第2話 姿

彼女とその想い人が話すきっかけを作らないと。


まずは典型的な方法で。


私はこっそりと彼女の生徒手帳を抜き取ると、想い人の元へと向かい近くに落とす。


これで、生徒手帳を拾った想い人が彼女へ届けることになる。


うん!さっそく想い人が彼女の元にやってきた。


さぁ!これをきっかけに話すんだ!


…。


…あれ?


彼女は想い人から生徒手帳を受け取ると、ぺこりと頭を下げそそくさと自分の席へと戻ってしまう。


それも、一言も発せずだ。


ま、まぁこれは上手くいくとは思ってなかったからいいんだけどね。


それなら今度はこうだ!


次は想い人から生徒手帳をこっそり抜き取り、彼女の近くに落とす。


これなら渡す時に話さざるおえまい!


さっそく彼女はその生徒手帳に気づき拾う。


そして、席を立つと教室から出て行く。


私も彼女の後を追う。


ふふふ。今回は成功だぁ。


そう思っていたのだが…。


彼女が向かった先は想い人がいる教室とは別で。


一階にある職員室へと向かうと想い人の担任に事情を説明して渡してしまい、今回も失敗に終わる。


それからも私は何度も挑戦する。


彼女と想い人を廊下の角まで上手く誘導し、お互いがぶつかる様仕向けたり。


他にもいろいろ試してみるが、全て失敗。


私が思いつく限りの方法を全て試すが一つも成功しない。


万策尽きたかに見えたが、実は私には最後の手段があった。


だけど、これは本当に最後の最後まで使いたくない方法で。


でも、もうこれしか残っていなくて。


「うぅ…。やるしかないよね…。」


私は決心して、その最後の手段を使うことにした。


次の日。


私は朝のHRの時間になると教室の前に立っていた。


そんなところでなにしてるかだって?


それは今からわかることだよ。


私は大きく息を吸うと


「みなさん!はじめまして!今日から転校してきました!高槻 恋〈たかつき れん〉です!よろしくね!」


自己紹介をした。


するとみんなは一斉によろしくー!と挨拶を返してくれる。


そう。私は今みんなに見えている。


人間の姿で。


彼女の通っている女子校に転校してきた。


席はもちろん彼女の隣で。


そうなるように上司である女神様に設定してもらった。


これが私の最後の手段。


もう直接彼女と想い人のきっかけを作るしかないと考えて。


だけど、これにはリスクと決まり事があった。


一つ目は絶対に私が天使であるとバレてはいけないこと。


もし人間に天使であることがバレたら二度と天使の姿には戻れなくなってしまう。


一生人間のままでいないといけなくなってしまうのだ。


まぁこれは自分から言わなければバレることはないだろう。


二つ目は担当する人間に恋をされてはいけないこと。


人間には心変わりがある。


もし、自分に心変わりされてしまったらそれを受け入れるか、また心変わりするまで待たないといけない。


そうしないと失恋により役目が果たせなかった為、消えてしまうからだ。


だけど、まず私が人間の恋を受け入れることはない。


それなら心変わりを待つか。


そんないつになるかわからないものを待つのもありえない。


だから、これが一番重要で気をつけなければいけないところだ。


その為に、私は彼女の想い人とは全く正反対の子供体型で金髪の姿にしてもらった。


彼女の想い人が変わってないか確認したが、どうやら大丈夫そうで一安心する。


三つ目は恋の成就を終わらせるまで天界や天使の姿に戻れないこと。


姿が戻れないので羽根がなくなり少し不便だが、天使の能力である情報確認は出来るため問題はなさそう。


天界にある自分の家に戻れないのは辛かったけど、一応こちらにも住む家を用意してもらったのでしばらくの我慢だ。


以上がリスクと決まり事である。


まぁ要するに、バレるな、恋されるな、終わるまで戻るなってことだ。


あぁ…。無事終わらせたい…。


この先のことを考えると不安だった。


だけど、やるしかない。


彼女の恋を成就させないと消えてしまうのだから。

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