第31話 ジュリオ・ドラクリオット
「正樹……待ってたぜぇ……!」
ジュリオが江の島をバックに舌なめずりをする。
ジュリオの眼は……赤くなかった。
「ジュリオ、お前正気じゃないか。何しにこんなところにいる?」
「あん? まぁ確かに魔族が街で暴れまわってたが、俺には関係ねぇ。魔王が俺に個々にいたらお前との決着をつけさせてやるって聞いたから、待ってただけだ」
「ミラが?」
あいつなんのつもりだ?
「つーか、お前なんでタッパーなんか持ってんだ?」
「聞くな」
俺と吹雪はさっと目を逸らした。
流石に突っ込むか、俺の手に握られたタッパーに。
最終決戦に向かう男が持っていていいものじゃないからな。ただ、この中のものは決戦に必要なキーアイテムなのだが。
答えようとしない俺たちにジュリオは、察してくれてそれ以上タッパーについては聞かなかった。
「だが、おあつらえ向きじゃねぇか。空は闇に包まれ、魔王がいる玉座を守る俺。王のもとに辿り着こうとする勇者。決戦の舞台としてこれ以上の舞台はねぇ。あの娘には感謝しているよ」
ジュリオがゆっくりと体を落とす。
「あの娘? ジュリオ、魔王の正体を知ってるのか?」
テレビで見た魔王は全盛期の赤髪、長身の女性となった姿だった。とても、「あの娘」と呼べるような外見ではなかったが。
「ああ、お前が連れてた女の子だろ? 俺とカルナの前には最初は前に会った子供の格好できたからな」
「どうして……それでお前らに協力を要請したってことか?」
「ああ、カルナには第一の障害、俺には最後の障害としてお前の前に立ちはだかれってな」
「………そういうことか」
簡単にクリアさせる気はなかったってことか。
「さぁ、やろうぜ正樹。やっと俺の力がお前に届くのか……試させてもらうぞ、『選ばれし者』!」
ジュリオの体から湯気が立ち上り、周囲の空気が歪んでいく。龍人族は戦闘になると、全身の体温を上げ、体を活性化させるという。ジュリオは本気というわけか。
「くっ…………」
やばい、こいつ俺が魔王とステータス交換しているということを知らない。あまりにもジュリオがやる気満々なのでこっちも言うタイミングを逃してしまった。
「吹雪……悪い、今は空気を読まないでくれ」
「わかっている。拙者がジュリオの気を引く。その隙に貴殿は魔王の元へ行け」
吹雪が小太刀を構え、ゆっくりとジュリオへと向かっていく。
「あん?」
「ジュリオ、本当に悪いな! 今お前と戦える状況でも、状態でもないんだ!」
「ちょちょちょ、お前一体つになったら俺とやってくれるんだよ!」
がっくりとジュリオは肩を落として俯き、
「……いい加減にしろ、戦えェ、新藤!」
飛び上がり、俺へ牙を向けた。
「シッ――――!」
吹雪がすかさず、俺とジュリオの間に割り込み、ジュリオの仕掛けた跳び蹴りを小太刀で防ぐ。
「邪魔するなァ! 忍者ァァァ!」
「すまんな、だが、いいだろう? ゲームセンターの時の拙者と貴殿の決着もついてはいないぞ? あの時の勝利報酬は覚えているか?」
「勝った方が……正樹と戦う」
「その通りだ! 『火遁 業火戒砲』!」
忍者の口から巨大な火球が飛び出し、ジュリオを爆炎が包んだ。
「ぐあああああ‼」
「今だ、行け! ご主人様!」
「すまん! ありがとう吹雪!」
「ああ、ジュリオを倒して、貴殿と最終決着だ!」
勝った方が俺と戦うって、お前も戦うつもりなの?
最後の最後でもボケるのやめてくれる?
「……ああ、じゃあ、行ってくる!」
俺は言葉をぐっと飲みこんで、タワーへの道を急いだ。
「チ、しゃあねぇ‼ 勇者の前にてめぇからだ忍者! この魔族の中でも上位種である龍人族にかなうと思うのならかかって来い!」
「ブリージア・エレキカイザー。参る!」
背中に響く剣戟の音を聞きながら、俺はひた走った。
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