第27話 鎌倉に辿り着く正樹

 テレビの報道を見て、俺は急いで鎌倉に戻った。


「どういうことだよ……これは………」


 電車はまだ辛うじて動いていたので、鎌倉にはすぐ着いた。だが、そこに広がっている光景に俺は目を疑った。

 空が闇に染まっていた。まだ朝だというのに、暗く深い闇に染まっていた。

 駅から少し歩き、朝だというのに街灯の明かりを頼って家を目指す。

 おかしい。ここも人の通りが少ない。

朝の鎌倉駅前なら、もっと人がいるはずだ。ゼロではないが、片手で数えるほどしか周りにいない。

それに並んでいる店や施設の窓がところどころ割られていた。


「ガアアアアアア!」

「きゃあああああ!」


 遠くで悲鳴が上がった。

 女の声だった。自分に何ができるのか、そんなことも考えずに急いで向かった。


「藤崎⁉」


 女の子が、藤崎めくりが襲われていた。

 襲い掛かっているのは天使の羽が生えた天使族の少女、見覚えがある、同じクラスだったやつ。名前は……、


「どうしたのウェンディ⁉ しっかりして! ウェンディ!」

「ガアアアアアアア!」


 ウェンディは目を赤く輝かせ、めくりに牙を向けて食らいつこうとしていた。


「やめろ!」


 近くにあったゴミ箱を投げる。


「ガアア! アア?」


 ウェンディの顔に当たったが、特にダメージはなさそうだ。

 だが、隙はできた。


「藤崎! 逃げるぞ!」

「正樹君⁉」


 ウェンディが状況処理をしているうちにめくりの手を取り、その場から逃げ出した。


 〇


 全力でめくりの手を引いて逃げるが、ミラとステータスを交換した俺はレベル5にまで弱体化している。

体力がなくてすぐ息も上がってしまったが、ウェンディが追ってくる気配はない。


「良かった、撒けたみたいだ……藤崎、一体何があったんだ?」

「わからないよ。魔王っていう人の放送を聞いた後、ウェンディの様子がおかしくなって、家に連れて行っていって上げていたらいきなり……」


 めくりが手で顔を覆う。


「それが魔王の力だ。魔族であれば、皆王に従い、王の敵を排除しようとする。そういう一種の催眠のようなものにかかるのだ。王がそこにいるだけでな」


 上方から声が聞こえた。


「吹雪さん⁉」


 街灯の上に立っている忍者に気が付き、めくりが驚く。


「吹雪……どうしてここ……そこに?」


 なぜか街灯の上に立っていた雷亭吹雪が飛び降りる。


「気にするな。それより、どうするつもりだ、ご主人様。結局魔王は復活したぞ? 拙者が危惧したように、魔族は魔王がいるだけで暴走してしまったぞ? お前はどう責任を取るつもりだ?」


 こいつ今、俺のことご主人様って言ったけど、突っ込んでたら話が進まないので今はスルーしよう。


「想定していた。だけど、しないと思っていた。俺が甘かった。責任はとるさ。家を壊されて、親も殺されかけたお前にはいくら謝っても許されないと思うけど……」

「それはどうでもいい。どうせ最近帰っておらん家だったし、親父など、どうせ殺しても死なん」


 自分の家の事を吐き捨てるように言う吹雪。


「えぇ……俺が言うのもなんだけど、親とか家をもっと大切にしろよ……」


 つーか、こいつ、自分の父親の事、「父上」じゃなくて「親父」と呼ぶのか……勇者の家庭って色々複雑なのかな……忍者装束は反抗心の現れ何だろうか……。


「家に帰っていないのならどこに住んでるんだよ?」

「む? 少なくともこの一週間はずっと貴殿の家にいたぞ?」

「俺んちにいたの⁉ え? 俺んちに住んでたの?」

「ああ、ご主人様の部屋を親御さんが快く貸してくれて……」

「部屋を⁉ 俺の部屋を⁉」

「本棚の裏はとても参考になった」

「いやあああああああああ⁉」


 本棚の裏の扉に隠している俺の秘蔵コレクションが、この変態に見られてしまった!


「嘘、マジで⁉ どうして俺の家に住むことになったの?」

「本当だよ……私が正樹君の家に行ったら吹雪さんが出迎えてくれて……」

 藤崎が横から証言する。

「藤崎が俺の家で吹雪と会ったの⁉ だから、さっき吹雪見て驚いてたんだ!」

「うん、『自分は正樹様の奴隷になったから』って言ってて……何か事情があるんだろうなって……」

「この変態クソ忍者がァァァァァ‼」


 ご主人様ってそういうことか!

 この女、俺に負けてから奴隷として俺の家に住み込んでたのか。

俺の好きだった女の子に何言って……っていうか絶対これ俺の親にも言ってるだろ!


「何お前⁉ 俺に勝てなかったからっていって、俺のコミュニティを破壊しにかかるの⁉ 何なのお前⁉ 悪魔なの⁉」

「勇者の娘であり、忍者だ」

「知ってるよ!」


 キメ顔すんな! 鬱陶しい!


「で、どうすると聞いている。 魔王を倒せる人間などここにはもはやおらん。親父は倒され、ご主人様は力を失った。拙者も魂の刀と聖剣を砕かれては魔王の力にはとても及ばないだろう。手詰まりだが、貴殿に索はあるのか?」

「手詰まり?」


 あぁ、これがRPGゲームだったら、確かに手詰まりかもしれない。自分は弱体化し、敵に勝てる仲間もいない。このまま魔王に世界を支配されてしまうだろう。

 だけど……、


「最初から、この世界はRPGゲームじゃないんだよ。だから、敵の力が強かろうが、レベル差がけた外れにあろうが、関係ない」

「……手は、あるというのだな?」

「何度も言っているだろ? あいつが世界を滅ぼそうとしたら、俺が口説き堕として諦めさせてやるって」


 そう、この世界は、俺が今からやるゲームはRPGではなく、シミュレーションゲーム。そして、そのステータスは……、


「俺の『魅力』は999だぞ。俺に落とせない女はいない」


 吹雪とめくりが顔を見合わせた。


「何度も……」

「言ってる?」

「…………」


 そうだった……これミラと二人きりの時しか言ってないんだった。

 恥ずかしさで俺はしばらくその場から動けなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る