第28話 罪
「魔王の居場所? 知らんよ?」
たどり着けはクリアだと言うとるのに、忍者は魔王の現在地を全く把握できていなかった。
携帯で吹雪が持てるだけの伝手を頼って魔王の居場所を探ろうとしたが、警察も、昔の勇者の仲間も位置を把握できていなかった。
その最後の砦である千の呪文を操る魔法使いという勇者の元仲間に電話しているが……、
「あ、そうですか! 魔王の場所が分かりましたか! ありがとうにござる!」
「!」
携帯を耳に当てながら忍者がペコペコとお辞儀をしている。
「わかったのか? 魔王が今どこにいるのか」
「ああ、親父の仲間の魔法使いが探索魔法で、ご主人様が魔王を探すときに使っていたものと同じやつだ。あれで魔王の位置を特定した」
「おぉ!」
さすが勇者の仲間。高等魔法ももちろん習得済みか。
「で、場所は?」
「鎌倉市内だ」
この街にいるのか……てっきり魔王の城へと帰っていると思ったが。
「流石だ。じゃあ、案内してくれ。魔王がいる場所へ」
「む? いや、それだけしかわからんぞ?」
「………いや、俺が前使ったやつと同じ魔法使ったんなら。正確にどこにいるのかわかるだろ」
「なんかジャミングがかかっているようでな。この鎌倉市内だというのはわかったが、それ以上範囲は絞り込めなかったらしい」
そう言いながら頭上の暗雲をさす吹雪。
あれが原因で探索魔法に正確性がなくなってしまったと言いたげだな。
「……そう、まぁ、ありがとう。忍者」
場所はとりあえず絞り込めたんだから、一応感謝しておく。
「うむ!」
どや顔で頷く忍者。
だが、世界中を探すよりも確かにこの市内だけというのは範囲を絞り込めてはいるのだが、それでも広い。
とても、人間一人を見つけられる範囲じゃないのだが……。
「あ」
「どうした? 何か思いついたのか?」
いや、ある。
魔王を見つける手が……ただ、その手段が使えるのかどうか、かなり厳しいが。
「藤崎」
「え?」
自分が会話に加わることはないだろうと気を抜いていためくりがビクっと肩を震わせた。
「お前の携帯に、カルナのアドレスってまだ残ってる?」
〇
めくりにカルナに電話をかけてもらい、海岸で落ち合う約束を取り付けた。
良かった。カルナは正気を失ってなかった。魔王の力で正気を失っていたとしたら、それだけでもう作戦はアウトだった。
「カルナがどうしたというのだ? なぜあの子が魔王攻略に必要なる?」
「あいつは、『魅力』が低い人間の居場所を臭いで探知できる、それもどんな距離であろうとも、『魅力―0』ほど低い人間であれば嗅ぎつけられる。お前に襲撃された後、外にも全く出ずに引きこもっていた俺たちの居場所をカルナは探し当てた。ミラの『魅力』は俺と入れ替わって0。だから、カルナの協力が得られれば」
「魔王の居場所に行ける……なるほど、カルナにそんな能力があったとは」
感心したように隣を歩く吹雪が頷く。
まぁ、協力が得られればの話なのだが……。
「藤崎、カルナはどんな様子だった? ウェンディみたいに理性を失ったりしてなかったのか?」
めくりに確認すると、電話の時の様子を思いだすように口を尖らせた。
「普通だったと思うけど……口数は少なくて、怒ってはいた。まぁ、それは私が電話したからだけど、よく電話をかけてこられたなって感じで。多分、正樹君とか吹雪さんが重要な話があるって言わなかったら会ってくれなかった」
「そうか、暴走していなかったのか、良かった」
カルナがめくりに会うことを頑なに拒否してもアウトだった。めくりを嫌っている様子だったから、すぐに切られる可能性ももちろんあった。
でも、理性を失っていなかったのは本当に良かった。しばらく街を歩いて気が付いたのだが、正気のままの魔族も何人かいた。戸惑った様子で、街を歩き状況を把握しようとしている者や、だれかれ構わず襲い掛かる者を止めようとする者もいた。
「暴走した魔族は目が赤くなるみたいだな」
ウェンディのように、人に襲い掛かっていた魔族は目が赤く輝いていた。まるでミラのように。
「ウェンディの事はごめん」
「どうして正樹君が謝るの?」
「あいつがああなったのは俺のせいでもあるんだ。ミラ、魔王に俺の『魔法』をあげてしまったから、あいつが復活して、魔族の王の力で魔族がまたモンスター化したんだ」
