息を出す。

「こんなことを言いたくないが、今君たちには女子更衣室を盗撮したという疑いがかかっている。改めて聞く。君たち3人はカメラの取り付けた段ボールをロッカーの上に置いたかい?」

正人はいち早く「置いてないです。」と答える。桜田と内山が黙り込んでいる。正人が二人に視線を向ける。下を向いていた二人がほぼ同時に顔を上げる。

「お、置きました。」

 桜田がそう答えてから、内山も「僕も置きました。」と答える。正人はふんぞり返りながら二人を睨みつける。

「桜田くんと内山くんに聞こう。それは君たち二人だけでやったことかい?」

 校長はあくまで落ち着いた口調で尋ねる。

「違います。坂本くんの指示で、3人でやりました。」

桜田は緊張ぎみでそう答える。

「はあ?お前ふざけんな。」

正人は声をあらげ、左手で桜田の胸倉を掴む。花木が「やめろ」と言い正人を抑える。桜田は真っ直ぐ前だけを見ている。校長が内山に顔を向ける。

「内山くんはどうだい?」

「桜田の言う通りです。」

内山は今にも泣きそうな声で答える。正人は大きく舌打ちをし、足の前にあった机を蹴る。「坂本。」

花木が注意する。

「内山くん、君の言葉で答えなさい。」

校長は震える内山の肩に手を置く。

「僕と桜田と…、あと田児と栄田と須藤の5人が坂本くんに指示されて盗撮をさせられました。僕と桜田と坂本くんの三人がカメラを設置する役目で、栄田と須田と田児でカメラを回収する役目をすることにしました…。これは全部坂本くんが勝手に決めたことです。」

「あ?俺がいつ指示出した。俺は後から入っただろ?本当の主犯は栄田だろ。」

正人は立ち上がり、ほぼ怒鳴りながら内山に言う。

「後から俺が入ったってどういうことだい?」

校長は今度正人の方に身体を向けた。正人は一旦座る。

「結構前にその5人にたまたま会ったとき、田児がカメラを入れた袋持ってて、『それ何?』って聞いたんだけど、そのときは教えてくれなくて、でもその夜、栄田が見せてくれて、んで栄田がついでに盗撮した動画を俺に見せてきて『正人も入れば?』みたいなこと言われたから加わっただけ。こいつらは噓ついて俺を主犯みたいにしてるけど、俺が最後に加わったんだよ。」

「違います。」

桜田は強い口調で断言した。

「田児はテストのカンニング用のカメラとして、元からあれを買ってて、それで、それに気づいた坂本くんが、そのことを、田児の母ちゃんにバラすって言って、嫌なら女子更衣室の盗撮に協力しろって田児を脅したんです。で、田児はそれを引き受けちゃって、後から他の俺ら4人に相談してきて、それで、俺らがあえてその盗撮に加わって、今回みたいにバレたとき田児が悪くないことを証明しようとしたんです。」

桜田は台本があったようにつらつら喋った。校長は「うーん。」と言いながら眉間にしわを寄せる。

「君たちの言っていることは食い違ってるね。」

「だから、こいつらが俺に罪を擦り付けようとしてるんだよ。あれだろ、桜田。お前の彼女のことをデブって言ったから俺にキレてるんだろ。」

正人は桜田のことを煽るように半笑いで言う。桜田は前だけ見ている。正人は「こっち見ろよ。」と声を荒げ、両手で桜田の胸倉を掴む。桜田は正人を見下したような視線で見てきた。正人は戸惑いソファーの背もたれに桜田の身体を投げつける。

「それかあれだろ。全部栄田の指示だろ。小学校のときからあいつ俺のこと裏で悪口言ってたから。あいつ頭いいし、あいつの作戦だろ。」

「坂本、そうやって人に罪を擦り付けるな。お前が今までやってきたことを考えたら、桜田の話には随分信憑性があるぞ。」

椎名が初めて話した。

「とりあえず校長。栄田にも話を聞いてみます。あと話に挙がった須藤と田児も。あいつらは和田先生に任せましょう。」

校長は自分に納得させるように二回頷き、「そうですね。」と椎名に答える。

「どーせ口裏合わせてるに決まってるだろ。」

正人がボソッと言う。校長は咳払いをして顔をまっすぐ前に向ける。

「誰が指示したにしろ、この行為に加わった時点で君たちは犯罪に手を染めたことになる。盗撮は犯罪だからね…。君たちが考える以上に重い処分が下るでしょう。先に言っておくけど学校はいつまでも君たちを守ってあげるわけじゃない。それ相応の覚悟をしなさい。」

 もう柔らかな口調ではなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る