第19話 追走劇の結末と暗雲
背を向け、全力で吹雪から逃げた。
「あ、待て! 拙者から逃げられると思うのか! 戦え!」
後ろから声を上げながら追ってくる吹雪。
「戦えるわけねぇだろ、こんな住宅街で! 常識的に考えろ!」
「正論を……さっきのやり取りは何だったのだ⁉」
「警告だけに決まってるだろ! 誰が本気で戦うか!」
「おい、もう忍者は後ろにおるぞ!」
「何⁉」
が、吹雪の足は速く、すぐに追いつかれた。
俺の『速さ』は999とカンストしているはずなのに!
「だからと言って俺には力が……ってあれ⁉」
「ぐえ!」
しかも、追いついた吹雪にいとも簡単に組み伏せられてしまった。俺の下敷きになった魔王が蛙のような悲鳴を上げる。
こいつ滅茶苦茶強ええ⁉ 嘘だろ⁉
俺の眼前に、突き出された刀が
「諦めろ、おとなしく魔王を渡せ、渡さなければ怪我をするぞ」
「試してみろよ。俺の『防御』は999。並大抵の攻撃じゃ俺に傷一つつけられないぜ」
「だから、貴殿はステータスを魔王と交換しているのだろう?」
「『魔法』だけな! ほかはカンストのままだ!」
吹雪の俺を見る目が険しくなる。
「本当に気が付いておらんのか?」
気が付いていない? なんのことだ? だけど、それを使う暇もないだろう。
俺の勝ちだ。
「あ~、そこの忍者、ちょっといいかな?」
頭上から男が俺たちに声をかける。
「まぁ、試すことなんてできないけどな。俺が闇雲に逃げたと思っていたのか?」
「……む?」
影が落ち、俺を抑えている吹雪の体が宙に浮く。
吹雪の体が二人の警官に両脇から担がれていた。
「え~……午後六時16分、殺人未容疑で現行犯逮捕。容疑者は雷亭吹雪。本名、ブリージア・エレキカイザー。いつものやつです」
「またお前か、雷亭吹雪! これで何回目だ! ほら立て! 君たち大丈夫?」
「な、正樹! 貴様謀ったな⁉」
吹雪が俺を組み伏せた場所は交番の真ん前。
警官の一人は吹雪の手に手錠をはめながらトランシーバーで報告し、もう一人は親切に俺たちに手を差し伸べていた。
「あ、大丈夫です、立てます」
体についた砂を払いながら立ち上がる。
「き、貴殿! 卑怯だぞ、新藤正樹! こら、魔王、勝負しろ!」
「はい、決闘未遂容疑追加」
「ち、違っ! 今のは……」
「ハイハイ、話は署の方でじっくりと聞くから、まったく痴漢だけでは飽き足らず通り魔まで……」
「違っ、違う~~~~~‼」
そのまま停めてあったパトカーに乗せられ、雷亭吹雪は悲しい断末魔を叫びながら連行されていった。
「大丈夫か、魔王?」
「あ、ああ……」
魔王は拍子抜けしたようなきょとんとしたような顔で遠ざかっていくパトカーを見つめ続けた。
〇
「いやぁ、災難だったね……新藤正樹君。雷亭吹雪に襲われるなんて」
警官に事情聴取をと言われ、俺とミラは交番内に案内され、吹雪に襲われた経緯を話していた。ミラが魔王と言うことを言うと面倒なことになりそうだったので、吹雪がミラが魔族とわかるといきなり襲い掛かったとでっち上げた。
「彼女はここらへんで有名な変質者でね。往来の場で服を脱いだり、魔族に決闘を挑んだりしてよく身柄を抑えられてるんだよ」
「そんな変態。何で野放しにしてるんですか?」
警察にはもっとちゃんと仕事してほしい。そんな危険人物を野に放ったままにしておくな。
「いやぁ、彼女の父親にも恩義があるし、彼女自身も厄介な魔族を討伐してくれたりして恩義があってね。多分、今回も警告で終わって出てくるよ」
ハハハと笑う警官。
仕事してくれ……まさか本当にあいつに帯刀許可を下ろしているんじゃないだろうな。
「ところで新藤君。実は君への用事もあって、君の家に後で伺おうと思ってたんだが……」
「え、俺に?」
そういって、警官は机の引き出しから、一枚の写真を手に戻ってきた。
「この女性とはどんな関係なのかな?」
警官が渡した画像に映っていたのは真紅の髪をなびかせる長身の女性。身にまとっているのはボロボロのローブ一つで……。
間違いなく元の姿に戻った全盛期の魔王だった。彼女の背後には俺の姿もある。
「あ、こ、この人は……」
ゴミ捨て場で俺とステータスを交換した直後、うかつにも魔法を使った場面が衛星から写真に撮られていたのだ。
気が付かれないように意識的に隣に座っているミラから視線を逸らす。
「詳しく知らないんですよ。俺は彼女が落としたものを届けただけで、赤の他人です」
そう、常識という落とし物を届けに行っただけだ。
魔法を使用すればこうやってちゃんと記録に残って、面倒なことになるという常識をな。
「そうか、知らないか。彼女はID登録がされてないようでね。記録されたステータスもどこの誰とも一致しなくて……」
そう、普通であればステータスも一緒に衛星は記録し、役所に登録されたデータを検索し、魔法を使った人間を特定する。
だけど、魔王はIDを登録していないはずだ。役所に行かなければできないからな。だから、ばれないはずなのだが……。
不安で背中から汗が出る。警官に疑いの目を向けられるというのは本当に心臓に悪い。
警官はしばらくペンで頭を掻いた後、
「ごめんごめん、時間をとらせたね。知らないのなら仕方がない。まぁ、なにかの偶然だろう。そんなことあるわけないからね……使われた魔法は白魔法の身体強化系のものだし……」
ブツブツと言いながら、俺たちに手を振り、話しが終わったので俺とミラは席を立ち、交番を出た。
「ああ、やっぱりちょっと待って、新藤君」
が、すぐに呼び止められた。
「何ですか?」
「一応聞いておくけど、魔法使ったの君じゃないよね?」
「どうして俺が? 衛星からのデータで記録されてるんでしょう? あの女の人が使って、俺は目の前にいただけだって」
「そうなんだけどね。さっき言った一致したステータスの人間がいないっていうの、実は正確に言えば一致したステータスの人はいたんだ。ただ、性別が違うし、状況から見て違うだろうってことで外しただけで」
「性別が……?」
魔王のステータスは『魔法』だけ999になっていたはずだ。ほかはレベル5のまま、そんな奇特なステータスの男が世界にいるとは思えないが。
「この写真の、一緒に映っている君とステータスが全く同じだったんだ。新藤正樹君」
……まさか。
「『魔法』だけでしょう?」
「いや、『力』も『技』を含めた(RPG)ステータス、(シミュレーション)ステータス。それ以外の全部のステータスが彼女と一致している」
警官が心配そうに俺を見つめる。
「正樹君、彼女から何かされたんじゃないかい?」
隣の魔王を見下ろすと、彼女はただ黙って、前を向いていた。
その顔から、どんな感情も俺は読み取ることができなかった。
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