最終話 会いたい人には必ず会える。世界はそういう風にできている。

 遂に入学の日になった。

 由比ガ浜西崎高校の校門をくぐり、体育館での入学式を終え、俺たちは教室へと案内された。

 教室で、これから同じクラスになる面々と初めてまともに向かい合う。


「やあ、正樹。同じクラスになったな!」


 吹雪がにこやかに手を上げる。

 入学式だからか、流石に忍装束ではなく、由比ガ浜西崎高校の制服に袖を通している。


「おう……予想はしていたけど、同じクラスなんだな」

「どうした? もっと喜べ」

「いや、ついでにこっちも予想通りではあるんだけど」

「ニャッハ~! 見事に同じクラスにまとめられちゃったニャ~、ウチと正樹と忍者とそれともう一人も!」


 俺の隣のカルナが伸びをする。

 問題児を一か所に集めておけということだろうか。ふと見渡せば、クラスにはモヒカンや左右で髪の色が違うやつなど一筋縄ではいかなさそうなやつらばかりだった。

 教室の扉が開き、ジャージを着た女教師が早足で入ってくる。


「おら~、無駄話してんじゃねぇ席につけ。てめぇら高校初めてのホームルーム始めるぞ」


 肩に出席簿をトントンと当てながら、教壇に立つ。


 〇


「好きです、付き合ってください!」


 高校生活最初のホームルームが終わると、すぐにクラスメイトの女子に校舎裏に呼びだされて告白されてしまう。


「……んなこと言われても、互いにまだ知らないし」

「ダメですか?」

「うん、互いに知ってから……」

「じゃあ、連絡先教えてください!」


 そういって携帯を突き出され、俺は苦笑しながら連絡先を交換した。

 女の子は顔を赤くして、


「これから恋人になれるチャンスがあるんだから、何度だって告白します」

「あ、ああ……そう」


 嬉しそうに女の子は去っていった。

 何だろうな、望んでいたはずの高校生活なのに……なぜか心に穴が開いたような感覚だ。


 あの娘に会いたい。


 銀髪で自信満々で、優しくて寂しがりやな。

 トボトボと正面入口へ回る。


「あ、新藤正樹君よ!」

「あの『魅力』が限界突破してる⁉」

「正樹君だわ!」


 入り口前に溜まっていた女子の集団が一斉に俺の方を見る。

「やば……」


「「「「「正樹くぅ~ん!」」」」」


 一斉に俺目がけて女の子がかけてくる。

 背を向けてダッシュで逃げ出した。

 甘く見ていた。

 限界突破した『魅力』というのはここまで人を引き付けるのか!

 入学式で上がったテンションと、俺と同じように魅力的な異性の彼氏を高校で得たいという邪な考えが合わさりこんな異常事態が起きていると容易に推測できるが。

 段々女子と俺の距離が詰められ、もう一歩で手が届くという距離まで近づかれる。

 その時、


「あれ? 正樹君?」

「どこに行ったの?」


 追いかけていた女の子が、目の前にいる俺の姿を見失っていた。

 どうしてと疑問に思った瞬間、俺は横から誰かに手を握られた。


「え?」

「飛ぶぞ」


 膝に腕を添えられそのまま持ち上げられた。


 〇


「わたたたた! うわあああああ!」


 お姫様抱っこをされて、空高くまで舞い上がった。

 はるか下に街が見えるほど空高くまで俺を抱えた女子は跳躍したのだ。

 持ち上げているのは銀色の髪をし、真紅の瞳を持つ女生徒で、

 俺は、その顔を、良く知っていた。


「ミラ……」

「久しいな。正樹」


 ミラ・イゼット・サタンはニカッと笑いかけた。

 彼女の姿は以前に見た姿のどれとも違った。魔王の時のように髪が赤く、妙齢の女性の姿もなく、幼女の姿でもない、思春期のような、俺と同じくらいの十五歳ぐらいの外見になっていた。

 そして、


「お前……今までどうして……」

「レベル上げをしておったんじゃ。この学校に通うためにな。何せ、《ジンコード》を使った身、レベルゼロでは少しの事で死んでしまうかもしれんかったからな」

「レベル上げって、お前、どうして俺の前に姿を現さなかったんだよ」

「現わしてはおったぞ。ただ、我も話しかけんし、お主も気が付かんかっただけだ」


 そうか、こいつの『魅力』は0。

 その特性で、本人が気配を消していれば誰にも気が付かれない特殊能力、


「フルステルスチャーミングロストモード(仮)か」

「その名称は却下だといったじゃろうが」


 ミラは俺をジト目で見る。もはやそのジト目が懐かしい。


「現わしてはいたって、そういえばお前、その制服!」


 十五歳ぐらいの外見をしたミラは由比ガ浜西崎高校の制服に身を包んでいた。


「それどうやって……もしかして」

「ああ、私とお主はクラスメイトじゃ。まぁ、気づかんと思ったが、やはり気が付かんかったか。先の時間、同じ教室の中にいたというのに」


 ミラは頬を膨らませた。


「もしかして、《ジンコード》で」

「ああ、世界を改変するアイテムをほんの些細なことに使わせてもらった。おぬしら以外の生き物から私が魔王として君臨した一日の記憶を消し、我の戸籍を作り、この学校のデータを改ざんし、我を生徒としてこの学校に組み込ませた。世界を全て書き換えられるというのに、我がしたのはその程度の事じゃ」

「その程度って……」


 だけど、確かに些細なことだった。

 あの時、ミラは世界を新しく作り変えることもできたのだから。

 やっぱりこいつは優しくて、寂しがり屋の魔王だ。


「それで、どうじゃ? 高校デビューは、望むとおりになったか?」

「いや、本当にいてほしいやつがいなかったから、『魅力―999』なんて邪魔なだけだったよ」

「そうか、ふむ、そりゃ困ったの。じゃあ、邪魔になるのなら、我とステータスを交換するか。ちょうど私の『魅力』は0。お主がいらんというのなら交換してやってもいいが?」


 ニヤニヤと笑って、ミラは左手にはめていた『エクスチェンジリング』を見せつける。


「これは超レアアイテムでな、一週間一緒にいればステータスを交換できるという優れものじゃ。これで共に過ごし、我とステータスを交換するか?」


 ミラは初めて会った時と同じような笑みを俺に向けた。


「ああ、それもいいかもな。でも、今は……」


 俺はゆっくりと彼女のへ顔を近づけた。


「傍にお前がいれば、それでいい」

 鎌倉の街のはるか上空の空の上。

 俺の希望に満ちた高校生活はここから始まるのだ。



                                      END

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ゲームと融合した現実世界で『RPGステータス』カンストの勇者が『恋愛シミュレーション』カンストの魔王と出会い、ステータスを入れ替えてラブコメしようとする話。 あおき りゅうま @hardness10

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