第26話 悲劇

 いつものように、かび臭いシーツの上で目を開く。

 背中から感じるぬくもりはない。もうミラは起き上がっているのだろうか。


「ミラ?」


 起き上がってミラの姿を探すが、部屋の中にミラはいない。


「⁉ 『ポーズ』!」


 いないということは、指輪の範囲外にいるというわけで……、

 ステータスを確認する。


 シンドウマサキ―『文系―999』『理系―999『学力―999』『芸術―999』『スポーツ―999』『雑学―999』『トーク―999』『ファッション―999』『魅力―999』……。


 近くにミラがいないのに、『魅力』が999の状態のままだ。

 つまりは、『エクスチェンジリング』の条件をクリアしたということだ。


「そうか、そう言うことか」


 やっぱり、傍にいる理由がなくなったらいらなくなったということか。

 寂しいが、悲しいが、予想はしていたことだ。彼女は魔王なのだ。人間と一緒にいるわけには行かない。

 だけど、胸に感情がこみ上げてくる。それが何かわからず、俺は拳を握りしめて、涙をこらえた。


「!」


 そして、外に出ようと決意した。


 〇


 いつも始まっているはずの工事の音が全くせず、疑問に思いながらも念のため隠れながら魔王の城から外に出る。

 空の天気はいつもと変わらず黒い暗雲が立ち込めている。

 魔都・新宿は人間と魔族が共存し始めてからは以前と同じように人通りが激しい街なのだが、今日に限って人通りがまばらだ。

 不思議に思ってさまよっていると、巨大テレビがある交差点に辿り着く。


『先ほど、魔力探知衛星から映し出された映像です。この映像が記録され瞬間、衛星は撃ち落とされています。繰り返します。先ほど魔力探知衛星が撃ち落とされました』


 緊迫したアナウンサーの声と共に画面に映し出されたのは解像度の悪いぼやけた画像。

 だが、こちらを睨めつける真紅の瞳に、炎のようになびく髪は見間違うはずはなかった。


『そして、その後、勇者として知られる、マルス・エレキカイザーさんの自宅が何者かに襲撃され、マルス・エレキカイザーさんは今も病院におり、意識不明の重体です』


 テレビの画面が切り替わり、携帯で撮られた動画に変わる。

 燃え盛り、崩れた屋敷が映り、がれきの上に赤い髪の女が立っている。漆黒のマントに身を包み、真紅の瞳はカメラに向けられている。

 彼女の足元には金髪のスーツの男性が血まみれで転がっていた。短いその金髪には見覚えがあった。

 真紅の髪と瞳を持つ女が口を開く。


『我が名はミラ・イゼット・サタン! この世界を支配する魔王にして唯一無二の天上の一族、サタン家十七代目当主である‼ 人の世で辛酸をなめ続けた魔の者たちよ‼ 我は力を取り戻し、立ち上がった! 苦渋の時間は終わったのだ‼ 同胞たちよ! 我が意に従い、再びこの世界を闇に包め‼』


 魔王、ミラが宣言すると、テレビを見ていた魔族たちは腕を振り上げた。


「オオオオオオオオオオオッッッ‼」

「やばい、逃げろ!」


 一緒に見ていた人間たちは吠える魔族から逃げる。

魔族たちは人間たちが逃げていることを知ってか知らずか、無視してミラが映るテレビにくぎ付けになっていた。

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