「……どういうこと?」
俺の言葉がよくわかっていないようで、めくりが眉を寄せる。
「言葉通りの意味だ。ご主人様は魔王とステータスを交換したのだ。魔王のステータス『魅力―999』につられて、こやつは『魔法―999』を捨てたとそいうことだ」
初めてそのことをきいためくりは驚いて目を見開いた。彼女がこのことを聞くのは初めてか。
そのきっかけであるめくりにはなるべく知られたくはなかったのだが。
「その前に忍者。その雑な奴隷設定やめろ。ご主人様って呼び方変えてるだけで全然俺のこと敬ってねぇじゃねぇか。喋る度に突っ込みどころ作るのやめてくれる?」
「お叱りを受けてしまった。すまない、キャラ設定をもっと練ることにするよ」
「いや、設定を固めろと言っているんじゃない。投げ捨てろと言っているんだ」
忍者に構うと話がどんどん脱線する。
「それって、もしかして、私が正樹君を振ったから……」
「そうじゃない! いや、そうなんだけども……『魔法』をミラに渡そうと決めたのは俺の意思で……こうなるとは思っていなかったわけじゃない。だけど、なってしまった以上責任はとる。約束する。魔王が世界を闇に包んだまま、次の朝は迎えさせない」
「正樹君……」
めくりは友達を豪送させる原因を作った俺を責めることなく、手を胸に当てて俯いた。
「わかった、手伝うよ。正樹君が魔王を倒すの。カルナは私が説得する。向き合わなきゃいけないんだ。私も、カルナと」
「……そういうや、詳しく聞いてなかったんだけど、カルナと何があったんだ?」
一年の頃、カルナ、めくり、ジュリオは親友のような関係だったと聞いた。そして、めくりがカルナを『魅力』が低いから見捨てたという件があったから絶交状態になったと聞いたが……、
「正樹君、今はもう私のこと好きじゃないでしょ?」
「え?」
唐突にフッと力を抜いた笑みを向け、尋ねてきた。
「私、ひどい女なんだ。あの時は、人間では私しか友達がいなかったカルナをいじめの手から守ってあげなくて。『魅力』が低いからって頑なに突っぱねて……」
「それが原因でカルナは転校したのか?」
「そう……私ね、中学上がるときにはもう『魅力』が100を超えてて、自慢じゃないけど、男の子はみんな私に告白してきたの」
「ふ、ふぅ~ん……」
中一の時点で『魅力』が100突破か……穏やかじゃない。
確かに藤崎めくりの可愛さはうちの中学では飛びぬけていた。
「皆告白するから面倒くさくなってね。ルールを作ったの。自分と同じかそれ以上の『魅力』を持ってないと付き合わないって」
そこからか。それが原因で、あの日、俺は振られたのか。
「やっぱり『魅力』が低い人は魅力的に見えなくてね。そんなルールを作っちゃったんだけど、そのせいで、私はカルナを傷つけた」
「何があったんだ?」
「その当時は魔族と人間が共存してまだ全然日が浅いころでね。魔王が倒されて魔族が力を失って、人間がまだ魔族に反感を持ってた。そんな時にカルナたちが人間と同じ教室で腑風に授業を受けてられると思う?」
「いじめか」
見捨てられた、そうカルナは言っていた。
「そう。それでカルナやジュリオはいじめられた。ジュリオは心も体も強かったから、耐えられたけど、カルナはずっと私に手を伸ばし続けてた。最初はかばっていたけど、段々と私もいじめられるようになって。私は、体も心も強くないから……それで」
「言っちゃったわけだな。『魅力』が低い人間とは友達じゃないって」
めくりは目を閉じ頷いた。
「私はカルナに許してもらいたい。まずそこから始めなきゃいけなかったんだ。あの桜の木の下で告白してきた正樹君を見て、そう思った。私が振った後、すごく寂しい目をして私を見てた。あんな反応する人、初めてだった。みんな本気じゃなくて、チャレンジみたいに告白してきたから、私は人を傷つけるのに慣れちゃってたんだな……変わってなかった、中学一年生のころから何も……だから」
ようやく砂浜が見えてきた。
波うち寄せる砂の上、空が暗く、ぼんやりとだが人影が一つある。
「カルナ……」
茶色い毛並みのケットシーが俺たちを見つめていた。
彼女の眼は赤く爛々と輝いていた。
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