忍び足チート
私は、冒険者の学園でも将来を期待されていたが、外れスキル『忍び歩き』を引いてしまったため、将来性なしとみなされてしまった。
しかし、それでも、父のような立派な冒険者になりたいため、冒険者ギルドで頑張っている。
この世界においてスキルは重要である。
スキル『鑑定』を持っていれば、迷宮で手に入れたものが呪われているかわかるし、『火力上昇』スキルをもっていれば魔物の群れも一瞬で消し炭にすることができる。
スキルを活かした職に就くのが普通のことであった。
だから、15歳でスキルを付与される儀式は、誰にとっても重要な儀式であった。
しかし、自分が引いたのは『忍び歩き』という戦闘に寄与しないスキルである。
落胆したが、それでも仕方ないと、『忍び歩き』を鍛えるべく、使いまくった。
当然、普通に歩く時はもちろん。
冒険者として迷宮を進む時も、スキルを使い、足音を出さないようにした。
「おい、荷物持ち!
お前は、足音を消すしかできないんだから、さっさと動けよ!」
「無能のくせしてとろとろ動いてるんじゃねーよ!!」
と罵倒されても、やめなかったのは冒険者の夢をあきらめきれなかったからである。
しかし、クビになった。
所属していたパーティーが大きくなっていき、「荷物を持つだけの無能はもういらない」という理由だったという。
落胆したが、……それでも、自分ひとりで頑張ろうと、別の街へ行くことにした。
そして、冒険者ギルドの門をたたいたのだが。
「や、やめてください!!」
「いいじゃねぇか、お前、ソロの冒険者なんだろ?
オレたちAランク冒険者のパーティに入れてやるっていうんだから、いい話だろうが」
「知ってるんですよ! あなたたち、そういって何人も女の子にひどいことしたっていうの!!」
「話を知ってるなら早い、さっさとはいっちまえよ!!」
と、少女が絡まれていた。
杖をもってることから魔術師だろうか?
周囲は関わり合いになりたくないのか、絡んでいる男の方をちらちらと見つつも、目をそらしていた。
「…………」
私は無言で、その中に割って入った。
「なんだ、お前は?」
「困ってるだろ、やめてやれ」
「なんだ、『攻撃力超強化』のスキルを持つオレさまにたてつくっていうのかよ! さぞかし、すごいスキルをもってるんだろうな!!」
「…………そうでもない。が、ほうっておくわけにもいかない」
「そこでスキルを言わないってことはしょぼいスキルなんだな!
なんだ、お前、外れスキルか。
痛い目に遭う前にどっかにいきな」
「……お前が、絡むのをやめたらな」
「ああ、くそっ、邪魔だ!!!」
イラついた男がスキルを発動し、私に向って来た。
私は忍び足を発動した。
手を伸ばしてくる男の懐に入り込み、男を投げ飛ばした。
「……はっ?」
投げられた男があっけにとられたような顔をしている。
「なにしたんだ、おまえ!?」
と再びつかみかかってきたから、ふたたび投げ飛ばした。
『忍び歩き』スキルを使い続けて気配を消して、懐に入って再び投げ飛ばした。
男がぐるぐると回転しながら冒険者ギルドから放り出された。
『忍び歩き』スキルは気配を消して歩くスキル。
行動の気配がない私の動きに男はまったく対応できなくなかった。
「く、くそっ……覚えてろよ!!」
と、男が逃げていく。
危なかった、あの男がなりふり構わず攻撃していたら周囲の被害を防げていたか……と、私は胸をなでおろした。
「あ、ありがとうございます!
あのAランク冒険者を投げ飛ばすなんて、さぞかし名高い冒険者なんですか!?」
「そんな……ただの新人冒険者だよ」
「うそ!? あんなにすごい動きをする新人冒険者なんて見たことないですよ!?」
褒められ事はうれしいが、『忍び歩き』の動きには先があるはずだ。
だから慢心してはいけない。
「いいや、そんなことはないよ。
それよりけがはなかった?」
「あ、はい、ありがとうございました。
おかげで助かりました」
と、少女は頭を下げた。
それに会釈して、私は冒険者ギルドの受付に声をかけた。
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