第5話



結局正人には気づかれなかった紀子は水だけを買い明里たちのもとへと戻っていった。明里達は紀子の帰りの様子を待っていた様子だった。

「ごめん、お待たせ。」

「ううん。大丈夫!そろそろ帰ろっか。」

明里が気を利かせてくれたのだろうか。紀子の予想とは反してすぐに3人はバラバラな方向へと解散した。


電車に乗っていると明里から連絡がきた。

『実は紀子がいない間に加賀さんと連絡交換しちゃったww』

驚きはしなかったが、一旦『あの短い時間で?はやww』と返す。続けて『今のところは全然いい感じだけど、不良かもしれないから急に関わりすぎるのはちょっと心配w』と送る。

『確かにそれは思うw なんか裏がありそうな感じがして怖い(-_-;)』

明里も同じことを感じていて少し安心した。

『一応距離感はほどほどにしてね!なんかあったらすぐ報告しな!』

明里は軽そうな雰囲気が少しするし、実際本人の気質がそうなので、紀子はかなり心配していた。


心配した通り一週間もしないうちに紀子から報告が来る。

『ねえ、ご飯誘われたww 行っていいと思う?』

 どうやら明里はしっかり加賀にハマっているらしい。若干心配ではあったが、せっかく仲良くなっている二人の邪魔するのも違うと思い、『んーまあご飯行くくらいならいいんじゃない?』と紀子は返す。

『OK!』


しばらくしてまた明里から連絡が来る。

『今週の金曜夜の6時に池袋の東口に来てほしい~』

『え、私も?』

『そう!二人じゃまだ不安だし{{{(>_<)}}}』

『え、やだ。絶対加賀さんも明里と二人がいいと思うし…。』

『そんなことないよ!加賀さんもいいねって言ってくれたし。』

紀子ははぁとため息をつく。明里の自由奔放な性格にはたまに被害を受ける。

『私のこと来ないでほしいとはさすがに言えないでしょwww』

『違うの!紀子とも話したいことあるからちょうどいいみたいなこと言ってた。』

(話したいこと?)

なぜかあまり良い予感はしなかったが、そんなこと言われたら行くしかない。

『分かった。行くけど二人で大丈夫そうだったら私帰るからね!』

と送る。

(どうせ二人だけで盛り上がれるんだから絶対私いらない…。すぐに帰ろ。)

紀子は小さな決意をした。


当日、約束通り集合した3人は駅から3分ほど離れたもんじゃ焼き屋さんに入る。古くからあるお店なのだろう。50代くらいの3人組と店主が談笑している。そのアットホームな雰囲気がかえって紀子達の肩身を狭くさせる。

 そうは言っても加賀と明里は特に気にしていない様子だ。二人でゲーム通信を行ったときのエピソードを加賀が教えてくれる。

「こいつすぐ進もうとするからすぐにマフィアにやられるの。」

「いや加賀さんがとろいから全然進まないの」とかを言ってくる二人を見て、本当にこの二人は会ってから2週間も経ってないのか疑いたくなる。


 もんじゃが運ばれてきたタイミングで明里がお手洗いに立った。本当に自由奔放である。


紀子と加賀は2人きりになった。加賀は具材を丁寧に鉄板に乗せ始める。紀子も輪を作るのを手伝い、汁を流し込む。あとは焼き上がりを待つだけだ。二人はそれぞれコテを持ち鉄板の上を見ている。

「そういえばさ、紀子ちゃんって正人とはどういう関係?まじでただの同級生?」

突然の正人の話題に紀子は戸惑う。少し間を空けてから「ただの同級生です。」と答える正人はもちろん友人でもなければ恋人でもない。でもなぜか返答に時間がかかってしまった。

「そっかー正人がこの間紀子ちゃん見たときになんか慌ててたからてっきり元カノだと思ったんだけど…。」

「違いますよ~。」

紀子が冷静に否定する。

(確かに慌てて逃げられた感じはしたが、それで元カノってなるのか。この人他人の恋愛事情とか興味なさそうな雰囲気あったから意外だな~。)

そんなことを考えている間に、もんじゃ焼きが出来上がってきた。明里も戻ってきた。


3人でペロりと完食したため、二人が追加のオーダーをしようとうする。紀子がこのタイミングで「私そろそろ帰ろうかな。明日早いし。」と切り出す。加賀は最初の印象とは打って変わってしっかりとした感じだったから、明里と二人にしても大丈夫だろう。紀子はそう判断した。机に千円札を一枚置いてお店を後にする。


はぁー。紀子は外の空気を大きく吸う。紀子のお腹はまだ満たされていないため、コンビニでおにぎりでも買おうかなと思いながら歩き始める。

前から見覚えのある男がやって来た。坂本正人だった。紀子は思わず足を止める。正人はスマホを見ているため紀子に気づいていない。どんどん距離が縮まっていく。5mほどの距離になってようやく正人が顔をあげる。紀子に気づき、足を止めた。



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