第17話 吹雪VS……え?

「おせーよ! お前ら、何やってたんだよ!」


「……いや、お前こそ何やってんだよ」


 俺と吹雪がゲームウェアに着替え終わり、フロアに戻るとジュリオが四つん這いになり、その上にミラが座っていた。


「おかえり、お兄ちゃん! ちょっと疲れたから椅子になってもらってたの」


 ミラが満面の笑みで言う。気づかれたら基本的にそのキャラで行くのね。


「お前はそれにホイホイ従ったのか?」

「なんか逆らえねぇんだよ」

「ドMかよ……引くわ」


 本当にこの龍人の知らなかった面というは知りたくなかった面ばかりだ。


「それより……ジュリオ、悪いが、最初は俺と吹雪で|る。いいな? お前はしばらく椅子になっていてくれ」

「あ?」

「申し訳ない。拙者、正樹と試合をしなければいけない理由ができた故、先にやらせてもらう」

「おい!」


 俺たちはフロアに戻る早々、中心の縁を挟んで向かい合い、戦闘態勢に入る。


「では」

「行くぞ!」

「待てっつーの!」


 吹雪へ突撃しようとする俺の肩をジュリオがつかんで引き止めた。


「イッタァ!」


 椅子が急に抜けたのでミラはひっくり返り、頭を強打して悶絶していた。


「何だよ⁉」

「何だはこっちのセリフだ。おいブリージア」

「何だ?」

「俺が先にこいつと戦う。横からしゃしゃり出てんじゃねぇよ」


 ジュリオは短刀を抜いて構える吹雪を睨みつける。


「……下がっていてくれジュリオ殿。我らがやるのは真剣勝負。お遊びの勝負は後日にしてくれ」

「お遊びィ?」


 ジュリオの顔に青筋がたつ。


「おい、正樹。てめーは場外に出てろ」


 ジュリオは俺の肩を掴む手に力を込めて俺を場外に投げ放った。


「俺が遊びで正樹に勝ちたいって思ってんのか? 上等じゃねぇか、かかって来いてめぇが最初だ」


 ジュリオが腰を落として戦闘態勢に入る。吹雪を睨みつけ、吹雪も俺からジュリオに標的を移し、睨み返す。


「おい、ジュリオ!」

「どうやら貴殿の琴線に触れる発言をしてしまったようだな。だが、撤回はしない。拙者は正樹と戦う義務がある。この者に身の程というものを教える義務がな。それでも、先に戦いたいというのなら、遊びではないというのなら、それを証明して見せろ」

「面白れぇ、勝った方が正樹と戦う、いいな!」

「…………」


 俺を置いて話が進んでいってしまった。ジュリオ……空気読んでくれ。

 二人は向かい合ったままにらみ合い、


「…………」

「…………」


 にらみ合い続ける。



「「審判!」」



「あ、はい、始め!」


 龍人族の青年と忍者の女の子が激突する。

 俺が審判というのならもっと早めに言ってくれ。


「『火遁かとん 業火戒砲ごうかかいほう』」

「『ドラゴン・ブレス』!」


 互いに口から炎を吐き合い、ぶつかり、豪炎をまき散らす。

 炎の打ち合いは決着がつかず、やがて出し尽くすと、接近し至近距離で組み合う。


「はあああああああ‼」

「ラアアアアアアア‼」


 吹雪の短刀から繰り出される斬撃が連続してジュリオを襲い、ジュリオはそれをかいくぐりつつ、吹雪へ向けて拳をはなっていく。

 二人の実力は拮抗していた。

 正直、ジュリオが勝ったら吹雪から話が聞けなくなってメリットが全くない。ので、負けていただきたいのだが。龍人族の身体能力の高さゆえか意外と善戦していた。

 それとも、本当に俺と戦うために日々鍛えていたのか。

 もしかしたら、吹雪に勝つ……それどころか、俺も負けるかもしれない。

 少しだけ集中し、二人の勝負の行く末を見守ることにした。


 〇


「はあああああああ‼」

「ラアアアアアアア‼」


「ふあ~あ」


 二人の真剣勝負を前にして、思わずあくびが出てしまった。


 長いよ。もう三十分以上は戦ってるよ。


「いつまでやってんのかね、この二人は……」

「zzz………」


 寝ているミラの髪を撫でる。

 余りにも長くて代わり映えのしない光景にミラは飽きてしまい背中を丸めて寝てしまっていた。

 このゲームの人気がないのが分かったような気がする。安全とゲームバランスを求めた末に、ステータスを調整し、拮抗するようにできているのだ。多分、元々ステータスのミラと俺が戦っても俺のステータスを極端に下げられて拮抗する。そのくせ、万が一にでも危険がないようにゲームウェアが過剰に攻撃を吸収している。だから、何回か致命的な場所に攻撃がヒットしたが、たいして『HP』は削られていなかった。


 プルルルルルルル!


 壁に設置された電話がなり、急いでとった。


『あと10分で終わりです。延長されますか?』

「あ~……ちょっと待ってください……延長する?」


 一応、戦ってる二人に聞いておく。


「「当然!」」


「あ、延長なしでお願いしま~す」


『わかりました~』


 ヒートアップしている二人の要望を俺は無視した。当然だ、こんなクソゲーに一万円も払えるか。

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